アオのハコSideB #101~   作:扇町グロシア

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ウチでは千夏先輩のお母様を春架さんと呼んでおります。


アオのハコ#103 「話したいことがあるから」SideB 母は何でも知っている

「少し用事ができて……私戻るねっ」

 バタバタと車を降りて走っていく娘の姿を窓越しに見ながら、私は小さく疑問を抱く。用事たってこの辺りには特に知り合いなんかいない筈だし、忘れ物ならそう言ってくれれば済む話なんだけど。それに今しがたの電話は誰だろう、随分焦っていた感じに見えた。何があったのか、雪がちらつく中を駆けていくくらいだから余程の事なんだろう。まあ千夏だって小さな子供じゃないんだ、あまり心配しても仕方がない。小波湖近くから駅までバスも通ってるし、一人で帰れない環境ではない。スマホも持たせてるし、先に戻っても大丈夫かな。

 にしても、だ。あんな風に焦る顔を見たのは、もしかしたら一年くらいぶりかもしれない。

 去年の一月、家族での引っ越しを突っぱねて日本に残りたいと言った時も、思えばあんな風だった記憶がある。

 

 どうも千夏は冬樹さんに似たのか、自分からあれしたいこれしたいとか言わない子だった。バスケをしたいと言い出した時も、こちらから若干()()したわけだし。事ある毎にバスケの試合動画を流し、憧れるように仕向けていった。全ては私たちの雪辱の為、栄明女子バスケットボール部の栄光を取り戻す為。私たちの夢を、もう一度咲かせる為に。

 ……ではあったけど、ありはしたのだけれども。どうやらそれは、切っ掛けになっただけだったようだ。

 そうでなければあんなにも必死に、残らせてほしいなんて言う筈がない。そもそも日本を離れる話が出たときは、少し驚いた顔はしていたけれど反対はしなかったんだし。それから何があったのかは分からないけれど、千夏にはその時点で栄明に残らなければならない理由が出来ていたのだろう。

 でもそこからが大変だったな、何しろこのボンヤリした子を独り暮らしなんかさせられない、だけど家は既に手放す算段になっていた。四方八方手を尽くしても中々うまくいかず、どうにか由紀子に承諾して貰えた時は薄い胸を撫で下ろしたものだ。

 あれから話を聞く限りでは、猪股家に馴染んで波風たてず暮らせているらしい。そういえばこないだなんか由紀子のやつ、「なんなら千夏ちゃん、うちへお嫁に来させちゃえば良いのに」とか言ってたな。いや大喜くんにだって選ぶ権利くらいあるでしょうに、まったく調子の良い女だよ。

 でもまあ由紀子と親戚にはなりたくないな、友達のままでいたい。

「……ふむ」

 考えてみたら、大喜くんは千夏をどういう感じに見てるんだろうか。もしかしたら、もしかしたりするんだろうかな。

 千夏だってあの出来ではあるが御年頃だ、鬼も十八番茶も出花って言うし。そうなる可能性は、ゼロではないのかもしれない。

 ……いやま、冷静に考え直したらまず有り得ないんだろうけど。なにせ股を痛めて産んだ我が子ながら、あれはどうもガサツでガラッパチ過ぎる。この間久し振りに一ヶ月だけ一緒に過ごしたけれど、全然変わってない。少しはオトナになってるかと思えば、やっぱりまだまだ子供子供。……そりゃまあ母親似と言えばそれまでなのだけれど、もうちょっと女子力ってものをもってほしい。勝手な言い草だけど、さ。

 まああれがもっと女子女子してたら、さすがに由紀子の所には預けられなかったかもしれないけど。大喜くんに悪いもんなあ、そんなの。いくら由紀子の子とは言え、その辺はアレだろう。

 しかし私と来たら、千夏をどうしたいんだろうな。あっちこっちに話が飛んで、纏まらないったら無い。

 可愛い娘ではあるけど、面倒な子だとも思う。あれを御せるようなのは、出てくるんだろうか。

 

 あれこれ考えながらも義母義父と車に揺られつつ、何となく窓の外に視線を向けた時。

 外を舞う雪が残光を浴びて輝く中、すぐ側を何かが通りすぎていくのが見えた。

「ん、……?」

 隣を抜けていった人影に、私はどういうわけか既視感を抱いてしまう。何処かで見たような、会ったような。

 一瞬の事だし、何かの勘違いかもしれないけれど、何だか気になるな。あの方向だと、それこそ小波湖の方か。

 まあまさか、うちの娘とは関係あるまい。……ないと思うけど、でもうーん。あとで一応、メッセ送っておくかな。

 とりあえず今はまだ止めておこう、用事があるらしいし。何をする気だか知らないけど、あの子がしたい事はさせてあげよう。私だって一応は母親なんだから、そういう理解は必要だ。

 まあ、なるようになるさ。いつだって人生そんなもの、それで良いんだ。多分、きっと。

 

 

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