別に偶然でもないし事務的でも無いんだけど、向こうはどうとも思っていないんだろうな。
二人だけでこうして出歩くのは初めてだから、こっちとしては色々と考えることもあるのに。
まあパシりなんかさせられない、ってのも本心ではあるけどさ。学校によっては一年生は雑用専任で二年になってようやく練習の末席に混ぜてもらえる、なんて酷いとこもあるらしい。うちはそういうのは伝統的に無くて、どの部も基本緩い空気でやっている。でもそれを明確に言葉で定義したのは、多分西田部長が最初なんだろう。少なくともバドに関しては。
自分のことは自分でやって、余力があれば人を手伝う。一々学年とかでレギュラー枠を考えるより、実力次第でどんどん行けば良い。同じ部活にいるんだから仲良くやろうぜ、なんて。マネージャーに関しても、なんでもかんでも押し付けない。雑用したくて入部するやつなんかいないんだから、皆で楽しんでいこうと。
――まあその後『俺はこの通り、後輩思いで公平公正なかっこいい先輩だ。一年二年はなるべく多くの女子に、俺をアピールすること!』とか言い出して、針生先輩にヘッドロックされてたけどさ。
どんだけ餓えてるんだろうな、あれは。とは言えあの人の事だ、真面目になるのが照れ臭いってのが本音かな。優しさだの気遣いだのが簡単に伝わってしまったら、恥ずかしくてやってられないものだ。
俺としては、考えが隣にいる守屋マネに伝わっていないのが幸いでもあるのだけれど。
この人が好きなのは、俺じゃない。そうわかってはいても、余計な期待をしてしまう自分がいる。
懲りないものだ、それで――痛い目に遭った癖に。
サキと初めて会ったのはいつだったか、もう思い出せない。それくらい昔過ぎるのに、胸の傷跡は今も残り続ける。
小さい頃からずっと一緒、近所の連中に囃し立てられてもサキは笑ってた。だからそう、俺はサキも
それが単なる勘違いだなんて、考えたことすら無かった。
色気付き出した五年生の俺はあの日、サキに告白して……すげなく断られた。そういう目で見たこと無い、家族みたいな関係でいたい。そんな言葉で。
俺たちは確かに姉弟同然だった、でも俺は――そうなりたかった訳じゃない。いつか家族になるとしても、今はサキを愛する人として見たい。
何度も何度も、繰り返した。サキはそんな俺を気持ち悪がったりはせず、いつだって優しく諭してくれた。
無意味な時間に疲れ果て、泣く気さえしなくなって。そんな時に俺は、更なる追い撃ちを受けたのだ。
俺が知らない誰かと幸せそうな顔をして歩いているサキ。
俺と目が合って、照れ臭そうにはにかんで見せたサキ。
その誰かと二人で手を繋ぎ家へと入っていくサキ。
俺は蝶野さんにあの光景を「サキが幸せならそれで良い」と言ったけど、それは今だからこそ言える事だ。
どうして俺じゃないんだろう。俺はどうして、サキの弟扱いなんだろう。
俺でもよかったはずだ、俺が隣にいるべきだったはずだ。
狂おしい程悔しくて、血を吐く程自分を責めて。それでも当時の俺は、割りきれなかった。勝手に盛り上がって理想を押し付けて、まったくガキってのは始末に困る。
そして自分の思慮の浅さを思い知り、俺はスポーツに熱心でもないくせして栄明へと逃げ込んだんだ。
親に迷惑をかけようと小学校の友達を切り捨てようと、サキの隣にいる辛さには勝てなかったから。
やがて形だけ傷口は塞がったけど、いつまた血を流すかわかったもんじゃない。
そうなりたくないから、俺は一歩引き下がった。もう二度と変な勘違いをしたくはない、これ以上傷付くのは勘弁だ。
どうも守屋マネは多情多恨というか蛸足配線というか、男子との距離感が独特すぎる。そんなだから村岡たちが舞い上がっちゃうんだけど、それを俺から言っても仕方がないし黙っておく。面倒は御免だ。
そう言えばあのバレンタインから体育祭の間に、松岡先輩とは進展があったのだろうか。何となくイラついて借り物ついでに割り込んだりしたけど、あれは申し訳なかったかもな。
なんにせよ守屋マネが誰を好きであろうが誰と付き合おうが、それこそ俺がどうこう言える立場じゃないんだけど。
二人並んで歩きながら、俺はふと
守屋マネが松岡先輩と付き合ってるというのが勘違いで、だから俺の気持ちは今のままで問題ない。そんな都合の良い展開を。
……なんて考えていたのが、まさか伝わったんだろうか。守屋マネはなんかジト目でこっちを睨んできた。
「なんだよ」
「べ~っつにぃ~?」
ぷいっとむくれるその姿は、うちの妹くらいの年頃なら可愛いんだろうな。このサイズだと正直小憎らしいけど。なんだろうな、何か機嫌を損ねてしまったのかな。
まあ、良いか。別に何がどうなろうと、俺は関与しない。どうせなにも出来やしない、後ろから見守るだけ。
何処まで行っても、それが俺だから。