違う。違う、違う。
こんなのは間違ってる。
そうじゃない。こんなんじゃない。
こんなのは納得いかない。
私はまだ、戦える。大丈夫だ、皆気遣うな。私はすぐに立ち上がれる。
そう思って声を張り上げようにも、口はまったく動かない。心臓が脈打つ度に足首から痛みが上がってきて、呼吸さえ儘ならない。
今は試合中、それも正念場。流れは
ここで気を抜けば一気に持っていかれる、押し切れ。全力で勝ちに行け。
キャプテンの私が足を止めてどうする。何故しゃがみこんでいる、立ち上がれ。指揮をしろ、声を上げろ。
やることはわかっている筈だ、いつまでも何処までも突き進め。この四肢はその為に、戦う為にあるんだ。
こんなのは許せない、認められない。
大喜くんが見ているのに、こんな――!
正直言って、彩昌がここまで来るとは思っていなかった。夢佳一人のワンマンチームで勝ち進むのは無理がある、チーム競技はそこまで甘くない。スタンドプレーの結果として出来上がるチームワークはつまり、全体のレベルが同じでなければ成立しない。
それでも去年二位を下して三回戦に来たのは、彩昌そのものが夢佳の存在で大きく押し上げられてきたからだろう。
まったく、いっそ誇らしくさえ思う。こんな天才と、かつては同じチームで切磋琢磨しあったのだから。
私たち栄明だって総合力で劣るとは思わない、結局はいつも通りの総力戦だ。一切合財賭けて、何もかも擲つ覚悟でぶつかるだけ。
勝っても負けても怨みっこなし、力を尽くして戦うのが私たちの流儀。
だから決着さえ付けられないまま、こんな形で終わりたくはない。
負けることさえ出来ず、無様にコートを去りたくない。
夢佳と戦えるのはきっと、これが最後。今は三回戦、負けた方は恐らくウインターカップに出られない。例え出場権があっても、そもそも冬まで引退せずにいられる保証がない。まさか大学バスケで決着、なんて不可能にも程がある。
ここで私たちは、全ての決着を付けるんだ。あの日の続きを果たすんだ。約束したじゃないか、こんな半端な終わり方があるものか。
さあ動け、立ち上がれ、走り出せ。止まっている暇なんか無い。試合を再開し、最後の最後までやりあおう。最後の瞬間まで、力の限りぶつかり合うんだ。
……でもいくら念じても手足は動かず、ただ痛みだけが鮮明になっていくだけ。
今動かないなら、こんな身体はいらないのに。
慟哭さえ口の中から出ていかず、私はただ無力さを噛み締める。
大喜くんはあの時、立ち上がった。あんなにも派手に転倒し、それでも鬼気迫る気合いで戦い抜いた。
私は知っている、それが毎日の鍛練の成果だと。
雨の日も風の日も朝早くから体育館に来て練習し続けた、その情熱が大喜くんを支えていた。そして笠原くんは言っていた、大喜くんは私に憧れて朝練を始めたと。
こんな私を見てくれる、憧れてくれる人がいた。それがどれほど、励みになったことか。
ならば私も、こんな程度で倒れていられない。先輩としての意地がある、諦める私なんか見てほしくない。恋をした相手として、私を好きになった事を悔やんでほしくない。
貴方が選んだ私はきっと、決して諦めない強い私なんだ。諦めない限り倒れない、倒れない限り死なない。死なない限り、諦めはしない。
そうあるべきだ、私はそうでなければならない。
それともこれは、罰なのだろうか。
あの時シャトルを失敬しなかったら。
一人で戦い続ける覚悟が出来ていたなら。
――大喜くんを、好きになったりしなかったら。
脇目も振らずただバスケだけを考えて生きていたら、こんな思いをしなかったのだろうか。
でもそうなっていたら、私はきっととっくに折れていた。夢佳とも二度と会わなかった、戦う気概を失っていた。
どうすれば良かったのか、どうなれば正解だったのか。
私にはもう、分からない。ひとつだけ確かなのは、これで全てが終わってしまったという事。
今さら考えても意味がない、悔やむ資格さえない。担架に乗せられた私はもう、コートには戻れないのだから。
遠ざかっていくざわめき、冷えていく身体。今ここで死んでしまえたら、どれほど楽だろう。
無意味な涙が頬を伝うのが嫌で、私は目を閉じた。