後輩にどういう教育をしているんだ、あのバカは。
お昼を終えて休憩時間を持て余しながら、私は午前中の事を思い返して腹を立て直していた。
なにが『そりゃあのピチッとした格好には、目がいくって言うか……』だ、どんだけだよお前は。私は男子の目を惹きたくてレオタード着てるんじゃないぞ、必要だと思うから敢えてのレオタードだ。
大会とは違う服装で演技をすれば、その癖が身体に刻まれる。例えほんの僅かであろうとそれはノイズになって残り、演技の純正を損なう。どこまでも自分を研ぎ澄ませて本番に挑むには、それが邪魔になってしまう。……と、少なくとも私は思っている。まあ人に押し付けはしないけどさ。
こっちが真剣にやってんのに男ってのは、なんてね。
もし言ったのが大喜だったら、どうなってたかな。……どうもならないか、別に。からかわれて本気になるような、そんな間柄でもない。
――友達ではあるけど、さ。
お茶を飲み下しながら、改めて私は噛み締める。今こうやって友達に戻れたのは、奇跡みたいなものなのだと。
恋愛に縛られる人間関係は寂しい、か。それは確かだろうけど、私一人がそこを乗り越えても意味はなかった。
大喜も大喜で私との関係を修復しようとしてくれたから、どうにかなれたんだ。
もしどちらかがそうしなかったら、恋愛が終わったのだから今までの関係も無かったことにするべきだと思っていたなら。私たちは顔もあわせない赤の他人になり、そのまま忘れていくだけだったろう。
恋をした事も友達だった事も消え去って、別の人を好きになって、何年も経ってからにいなちゃんたちと「あんな事言ってたね」なんて笑う未来。それはそれで、幸せかもしれない。
でも私は、確信を持って言える。今この状態こそが、あの決断こそが
そしてだからこそ、匡くんの境遇を思うと複雑な気持ちになってしまう。思った以上に深かったというか、あんな流れで触れてよかったんだろうか。その上背中まで押して貰っておいて、私はなんの力にもなれやしない。
……そういや最近の匡くん、菖蒲と仲良さげなんだよね。ここは一肌脱ぐべきか、いやでもお節介すると逆に拗れてしまいそうだ。
て言うか私自身、菖蒲のお節介で泣く羽目になったし。どうせ終わっていた話だし恨みはしないけど、縁結びのキャンプファイアーに照らされながらフラレたのは多分私くらいなんだろう。
とは言えあのあとも盛大に泣いたり塞ぎ混んだり、あげくの果てに「男の子紹介して」とかほざいたり、結局菖蒲には迷惑かけっぱなしだ。これもいずれ、埋め合わせしないと。
ああ、全く。あれこれ悩んでしまうなあ、もう。
思考はやっぱり堂々巡り、考えは纏まらない。
体育祭もあと半日、赤組応援団のリーダーとして頑張らないといけない。悩んでる暇なんか、そんなには無いんだ。
「……ん」
ふと視線を向けたその先にいたのは、千夏先輩。そう言えば大喜も見かけなかったし、二人でお昼食べてたんだろうかな。付き合ってるのは隠したいと言ってたし言いふらしはしないけど、多少は気になる。
青組だから今は敵同士、少し前までは恋敵。でもこの先は、どうなることやら。
――そうだ、失わずに済んだのは友達だけじゃない。大喜との関係を捨ててしまっていたら、この人とも切れてたんだな。
思えば不思議なものだ、大喜がいなければきっと話すことさえなかっただろう。まあ大喜がいるからこそ、あんまり気安く接するわけには行かなかったんだけど。
これからはもうちょっと、グイグイ行ってみても良いか。せっかくだし、先輩が知らないであろう大喜の話をあれこれと教えてしまおう。本人は後でイヤな顔するだろうけど、それはそれでイジり甲斐がある。
見上げた空は澄み渡り、アオく広がっている。
さあ、行こう。立ち止まっていたら勿体無い、駆け抜けろ私。