アオのハコSideB #101~   作:扇町グロシア

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アオのハコ#139 「やってきたこと」SideB 先輩は、かっこいい

 世の中には、良くも悪くも因果応報なんてものは無い。巡り合わせと運不運があるだけで、正しいからうまく行くとか小狡いから失敗するなんてのは無いのだ。でもそれとは別に、大当たりを引く確率は自力でも上げられる。ソーシャルゲームのガチャみたいなもので、抽選回数を増やせばいつかは当たるから。

 努力するというのは、まさにそういう事なんだろう。報われる報われないではなく、機会を一つずつ追加してくれるだけ。

 もし100回に1回しか当たらないものがあったとして、運の良い人ならばそれを数回程度で引いてしまう事もある。だけど他人の100倍努力する事をいとわなければ、最終的には確実に大当たりが出る。それまで何度爆死するか分からないけどさ。

 それが分かっていても、大抵が出来やしない。だって疲れるし、大変だし。いくら繰り返せばどうにかなると言ったって、心が折れる方が先になるかもしれない。

 ……それなのに頑張って頑張って頑張り抜いて、金星をつかもうとしている人がいる。猪股先輩はまさしく、そういう人だ。

 

 毎朝早起きするのは習慣にしてしまえば難しくない、私は小さい頃から朝は家族とランニングしてから身支度をして学校に行ってたし。むしろ他所の家ではそういう事をしないと聞いて、最初は驚いたものだ。

 頑張り屋だねとかスゴいねとか友達には言われたけれど、なんとなく実感は無かった。結果が出ている訳じゃない、ただお兄ちゃん達にくっついているだけ。私はなんにも、スゴくない。

 自分があまり器用でも無いと自覚してからは、あんまり頑張らなくなってきた気はする。頑張ったら確かに多少チャンスが増える、それでもモチベーションは横這いから動かない。同じくらいだった晴人にもだんだんバドでは勝てなくなったけど、それを悔しいとも思わない。お兄ちゃんに勝てないのと同じ、とか思ってみたり。まあ晴人とお兄ちゃんじゃぁ、それこそ天地の差があるか。

 それが変わり出したのは、地元の公立中から受験して栄明へと入ってから。晴人がいるのはちょっとアレだけど、さすがスポーツ進学校。空気感がだいぶ違ってて、頑張る理由も出来たようなそうでないような。そしてその大きな部分を占めているのは、誰あろう猪股先輩。

 別に好きとかなんとか、そういうのは無い……と思う。あれこれ勘違いしたのかお兄ちゃんは「猪股なら良いぞ」とか言うけど、そうじゃないんだ。そりゃまあ、付き合ってる人がいるらしいと知って少しショックは受けたのは事実ではある。とは言えそれよりも、私としてはああも努力を重ねられる()()が知りたいのだ。

 どんなに辛くとも苦しくとも、前だけを見据えて進み続けられる、その理由が。

 私に必要なのはきっと、そういう存在だから。

 

 傍から見ていてもありありと分かる、ヒリついた気配。公式戦なんて私の技量じゃまず無理だけど、真剣勝負の熱量は知っている。唇咬んで不安振りほどき、弱さを噛み殺してラケットを振った瞬間が、私にもあったから。

 コートをフルに使い、一打一打に籠るのは裂帛の気合い。明らかに命を削りあう、壮絶な光景だ。この後の決勝戦なんか考えてもいないような、灰も残らない絶戦。

 ああ、でも。それでも、あの二人は――笑えている。消耗し続ける試合のなかで、それさえ楽しんでいる。

 お兄ちゃんが気に入るわけだな、確かにさ。ああいうタイプは大好きな筈だ。

 それでも試合はまだ半ば、決着は遠いだろう。しかしその時は、一秒ずつ近づいてくる。留まる事も戻る事もなく、無慈悲なくらい確実に。

 どちらか勝った方が決勝に進出、そしてインターハイへの切符を手にする。

 声を張り上げる勇気を持てない私はただ祈る、勝利の時を。

 

 

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