なるほどなるほど、ああいう子が好みだったのか。物心つく前からの付き合いだけど、きょーちゃんのそういう事は初めて知ったよ。
普段あんまり感情的にならないのに、「彼女じゃない」とかムキになっちゃってまあ。オトコノコだねぇ青春だねぇ。
正直羨ましいかもだし、それに安心した。日頃真面目な良い子過ぎるから、ああやって軽口叩きあえる相手がいないと破裂してしまってもおかしくない。でも学校も学年も違う私じゃ、その任はもう果たせそうもない。
良い相方が見つかったみたいで、良かった良かった。おねーちゃんも嬉しいよ。
肩の荷を下ろしたような心持ちで、きょーママとの買い物に戻る私。……なのだけれど。
「……ふむ」
なんとなく感じるこの奇妙なもやつきは、一体なんなんだろう。
思えばもう16年の縁、さすがに初対面の記憶はない。お互い様だろうけど。
家が隣で親同士が仲良くて、小さい頃からずっと一緒。親の関係がそのまま私たちに繋がるわけじゃない、性格的には温度差もあった。それでも嫌いになる程の事では無くて、今に至っている。
その私たちが少しだけギクシャクしたのは、あの時くらいかな。
中学に上がる少し前、きょーちゃんは私に告げた。『好きです』と。
嘘偽り無い気持ちを言えば若干引いた、というか呑み込めなかったのを覚えている。きょーちゃんは弟みたいなもので、お互い家族の一員だとさえ思えている関係。それなのに、どうしてそんな。
私だってきょーちゃんの事は、
それに当時私は先輩に告白されて付き合いたてホヤホヤ、まさかその状態で横から来るとは思うものか。
どうして良いか分からないまま、『そういう風に見られない』とフワフワした理由でその場を取り繕うのが精一杯。
全くそれだけでも気まずかったのに、彼を連れて家に入るところでハチ合わせしたりもしたなー……。お陰様でこっちまで気まずくなっちゃったっけ。
とは言え、だ。日にち薬とでも言うのか、しばらく経つとその気まずさも失せていった。
きょーちゃんはもう私にあんな事を言わなくなり、今まで通りに接してくれる。
それはとても良いことの筈で、なのに私は何処かで違和感を引き摺っている。きょーちゃんはちょっとだけ背伸びをしただけで、別に私じゃなくても良かった筈。人を好きになってみたい恋人という関係を知ってみたい、そういうオマセな好奇心から出た一言をいつまで弄る気だ私は。
せっかくきょーちゃんに春が来たんだから、祝福してあげたいのに。
――そこまで考えて、漸く思い至る。ああ、そうか。私はきっと、寂しいんだ。きょーちゃんがいつの間にか大人になって、私が知らない面をどんどん増やしていくのが。
ついこの間まではいつも隣にいる小さな男の子だったのに、気が付けば一緒に過ごす時間はずいぶん短くなった。学校が違うのは勿論きょーちゃん部活で忙しいみたいで、休日も殆ど家にいないし。ちょっと目を離した隙にカノジョなんか作って、なんだか取り残されたみたいな気分だ。
やっぱり
そうだそうだ、おねーちゃんは寂しいのさ。きっとそれだけ。他に理由なんて、
――――――
――――
――考えるな。
胸のなかに湧きかけた形を持たない奇妙な感覚に蓋をして、私は買い物カゴを持つ手に力を入れ直した。
小さく唇を噛んで、悩みを振りほどく。
余計なことは考えなくていいんだ、それが私なんだから。