アオのハコSideB #101~   作:扇町グロシア

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アオのハコ#150 「最後の花火」SideB どうか醒めないで

 星の疎らな空はまだ静かだけど、もうすぐ満開の花火に彩られる事になる。

 去年はそれを大喜と並んで見たのだけれど、今はにいなちゃんが隣にいる。

 大喜はきっと千夏先輩と一緒なんだろうな、――なんて思ってみても胸はたいして痛まない。こういうのを日にち薬と言うのだろう、気が付けば私はすっかり立ち直れているのだから。

 肉が盛り上がって傷口を塞ぎ、瘡蓋もすっかり固まった。うっかり引っ掛けて血を流す事もあるかもしれない、だけどそれも含めて少しずつ癒えていく。あの日の痛みは消えてなくなったりしないけど、それで竦み上がったりしていられない。だって私は無敵の蝶野雛、強い女だから大丈夫なのだ。

「はい、さっき買ったりんご飴」

 にいなちゃんから受け取った真っ赤な飴菓子を一かじりして、ふと思い出す。

 そう言えば私の初恋は、りんご飴から始まったのだな。

 

 競技の場では突き詰めれば、血統も才能も意味がない。そんなもの全員が持っている、どんなスポーツも上へいけば由緒正しい天才で大渋滞だ。その中で頭角を現すには、地道に頑張るしかない。他のすべてを犠牲にしてでも、突き進まなければならない。

 遊びもなにもかも、我慢しないと。長引いた練習は未来のためだ、むしろ誇れ。そう自分に言い聞かせながらも、早めの撤収を始めた屋台の列を見ていると思ってしまう。

 なにやってるんだろう、私。

 全部全部擲って戦って、それでどうなるんだ。りんご飴一つ手に入らない、友達一人とも遊べない。考えるなと頭の隅で鳴る警鐘も、どんどん掻き消されていく。

 くずおれて泣きたい、投げ出したい。もう面倒だ、疲れた、これ以上なにも失いたくない。

 そんな弱音が口を突いて出そうになった、その時だった。

「ほい」

 突然目の前につき出されたのは、りんご飴。

「買い出し頼まれて歩いてたら、ラスト一つだから買っといた」

 聞きもしないのにそういったのは同じクラスの()()()()。今までロクに話したことさえ無いのに、私が前りんご飴が食べたいとにいなちゃんに言ったことを覚えてくれていた、……ヨダレ垂らしたことも覚えてやがったけどさ。

 別に特別なことじゃない、ただなんとなく覚えててなんとなく買っておいただけだろう。

 でも私は、それが嬉しかったんだ。新体操とは関係なく私を見てくれた、評価以外の理解をくれる()()の存在が。

 きっとあの日から大喜は私にとって、心臓を動かす理由になったんだ。

 

 ああ、なんだか懐かしい。

 去年の花火大会が終わって、少ししてから告白して。秋合宿ではっきりと断られて。あんなに泣いた日はなかった、あんなに辛い日も無かった。

 暫くは大喜の顔も見られなくなり、生きているのも億劫になっていたな。

 よろめきながら立ち上がっても足元はフラつき、あちこちに迷惑ばかりかけたっけ。

 匡くんの言葉が無かったら、私は大喜と友達に戻れなかっただろう。そういや去年は夏風邪で来てなかったけど、今年はどうなのかな。

 にしても、だ。考えてみれば私って去年、井藤くんに『一緒に観ようよ』って誘われたんだよね。あの時は大喜を待っていたから普通に断ったけど、あれってもしかして――()()()()()だったりしたんだろうか。うーん、だとしたら悪いことしてしまったかも。最近は全然話せてないんだよね、二年になってクラス変わっちゃったし。

 ま、良いか。縁があればまたきっと会うさ、世の中そんなもんそんなもん。

 縁と言えば、最近やたら晴人と会う事が多いなぁ、あいつ失礼で目立つからかな。こないだもバカな癖に無い頭で悩んでたから、年上の余裕を見せつけてやったっけ。たまに遊んでやるくらいなら別に良いんだけどね、嫌いではないしさ。

「……ん」

 口の中で融けていく飴は姫りんごの酸味さえ霞むほど甘く、思わず涙腺が緩みそうになる。そうだ、りんご飴ってダダ甘いんだよ。毎年お祭りでしか食べないから、毎回最初の一口は戸惑ってしまう。

 だけど、でも。

「いつだって、美味しいねぇ」

 これがやっぱり、――好きなんだよね。甘いだけじゃないから、思った通りじゃないから。それでこそ、好きになってしまう。全く因果なもんだな、私ってば。あと糖質……糖分?は気にするべきだろうけど、今日はお祭りなんだし特別に解禁と行こう。

 ――と。

 見上げた空には轟音と共に、大輪の花が咲き始める。

 ああ、ああ。綺麗だね、幸せだね。――こんな日がずっと、続くと良いな。

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