バドミントンの日だから声はかけない、そんなの嘘だ。
本当はすぐにでも駆け寄りたい、応援しに来たと告げたい。大喜くんをもっと近くで見守りたい。
でもそれは、さすがに出来ない。
私達の関係は周囲に隠しておかなければいけないし、大事な試合前に余計なプレッシャーもかけたくない。それに、……花恋に悪いから。
そりゃ針生くんと当たるとなれば、花恋は大喜くんを応援しないだろう。それは決して間違ってはいないし、咎められる謂れもない。
だけどでも、花恋は優しい子だ。口では遠慮しない人間だと言っても、内心は私に気を遣ってしまうだろう。だから今は、黙っておこう。
刻一刻と近づいてくる、その時が終わるまで。
先輩や後輩と公式戦でやりあう、というのは私達には無縁の世界だ。そういうのは個人スポーツ独特の感覚だろう。私達の場合は年代を問わず同じチームにしかならない、戦う相手は他校だ。練習で先輩たちのチームと試合したりはしたけど、それはあくまで鍛練の一環だし。
針生くんと大喜くんがどんな想いで戦うのか、それを実感として理解できない事が私はなんだか寂しい。あの二人は私とはまた別の意味で、寂しく思っていたりするのだろう。
二人が当たるのは、これで最後なのだから。
私はかれこれ三年間同じクラスで過ごし、花恋が知らない針生くんも見てきた。どれほどバドミントンに心血を注いできたか、私は知っている。
でも大喜くんの努力も、私はすぐ傍で見てきたのだ。打ちのめされようと膝をつこうと、大喜くんは立ち上がってきた。折れず曲がらず、愚直と言えるまでに。
そんな二人の間にはきっと、そこまでの優劣はない。結果がどうなるかは、終わるまで分からない。
だからこそ、どうすれば良いんだろう。
大喜くんとは付き合っていて、でも針生くんは友達だし花恋の恋人だ。どちらが勝っても負けても、気まずいことにはかわりない。
でも二人が当たるのは試合行程の必然で、それこそどこかで負けない限りは揺るがない。とは言え目の前のコートを見る限り、それはまず無さそうだ。
彩昌と戦った時の私達にも似た絶死の気迫、ただ勝利だけを求めて駆け抜ける闘争心。きっとあの二人は、お互いがぶつかり合うまで誰にも負けはしない。
それでも最後に残るのは、ただ一人。それがスポーツだ。
準々決勝は終わり、もうすぐ準決勝が始まる。
拳を握ったままコートを見つめる花恋の隣で、私もまた覚悟を決めた。
私が応援するべきは、大喜くんだ。例えそれで花恋との仲がおかしくなろうと、針生くんが失意のままに夏を終えようとも。
私はずっと、大喜くんを見てきた。誰よりも真っ直ぐで、挫折さえ呑み込んで立ち上がるその姿を。好きになったことを、そして私を好きになってくれた事を誇りに思う程に彼は眩しい。
出来ることなら、隣に立ちたかった。道半ばで望みを断たれた今の私では、大喜くんには釣り合わないかもしれない。それでも私は、大喜くんが好きだ。
試合番号と学校名が読み上げられた瞬間、花恋の顔がわずかに強張る。きっと私も、そうなっているだろう。
向かい合い握手をし、背を向けあって互いのポジションへと移動する二人。今この時、彼らは私達の事なんか考えない。ただひたすら、目の前にいる相手に勝つ事だけを考えている筈だ。
私に――私達に出来るのは、祈る事だけ。勝敗はどうあれ、私のように不本意な結末を迎えませんように。行き着くその先に、笑顔がありますように。そう願いながら私は、血が滲むくらいに唇を噛んだ。