アオのハコSideB #101~   作:扇町グロシア

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アオのハコ#137 「おんぶの人」SideB 蝶の如く炎舞う

 生まれ持った才能、親の威光、顔の印刷。あれやこれやを理由に、それだけで人より上にいると陰口を叩かれること幾星霜。一々反論なんかしないけど、いつだって思ってた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。血を吐く思いでどうにかしがみついてるんだぞ、私はさ。

 良家の血筋持ちも天才も、腐るほど見てきた。結局どんな世界も、一定より上は由緒正しい天才で大渋滞だ。

 そこで更に先へと進むには、一周回って地道な鍛練しか手はない。そしてそれさえ、ほんの小さな不運で潰えてしまう。運も実力のうち、と言うこと。

 競技スポーツはいつだって命懸け、死ぬ気でやってようやくトントン。敢闘賞も努力賞も無い、勝てないならそこで終わり。

 小さい頃から知っている筈のそれを再認識したのは、去年の今頃だったな。

 大喜が好きだと自覚して、だからこそあの夏は苦しかった。

 

 あの日は馴れない料理なんかして、わざとらしく無い感じで少しだけメイクも盛ってみた。

 試合が終わった大喜を労いがてら遊びにでも誘おうか、なんて――甘い事を考えていたっけ。

 一ゲームさえ取れないまま、一回戦で大喜は負けてしまった。その事実は重く、それ以上に大喜の絶望感が空気に混ざって私は戦慄するばかり。あんな大喜は知らない、見たこともない。いつだって一生懸命でバカみたいに笑ってる大喜は、そこにはいなかったのだ。

 お弁当を渡せる雰囲気じゃない、軽口を叩ける状態じゃない。それに何より辛かったのは、大喜が無理して明るく振る舞ってくれたこと。私を気遣うその優しさが、心を切り裂いていくのがわかった。

 もしここにいるのが、私じゃなく千夏先輩だったら。きっと大喜は素直に泣けていた、自分を取り繕ったりしなかった。そう思うばかりでなにもできない自分が歯痒くて、スポーツの残酷さが身に染みて。

 ああ、……苦しかったな。

 

 それを引き摺ったまま集中出来ず迎えたインターハイは三位という不本意な結果に終わり、でも私は自分を抑えきれず大喜に告白した。返事は今しなくていい、と言って。……押して押して押しまくれば、いずれは気持ちが通じると思ったんだけどな。まさか恋愛成就のジンクスがあるキャンプファイアーを見ながらフラレるとは思わなんだ。

 ()()()()()()()()()、さ。

 匡にも言われたし、私は大喜と友人に戻りたいと思っている。向こうもそう思ってくれてるといいけど、まだたまにぎこちない空気になって気まずいったら。まったく、面倒だねぇ霊長は。

 もしその辺が上手くこなせてたら、今日のバド県予選にも応援しに行けたかもしれない。いや私としては気持ちの整理もついてるから行っても良いんだけど、菖蒲が絶対余計な気を遣ってくるのがなぁ……。あの子バド部のマネージャーだし、大喜の先輩さんが菖蒲のお姉さんと付き合ってるそうだから間違いなく会場にいる筈。優しくていい子ではあるんだけど、しなくていい事ばっかり熱心なのが困った所。

 そういや千夏先輩脚を怪我したそうだけど、それでも大喜の為に行くんだろうな。恋人同士だもんね、肖りたいやら金借りたいやらってなもんだ。

 まあ、私が行こうが行くまいが大喜は変わらず自分を貫く。それで勝つか負けるかは、それこそ神様だってわかりゃしない。

 どういう結果になろうとも、今から惚れ直すとかそんな事にはならないだろう。なんかもう、好きとか嫌いとか疲れた。

 しかし考えてみれば別になんて事もない話だ、今度会った時にでも結果を聞けばいい。友達なんだから、応援くらいは普通にするさね。

 それに私だって自分の試合で忙しい身だ、去年の雪辱を果たさなければ。とは言え今年の私にはもう迷いなんか無い、負ける気がしないとはこの事だろう。

 見よこのみなぎるパワー、瞬く間に最高潮。立て不死身の身体、不屈の闘志。戦う女の醍醐味を見せてやろうじゃないか。

 拳突き上げ気合いを入れ、私は歩きだす。

 さぁさぁ道を開けろ、蝶野雛さまのお通りだ。

 

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