アオのハコSideB #101~   作:扇町グロシア

42 / 142
アオのハコ#141 「がんばれっ」SideB そんな義理でもないけれど

 言うだけの事はあるじゃないか、なんて今さらながら思ってみたりみなかったり。

 ずけずけと人の因縁話に入ってくるようなヤツだ、そりゃあれで自分が無能だったらお話にならんか。

 正直中学時代の同期なんて、元チームメイト以外はもう殆ど覚えていない。何年も会ってないんだ、人生の二割近くも離れていれば親の顔だって忘れるわ。記憶に残っているごく少数の中で、更に少ない男子の一人――針生健吾。あれを相手に競り合えているなんて、余程の事だろう。彼は当時から結構なエースぶりだったし、そこから更に伸びているとしたら全国レベルでもおかしくない。

 バドミントンは専門外ではあるけど、真剣勝負の重さは骨身に染みている。一年という時間の差が、どれほど大きいかも。それでもきっと、あれは言うだろう。それは諦める理由にはならない、と。それにそうなってくれなきゃ面白くない。

 せっかく休日を潰してまで来てやったんだ、期待はずれな姿を見せるなよチキンタツタ野郎。

 

 昔の私は天才で無敵で、でもそれに満足した事は無かった。まだまだ足りない、もっともっと強くなれる。そう思えたし思い続けられる、――と思っていた。それが揺らいだのは、中学に上がってすぐ。スポーツ強豪の私立校はつまり、天才と秀才の大渋滞。井の中の蛙大海を知らず、空の高さもまた知る事無く。私は自分が天才で無いと知り、無敵でもなくなってしまった。

 それでも好きは最強の感情なんだから、と頑張っては来た。それでも、それさえ信じられなくなったのは、両親の間に生じた不協和音のせいだろうか。まさか別れてしまうなんて、あの日の私には想像さえ出来なかった。

 好きは永遠じゃない、いずれは消えてしまう。じゃあ私は、私には何がある。

 無意味な焦燥から逃げ出して、漸く傷口が癒えてきたあの頃。寄りによってナツと出会し悪態を吐き、そしてそれが縁であの直情小僧と関わってしまったわけだ。

 何も知らんくせに、知る気も無いくせに。よくもまあ、知ったような事を言いくさるもんだ。一発殴っても尚めげないんだから、あれも相当だな。

 まあ、だ。あれが切っ掛けでナツとの拗れ続けた関係もどうにか修復の道がつき、バスケにも復帰した。そこは感謝くらいしてやっても良いな、まあしないんだけどさ。どうも癪だから。

 

 少し下の席で試合を見守るナツ、その後頭部を上から見ながら願う。振り返りませんように、と。今顔を合わせるのは気まずいわ、本当に。適当に座った場所の近くにナツ達が来るとは、これもまた縁なんだろうか。下手に動いて勘づかれると厄介だし、このまま静かに見てるしかないんだけど。 

 試合に怪我は付き物で、それは大抵一番来てほしくない時にくるものだ。私が意図してやったわけじゃない、ナツもそれは分かってくれる。でも、それでも。どうしてあんなタイミングで、と今も思ってしまう。

 もしあんな事が無かったら、どちらが勝っても負けても気持ちは透き通っていられたかもしれない。

 まあそれは、こっちの想像でしかないのだけれど。後輩らしき男子の話を聞きながらナツは何を思っているのやら、あれの考えなんか読めるものじゃない。

 それにしても、最速のスポーツ……か。確かにあんな速度の、あんな小さなのを撃ち合うというのも壮絶なものだ。それも一対一、さすがにゾッとしないな。コートの中で対峙する二人の気迫を感じながら、私が小さく息を吐いたその瞬間。

「大喜っ、がんばれっ!」

 放たれたのは燃えるように熱い、ナツの声援。そこに宿るのはきっとただ一つ、最強の感情だけだろう。――なるほど、な。こんな風に背中を押されてたら、負けられないよな。

 良いなぁ、こういうのは。今度宗介にもしてやろうか、なんてね。

 さて、どうしようかな。これが終わったら、ナツに声の一つもかけてやろうか。それも悪くない、きっと悪くない。 

 なんにせよ、もうじきだ。もうじき一つ終わって、また一つ始まるんだ。

 駆け抜けろ、アオい風。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。