これで良いんだ、その筈なんだ。
メッセを飛ばしてスマホを仕舞い、俺は一つ息を吐く。
もっと一緒にいたいというのは俺の我儘で、千夏先輩への負担になる。最後の夏を楽しんでもらうためにも、半歩離れておくべきだ。あかりも言ってたじゃないか、少し距離を考える方が良いと。
千夏先輩は優しい、だからこそ甘えてはいけない。
隣に感じる寂しさを振り払うように、俺は雑踏の中へと踏み出した。
言われるまでもなく分かっている、全部全部分かっている。好きと依存は違うし、付き合っているというのは気持ちを押し付ける免罪符じゃない。千夏先輩の為なんだ、
適当に何処かで時間を潰していたら、気持ちも晴れてくれないかな。元々
それなのに思うのは、あの一瞬の事。
手が離れたあの時、もし握り返せていたら。
三年生たちが千夏先輩を見付けても、怯まず隣にいられたら。
千夏先輩の気持ちはともかく、俺はこんな風に悩まずに済んだのだろうか。
――全く、無い頭で何を考えているんだろうな。俺はまだ片想いをしていた頃から、なにも変われていないのか。少しは大人になれよ、俺はさ。
結局俺は今も尚、不安なんだろう。千夏先輩が俺を好きになってくれた事も付き合いだした事も、全て夢なんじゃないかとさえ思ってしまう。
最初はただ朝練ですれ違うだけで、好きなのか憧れてるのかさえ朧気で。同居が始まってからも何処かフワフワした気持ちのまま、告白なんて考えられないまま時間だけが過ぎていった。その
今さら何を悩むのか、いっそ馬鹿馬鹿しいと笑い飛ばせたら良いのに。
そう言えば千夏先輩、自分の事にはあまり気がつかないよな。自分がどれくらい並外れた努力家か分かってないし、モテてる自覚も無いようだ。それなのに俺の事を気遣ってくれるし夢佳さんとの事もあるし、周りにはスゴく優しい。だからやたらと無茶をしてしまう、背負い込んでしまう。
ほんの少しでも良い、そんな千夏先輩の役に立ちたい。俺なんかが居ても大した助けにもならないだろうけど、それでも。好きになって良かった、好きになってくれて良かった、と思って欲しい。……まあそれだって、俺の一方的な考えかもしれないな。
それにしても、だ。あんな風にしたのは、ちょっと悪手だったか。あれじゃあちょっと感じ悪く思われるかもしれない、友達との思い出を言うなら――千夏先輩はそれを承知した上で俺を誘ってくれたんだよな。去年も友達と部活帰りに行ってたんだし。そもそもの時点で先輩は、俺を優先してくれていた。なら「俺は良いから友達と楽しんで」みたいに言うのは絶対良くない。せっかく母さんたちにバレないようにしてまで計画してくれたのを、俺の鈍さでダメにしてどうするよ。
うーん、振り返れば振り返る程、俺の馬鹿っぷりが自覚できてしまって恥ずかしい。合流したら謝ろう、そうしよう。
「あー……全く、さ」
悪い癖だよな、俺はいつもいつも。そんなだから『壁打ちしてるだけの人』とか言われるんだよ、本当に。それですれ違ったり誤解されたりしてるのに、反省が無さすぎる。
そういうの、直していこう。千夏先輩を好きでいたいから、千夏先輩に好きでいてもらいたいから。
見上げた夜空は星も疎ら、でもまあこれも風情風情。先行きなんか考えていられない、ただ一目散に進むんだ。
頑張れ、俺。