こっちは一応気を遣っているつもりなんだけど、咲季は気にも留めないんだな。
そりゃあお隣同士だし家族での付き合いがあるんだからギクシャクして欲しいとも思わないけどさ、――少しは意識して欲しかったりするぞ。
現状俺の事は何とも思って無い、一切脈が無い。きっと彼氏に誤解されるとか、そんなのさえ考えてはくれない。俺は近所に住んでいて、家族ぐるみで付き合いがある幼馴染み。それ以下でも以上でもなく、つまりは歳の近い姉弟のように仲が良い。……まあ咲季とこういう関係になりたかった訳じゃない、友達から一歩進んで彼氏彼女の関係になって、そうやって歩む道もあった筈。まさか間が全部無くなって、気が付けば家族の一人みたいに扱われているなんて。
去年は風邪で行きそびれ、今年は凹んだ状態か。全くどうも夏祭り辺りは調子が悪い、いっそ家で寝ていた方が良いかもしれない。まあでも、そうやって拗ねてたって意味はないけどさ。
ああ、もう。どうして俺は、こうなんだろう。
咲季を好きだと気付いてから、想いを伝えるまでそんなに時間はかからなかった。それが袖にされても、へこたれたりはしなかった。何が理由か考えたり、咲季に好かれようと努力したり。
あれは何の意味もない、無駄な時間だったな。何回目かの玉砕を経て、俺はようやくそれを理解できたのだ。
咲季は不快そうな顔もせず俺を嫌がったりもせず、いつも子供をあやすように優しく諭してくれた。それはつまり、俺の事を異性として全く見ていないという事。咲季からしたら、自分の弟が「おねえちゃんとけっこんするー」とか言い出した感覚なんだろう。
俺と咲季はいつも一緒で、ずっと仲良く過ごしてきた。余計な事をやらかさない限り、俺たちはこのままの関係を維持していく。それが良い事なのか悪い事なのか、それは考えたくもない。
勘違いして一人で空回りして、本当にバカみたいだ。
「――あ」
勘違いといえば、あれもだな。守屋さんの時のもそうだったんだから。
何処か咲季に似ていて、人を振り回して。恋多いタイプで誰にでも気安い、そこをどうも変に勘違いしてしまった。守屋さんの気持ちは松岡先輩に向いている、バレンタインに一人だけ気合い入れたチョコ渡してたのがその証拠。……もしかしたら俺、変に意識してるとバレてたのかな。結局配ってたチョコも貰い損ねたし、なんか陰険メガネとか言われるし。
まあ、良いんだけどさ。俺は恋愛漫画の主人公じゃない、良くて主人公の友人Bが精々だ。劇的な事なんか起こらない、それで構わない。
そう言えば、そう言えば。家族といく、と守屋さんには言ったんだっけ。
咲季の事は色々邪推してたっぽいし、嘘ついたみたいになるかも。蝶野さんたちの着付けをしてから一緒に行くそうだけど、あっちで会ったりしたらちょっと気まずいか。……いや例によって俺が勝手に傷付くだけだ、向こうはなんとも思いやしないのは分かってる。
でももし、それ自体が――勘違いだとしたら。守屋さんと俺の間に、か細い糸が残っているとしたら。
「……未練だな、俺は」
どうせそんなのは有り得ない、あれもこれも終わった話であることに変わりはない。今日はお隣さんと二家族で花火大会に行く、地元のお祭りだしクラスの女子とバッタリ会ったりもするだろう。そんな事、人生にはよくあるんだから。
――と。こんな事考えてる場合じゃない、急いでいかないと。向こうのおじさんおばさんが席取りしてくれてるんだ、遅くなったら悪いじゃないか。
いくら仲が良くても、礼節は大事だ。行こう行こう。
ゆるゆる歩き出す身体にまとわりつくのは、生温い夏の夜風。少しだけ寂しさを孕むそれを振り払うように、俺は足を速めた。