インターハイ初戦敗退、それが
負けたからって、いつまでも負けていられない。
驚くほど冷静でいられるのはきっと、知っているからだ。悔しさに浸っていたって、先へは進めないと。
最後の夏を決着がつかないまま終えた千夏先輩は、どんな気持ちで過ごしていたか。それはきっと俺には分からないし、先輩も一々話したりしない。あの日の慟哭を境に、振り切ったのだ。脚は癒えても心の傷は残るだろう、費やした日々の重さに潰されかけるかもしれない。でも、それさえ先輩は乗り越えいうとしつつある。
なら俺も、倒れたままでなんかいられない。傷だらけでも良い、歩みを止めるな。次の一年で、必ず今よりも強くなる。
その姿を千夏先輩に見せたいから、俺は何度だって立ち上がる。
針生先輩たちの試合を観ながら拳を握り、俺はそう誓っていた。
母さんたちは俺の試合を見守ってくれた、声援は届いていた。多分向こうの中尾って人にも、同じように応援してくれる人がいたんだろう。支えてくれる人々の想いは、いつだって背中を押してくれる。時には勝敗にも影響するかもしれない、人間やっぱり気合いの生き物だから。とは言え結局は互いの実力だ、応援が足りないせいで負けたなんて言い訳は口にする処か考える事さえイヤだ。それは大事な人たちの思いを踏みにじる、最低の考え。
来年こそ、だ。次は必ずもっと上へいく、遊佐くんとの決着を付けるんだ。あっちはベスト4でこっちは一回戦負け、傍から見たら格が違うにも程がある。だからこそ引っくり返し甲斐がある、やってやろうじゃないか。
そうだ、そう思え。余所見をするな。
千夏先輩に報告するべきだろうか、心配してるかもしれないし伝えておこうか。
あーでも先輩は部活遠征中だし、帰ってからにしようかな。どのみちこれから母さんたちと合流して一緒にアイス買いに行くし、バタバタしながら雑にやるよりは後で纏めての方が良いだろう。時間はちゃんとある、しっかり考えよう。負けたとは言え、格好くらいつけたいし。
スマホに手が伸びないのは、そのせいだ。ちゃんと理由はあるんだ、俺はなにも迷ってなんかいない。
これが正しいんだ、きっと――。
「……っく」
握手を交わしコートを降りる二人、俺はそれを真っ直ぐ見ることが出来ずにいる。あんなにも熱く激しく、全てを賭けて戦い抜いた末に散っていった針生先輩と西田部長。
俺はあんな風になれなかった、自分を取り繕うだけで精一杯。こうやって嘘ばかり並べて、どうにか身を守ろうとしている。
……何が来年の目標だよ、何様だ俺は。インターハイに出られただけでも良かったなんて、冗談じゃない。千夏先輩が卒業して猪股家を出ても、俺との関係が大きく変わる訳じゃない。でもだからって、次でどうにかしようなんて思いたくはない。一緒にいられるのは、今年までだったんだ。
負けるのは辛いし苦しい、楽しくない。勝ちたかった、勝って誇りたかった。千夏先輩にもそう思って欲しい、俺を好きになって良かったと。
泣けるものなら泣きたいのに、涙が流れてくれない。泣くのが嫌だった俺が今は泣けなくて苦しいなんて、おかしな話だ。
ああ、ああ――悔しいな。全力をだしきった試合は楽しかった、楽しかったからこそ悔しくて仕方ない。
でもいつだってそうだ、大会はこういうもの。悔いも未練もあるけれど、それを一々勘定しては貰えない。勝って負けて、時間が来て、……祭りは終わってしまうんだ。
叶うなら、もう一度。赦されるなら、もう一度。
――有り得ないけれど、そう願ってしまう。