アオのハコSideB #101~   作:扇町グロシア

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アオのハコ#142 「ファイナルゲーム」SideB タンブリングダイス

 ずっと傍で見てきた、誰よりもお互いを知り合っていると思ってきた。でも今の私は、健吾の助けにはなれない。これは健吾の痛み、健吾の苦しみ。誰にもそれを奪う権利はない、そしてそれが健吾を強くする。

 だから隣にいるちーがそうしているように、声援を送ってただ願う。

 どうか悔いの無い終わりを迎えられますように、と。

 

 健吾と出会ってからかなり経つけれど、付き合いだしてからはまだ一年と少し。あの頃健吾はバド部で忙しく、私もまた業界の末席にどうにかしがみつこうと躍起になっていたな。そんな中で弱音を吐いた私を責めたりせず、寄り添ってくれた。そんなの好きになってしまう、なんて思いながら実際好きになったわけだ。我ながらストレートなものだと少し呆れそう。

 それからも一気に関係が進んだりはしなかった、そういう柄じゃないし。それにそれぞれ夢があってすることも多い、なのになんとなく互いを羨ましく思ったり思わなかったり。挫折しかけたり立ち直ったり、滑って転んでまた歩みだして。順風満帆ではなかったし、ぶつかったこともある。それでも毎日は楽しくて、充実していた。

 でも私たちの目指す先は、交わることがない。私がバドを始めることはないし、健吾は芸能界になんて興味がない。気遣うことは出来ても、詳しく理解することは出来そうにない。それでも、だからこそ。知りたいと思うし、わかってほしいと思う。贅沢な話なんだけど、さ。

 そしてそれは、ちーと大喜くんも同じなんだろう。あの子らは私たちより多少複雑かもしれないけど、似たようなもんだ。

 

 試合はもう佳境に入ってるのだろう、一挙手一投足に籠る気迫は更に増している。これまで積み重ねたすべてをかけて、二人はぶつかり合う。その先にどちらが勝とうとも、それはきっと能力や意思の差じゃない。それこそ時の運、それくらいの競り合いだ。

 それをわかっているからこそ、あんなにも――楽しそうなんだ。これが最後になると感じても尚、真っ直ぐに立ち上がり戦いあえる。

 健吾はこの夏で、バドを引退する。つい先日、本人から聞いた話だ。

 ここで辞めず大学に進んでも続ける道はあっただろうけど、健吾はそれを選ばなかった。逃げるわけでも力尽きたわけでもなく、新しい夢の為に。それがなんなのか私はまだ知らないけれど、とは言え健吾の選択なら否定はしない。

 そう言えば大事なのは結果じゃなく、(サイ)を振れるかどうかだとなにかで読んだ記憶がある。振るべき時に賽を振るには覚悟がいる、賽を賭けても構わないと思える相手に出会うのも難しい。だからどういう出目が来ても、()()()()()()のならそれは正解なのだと。

 つまりはそう、なんの問題もない。これからも変わらず一緒にいられる、それは確かだから。

 しかしここで大喜くんが対戦相手になったのは、神様の采配かもしれないな。一番可愛がっていた後輩が最後かもしれない試合の相手になるなんて、まるで古い青春ドラマみたい。弟子は師匠を越えていく、それが恩返しになると。

 そして健吾が「根性はあるけど生意気な後輩だ」といつも話してくれていた当の大喜くんが、ちーの恋人になるなんて。あのぼややんとした天然が、よくもまあ。

 私の周りで起きているのは、出来すぎているくらいに理想的な話だ。私の人生って今まで、こんな風にコミカル(マンガ)だったっけ。

 まあ――良いか。

 私がするべきなのは考えることじゃない、声を出すこと。大好きな人の為に、声援を送ることだ。

 勝って欲しいとは言わない、終わって涙しても良い。大丈夫、私が隣にいるから。

 ――頑張れ、健吾。

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