ああ、なるほど。アレが
声を弾ませて気合いをいれているあかりの視線の先、そこにいる男子生徒を見ながら思う。何て言うか先輩っぽくはないな、同級生でも通りそうだ。とは言え男子バドミントン部の中では結構上澄みらしいし、見た目よりかはスゴいんだろう。
毎日のようにあかりから猪股先輩の話を聞かされるけれど、さてホントはどんなもんなんだろうな。なにしろ、あのあかりだからなぁ。興味の持ち方が変わってると言うか、唐突と言うか。私としては、この子に振り回されるのにはなれてるから良いけど。
「……ん」
ふと視線を外して向こうを見やると、晴人のやつが先輩っぽい女子生徒に睨まれていた。確かあの人、新体操部の先輩だったかな。どうせあのバカの事だから、余計なこと言ったんだろう。これももう慣れた、中学は別だったけど私ら幼馴染みだから結構一緒にいる時間長いし。
まあ、せっかくの体育祭だ。大過なく終わってくれれば万々歳、ってね。
あかりが熱心にバドミントンをするのは、久し振りに見た気がする。少なくとも中学のうちは、あんまり本気ではなかった。好きだけど得意じゃないから、という事でエンジョイ勢だったのだ。私からしたらそこそこ出来る側だとは思うけど、でも本人的にはそうじゃないらしいし周りも大体そう言ってきた。
なにしろ三つ上のお兄さんが、とんでもない逸材なんだとか。三年連続でインターハイに出たとか、一人で佐知川の入学志願者数を倍増させたとかなんとか。この世代でバドミントンをしていれば、嫌でも聞くことになる程のビッグネーム。
だからあかりは、周りから余計な期待をされ続けていた。「兵藤」の姓を名乗る以上は兄並みに出来るんだろう、なんて無茶ぶりされて来たんだ。
幾度も落胆のため息を聞かされて尚、バドミントンを辞めようとはしなかったあかりの根性は見倣いたい。
楽しむために部活をして、皆でワイワイ盛り上がる。勝っても負けても、楽しかったねって笑いあう。ガチ勢が聞いたら怒るだろうけど、それがあかりのペースなんだ。
……そういう意味じゃあ、晴人とは正反対かな。お兄さんがエース級なのは同じだけど、あいつはとにかく張り合いたくて佐知川の内部進学蹴ってまでこっちに来た。どうしても本気でやりあいたい、勝ちたいと。そこまでギラギラする必要もないとは思うけど、まあ男の子だからねぇ。
しかし最近のあかりと来たら、わざわざ早起きして朝練に出たり遅くまで練習に参加したりと燃えている。……そもそもあの家、朝食前にランニングしたりするスポーツ一家なんだよね。お兄さんには及ばなくても、素養はあるんだよあかり。それをまた伸ばそうとしてるわけだし、もしかしたら一気に花開くかもなぁ。
その切っ掛けになったのが、あの先輩ってわけだ。
聞いた話が確かなら、あかりのお兄さんも「根性がある」と誉めていたらしい。それに性格はガラッパチだけど結構強い筈の晴人が競り負けるくらいだ、実力もあるだろう。それで顔も悪くないし気さくな性格っぽい、と言うかあの晴人がなついてる辺り中々の
でもなあ、世の中優良物件ってのはすぐ売れてしまうものなんだよね。私らより一つ上、一年長く生きてるんだからその分大人でもあると思う。多分ね。
彼女さんとか――いやまあ彼氏さんかもしれないけど――、一人や二人いても全然おかしくはない。
そうなると、あかりをどうしたもんかな。フリーであっても後輩なんか相手にしてくれないだろうけど、既に売約済みとなるとまた話が違う。フラれる前に終わってた、じゃ虚しすぎる。
でもあかりだし、その辺を探るとか難しい事は無理。
……やれやれここは一つ、気を遣ってやるか。大事な親友のためだ、多少恥かく程度の事は怖くない。
空気の読めない不躾な後輩を演じつつ、私は猪股先輩の前に出て口を開いた。
「――猪股先輩って、付き合ってる人とかいるんですか?」