星の疎らな空はまだ静かだけど、もうすぐ満開の花火に彩られる事になる。
去年はそれを大喜と並んで見たのだけれど、今はにいなちゃんが隣にいる。
大喜はきっと千夏先輩と一緒なんだろうな、――なんて思ってみても胸はたいして痛まない。こういうのを日にち薬と言うのだろう、気が付けば私はすっかり立ち直れているのだから。
肉が盛り上がって傷口を塞ぎ、瘡蓋もすっかり固まった。うっかり引っ掛けて血を流す事もあるかもしれない、だけどそれも含めて少しずつ癒えていく。あの日の痛みは消えてなくなったりしないけど、それで竦み上がったりしていられない。だって私は無敵の蝶野雛、強い女だから大丈夫なのだ。
「はい、さっき買ったりんご飴」
にいなちゃんから受け取った真っ赤な飴菓子を一かじりして、ふと思い出す。
そう言えば私の初恋は、りんご飴から始まったのだな。
競技の場では突き詰めれば、血統も才能も意味がない。そんなもの全員が持っている、どんなスポーツも上へいけば由緒正しい天才で大渋滞だ。その中で頭角を現すには、地道に頑張るしかない。他のすべてを犠牲にしてでも、突き進まなければならない。
遊びもなにもかも、我慢しないと。長引いた練習は未来のためだ、むしろ誇れ。そう自分に言い聞かせながらも、早めの撤収を始めた屋台の列を見ていると思ってしまう。
なにやってるんだろう、私。
全部全部擲って戦って、それでどうなるんだ。りんご飴一つ手に入らない、友達一人とも遊べない。考えるなと頭の隅で鳴る警鐘も、どんどん掻き消されていく。
くずおれて泣きたい、投げ出したい。もう面倒だ、疲れた、これ以上なにも失いたくない。
そんな弱音が口を突いて出そうになった、その時だった。
「ほい」
突然目の前につき出されたのは、りんご飴。
「買い出し頼まれて歩いてたら、ラスト一つだから買っといた」
聞きもしないのにそういったのは同じクラスの
別に特別なことじゃない、ただなんとなく覚えててなんとなく買っておいただけだろう。
でも私は、それが嬉しかったんだ。新体操とは関係なく私を見てくれた、評価以外の理解をくれる
きっとあの日から大喜は私にとって、心臓を動かす理由になったんだ。
ああ、なんだか懐かしい。
去年の花火大会が終わって、少ししてから告白して。秋合宿ではっきりと断られて。あんなに泣いた日はなかった、あんなに辛い日も無かった。
暫くは大喜の顔も見られなくなり、生きているのも億劫になっていたな。
よろめきながら立ち上がっても足元はフラつき、あちこちに迷惑ばかりかけたっけ。
匡くんの言葉が無かったら、私は大喜と友達に戻れなかっただろう。そういや去年は夏風邪で来てなかったけど、今年はどうなのかな。
にしても、だ。考えてみれば私って去年、井藤くんに『一緒に観ようよ』って誘われたんだよね。あの時は大喜を待っていたから普通に断ったけど、あれってもしかして――
ま、良いか。縁があればまたきっと会うさ、世の中そんなもんそんなもん。
縁と言えば、最近やたら晴人と会う事が多いなぁ、あいつ失礼で目立つからかな。こないだもバカな癖に無い頭で悩んでたから、年上の余裕を見せつけてやったっけ。たまに遊んでやるくらいなら別に良いんだけどね、嫌いではないしさ。
「……ん」
口の中で融けていく飴は姫りんごの酸味さえ霞むほど甘く、思わず涙腺が緩みそうになる。そうだ、りんご飴ってダダ甘いんだよ。毎年お祭りでしか食べないから、毎回最初の一口は戸惑ってしまう。
だけど、でも。
「いつだって、美味しいねぇ」
これがやっぱり、――好きなんだよね。甘いだけじゃないから、思った通りじゃないから。それでこそ、好きになってしまう。全く因果なもんだな、私ってば。あと糖質……糖分?は気にするべきだろうけど、今日はお祭りなんだし特別に解禁と行こう。
――と。
見上げた空には轟音と共に、大輪の花が咲き始める。
ああ、ああ。綺麗だね、幸せだね。――こんな日がずっと、続くと良いな。