全く余計な事をしてくれたもんだよ、口にはしないけど心底そう思う。
夢佳が復帰したと聞いてまだ数ヵ月、その僅かな期間でその名を轟かせてくれるんだから凄まじいな。
これが何年もバスケから遠ざかっていた人間の動きか、はっきり言って異常だ。こっちが中高と全力で駆け抜けてきた道程を、たっぷり休んだ上で追い付いて来るなんて。
やっぱりウサギとカメは嘘だったんだな、ウサギが本気になれば遅れなんかすぐに取り戻せてしまう。怠けたまま動かない奴なんていないんだ、努力はみんながしている。状況を分けるのは結局、才能の差だ。
もし夢佳がいなければ、ここまで苦戦したりはしてない。憚りながら栄明は去年インターハイにも出たんだ、この地区では競れる相手さえ少ない。籠原ならともかく、去年はベスト8にも入らなかった彩昌とやってこんなに疲弊するなんて。
紛れもなく夢佳は天才で、私たちはそうじゃない。悔しいけれどそれは事実で、覆せない。
でもそれ以上に、――楽しいったら無いな。なにせかつての盟友と真剣勝負だ、燃えないわけがない。
向こうがどう感じてるかは知らないけどね、あの子そもそも無愛想だし。あのイヤミ大臣が素直に嬉しそうな顔してたら、それこそ異常だよ。楽しんではいるんだろうけど、さ。
だけどせっかくの四つ試合だ、負けてなんかやらない。
これがきっと、最後なんだから。
ウインターカップの後短い時間ではあるけど夢佳と話して、そりゃまあ呆気に取られたものだ。家の都合で内部進学出来なくなった、はまだ良い。バスケを辞めた理由があまりにも規格外で。
中学に入ってから伸び悩んでモチベーションも保てなくなった、ってそれは喧嘩売ってんのか。上級生に勝てない、全国トップじゃない、だから自分はもうダメだ、なんて。それでもアンタは同世代の誰よりも上手くて、この地区で木戸夢佳の名前を知らないバスケ部女子なんかいなかったのに。本当に人の気持ちがわからない女だよ、実際。
当時の私らはモブであり引き立て役、勝てば夢佳のお陰で負ければ足を引っ張った私らのせい。
その状態でよくもまあ、自己卑下なんか出来たものだ。
夢佳に本気で追い付けると信じていたのは多分、千夏さんだけだったんだろうな。
一直線に前だけ見て突き進み、どれだけ努力してもし足りない。努力の天才、天井知らずの研鑽家。ひたすら目標に挑み続けられる、才能の差を努力だけで埋めてしまう超人。
千夏もまた、夢佳と同じ人種だ。
私はそうじゃない、そうなれない。楽しみたい甘えたい、本気にはなるけど人生は賭けられない。その程度でしかない、間違っても主人公にはなれない女子バスケ部員A。
そんなのはもう、骨身に染みて分かっているんだ。
何度不甲斐なさを恥じただろう、弱さを噛み締めただろう。その全てを平らげ、捩じ伏せて今がある。
なにもかも出し尽くせ、一切合財ブチ撒けろ。正念場だ、死んでも戦え。今動かないなら、こんな身体はいらない。
その為に今、ここにいる。
プレッシャーを受けつつ千夏が放つシュート、それに呼応するように脚が駆け出していた。
私は夢佳のような才能はない、千夏ほどの努力もできない。
どうしようもなく凡人で、出来ることは限られている。
とは言えそれは、諦める口実にはならない。
凡人を舐めるなよ、天才ども。凡人には凡人の意地がある、私は何処までも喰らい付いてやる。
私はリングの縁をなぞり落ち行くボールを指先で弾き、強引に跳ね上げた。重力の定めを経ても勢いは死なず、そのままボールはゴールへと躍り込む。
信じていなかった訳じゃない、でも試合はこういうものだ。万一の為にリバウンドを狙うし、点差が付いても油断はしない。
それは千夏もわかっている、だからこそその表情には小さく安堵が浮かんでいた。
「――ガンガン打ってこ!」
そうだ、縮こまるな。打って打って打ちまくれ、外れたらこっちがフォローするさ。
バスケはチーム競技だ、アンタ一人では勝てない。だから私たちが支えてやる、出来る限りはやってやる。無茶はしないが無理はするから大丈夫。辛けりゃ頼れ、胸くらいなら貸してやる。
さあ、掛かってこい。私は、私たちは――強いぞ。覚悟しろ、この天才め。