武者震いを抑えるように拳を握り、頭の天辺から爪先まで一本の線を思い浮かべる。上から下まで気を巡らせ、足の先から沸き立った熱をまた頭へと戻していく。小周天だとかそういう集中方らしいけど、もう殆ど我流に近い。
練習は十二分、四肢のコンディションも良好。今の私はきっと、キングギドラより強い。
しかし今みたく思い通りに身体が動くのは、やはり気分が良い。考えてみれば中学に上がった頃から、何処か違和感はあった。そりゃあ私みたいなガラッパチの身体だって
イメージより半歩遠い、一瞬遅い。想定通りに動けない、身体が私に追い付いてくれない。もっと伸びろ、手も足も。これじゃあ足りない、もっともっと成長しろ。そうでなければ、私は――
最強だった私はいつしか、落ち始めていた。同じ時期に両親が不和を抱えだし、その悪影響もあって私はバスケへの興味さえ失っていった。
改めて思い返せば、悔しくて堪らない。何故あの程度で逃げ出した、無駄な時間を過ごした。もしそうなっていなければ、二年も足踏みをしていなければ。
ナツとの闘いを、最初で最後にしなくて済んだのに。
近所の男の子をからかいつつボールに触れる事はあっても、そんなのは只の遊び。本格的にバスケを再開する事なんかありえない、もう不可能だ。本気でそう思っていた私が、今や彩昌のエースになっている。
いや、層薄すぎないかうちの学校。経験者とは言えブランクのあるポンコツを、よくもまあ起用したもんだ。
そりゃまああれこれと陰口の一つも叩かれはしたが、強引に黙らせてやった。思えば栄明時代も、無理を力業で通してきたな。私と来たら変わってない。あの日と同じ、嫌味な女のままだ。当時と違う点と言えば、すっかり成長を終えた姿態くらい。身体髪膚全てが意識と完全に重なるようになり、一分のロスもなく動かせる。
きっと昔の私は、子供の身体のまま意識だけが成長していたのだ。だから辺り判定をミスり、体力も無駄にしていた。
完成した私はブランクさえ蹴り飛ばせるだろう、いや実際に蹴り飛ばして進んできた。
ただ、それでも。彩昌が栄明に勝てるか、はまだ未知数。
渚もナツも、みんなみんな昔よりずっと強くなった。ウインターカップでそれは実感している、そしてあそこから更に鍛練を重ねた連中はもっともっと強い筈だ。私がいた頃から栄明女子バスケ部と言えば、繊細に統率の取れたゴリラの群ではあったんだけどね。
ああ、本当に――惜しいな。インハイ予選の一回しか闘う機会がないなんて、寂しすぎる。このチームで闘う公式戦自体も数えるほど、いや下手したらこっちも次で終わりか。
楽しかったな、楽しかったね。終わりたくない、終わらせたくない。子供のワガママではあるけれど、心の底から思ってしまう。
名残惜しいけど、だからって手は抜かない。
闘って闘って、真っ白な灰も残らないほど闘って。
そして最後には、私が勝つ。絶対に負けてなんかやらない、これで最後なんだから。
インハイが終わったら、さすがに進路の方に集中だな。さすがに家の都合があるしモラトリアムしてはいられない、することは色々ある。
ああ、そうだ宗介も構ってやらないといけない。せっかく付き合ってんだ、たまには弄んでやろうかな。
でもあんま仲良くすると照れるし、妙なこと言ってくるからなぁ。ニーハイ穿いてくれだのなんだの、どっかヘンタイ臭いんだよあれは。まあ悪いやつでなし、度を越したら殴って直せば良い。どうせあれは頑丈なんだから、サンドバッグにするくらいでちょうど良いさ。
部活を引退して空いた時間をやりくりして、何処か出掛けてやっても良いな。お泊まりってわけにはいかないけど、多祥は恋人らしいこともしようじゃないか。
全く私の人生、楽しいったら無いな。次から次へと、退屈する暇も無い。
さてまずは目の前にある、インハイ予選へと繰り出そう。
ユニフォームに身を包んで立ち上がり、私は控え室から一歩踏み出していく。
さぁさぁ道を開けろ凡才共め、天才様のお通りだ。