自分が人の親だという事には、まだどうも馴れていない。一生馴れないんじゃないか、とさえ思うくらいに。親と言うのはもっとこう泰然自若として、遠くから見守るものの筈だ。なのに私は未だに小さな事でオロオロして、その度由紀子に小突かれている。
まあでも、とは言え。親としての悦びなるものは、朧気ながらに感じることがある。健闘を称えられ同じ部活のメンバーと笑いあっている我が子を見ていると込み上げてくるのが、まさにそうなんだろう。
栄明バドミントン部顧問の御厚意で打ち上げに混ぜてもらえたのは、なかなかに幸運だったな。いや運じゃない、大喜が今まで紡いできた縁のお陰か。私に似て不器用で由紀子に似て猪突猛進の愚息、これを受け入れて愛してくれている人々には感謝しかない。
ただ、だ。ついさっき漏れ聞こえた声には、私たち夫婦揃って一瞬固まってしまったけれど。『今彼女の事思い浮かべてただろ』――なんてまさか、そんな爆弾を和やかな会食中に浴びることになるなんて思いもしなかった。
一応大人として平生は装っているが、これはちょっと聞き捨てならないかもしれない。
大喜に彼女、か。まあ今の子は
最近はそれこそ小学生の内から惚れた腫れたと忙しいらしい、そんな中で高二まで浮いた話一つ無かった大喜は実際ちょっと遅かったりするのかも。……私たちが気付かなかっただけでずっと前からそういう事をしていた、というのは多分無いな。それならとっくに由紀子が気付いて囃し立ててる。ごく最近、って事なんだと思う。
そう言えば中学の頃はクラスメイトだという赤毛の女子がちょいちょい遊びに来ていたな、付き合ってるってあの子か。いやでも暫く見ていない、付き合ってたらもっと頻繁に来そうなものだ。しかしまあ今は千夏ちゃんの事もあるから、あんまり人を呼べないのかもしれない。
千夏ちゃん、か。もしかしたら万が一、そういう事になった可能性もあると言えばある。
思えばもう二年半前、千夏ちゃんを預かる前にもそんな話をしたな――。
いくら親同士が友人でも二人は面識がない、それに向こうは女の子でこっちは男の子。空き部屋の都合を考えたら、隣同士で寝起きさせる事になる。壁一枚隔てただけの二人にもしもの事があったとして、大人が目敏く気付いて止められるかはわからない。こんな杜撰な状況でもし間違いが起こったなら、どうやって償えば良いのか。
それはちゃんと先方にも伝えたけれど、鹿野家から拒否の意が届くことは無かった。『あの子も他所の家に預かってもらうという事を理解している、その上で夢を果たしたいと言っているんです』…………それは分かるけれど、でも。子供の分別で出た結論を、どこまで信じるべきか。
ウジウジと迷う私を諌めたのは、やっぱり由紀子だった。『責任なら私も一緒に負うから』、『力になってあげるのが大人の務めでしょう』と。
私だって大人の末席にいる身だ、そう言われて退くわけにもいかない。まあ由紀子は言ったことを曲げないし人の話も聞かないから、私がどう言おうが由紀子の決定は絶対に覆らないんだけどね。由紀子こそ猪股家の
でもどうしようか、大喜に聞かないといけないかな。だけど同じくらいの子供がいる友達、大体余計な一言で我が子と冷戦状態になってるんだよなぁ。幸い良好な関係を保ってる我が家が、センシティブな話から針の筵になるには辛い。由紀子も由紀子でそう思ってるんだろう、明らかに「お前が聞け」的なオーラが出てるもの。
そうだ、もうそろそろ千夏ちゃんが遠征から戻ってきている筈だし帰ったら聞いてみようか。あの子は少なくとも大喜より精神的に大人だし、ちょっと尋ねるくらいならそうそう不快にも思われないだろう。まあ多少驚いた顔をして、そこから笑って否定するくらいかな。あの年頃は男女共に歳上が良く見えるものだ、そうでなくても大喜より良い子はいっぱいいる。そのなかで敢えてあんなのを選ぶとか、まさかなぁ。……うん、まさかまさか。
ああまったく、私はどうも大人とか親とかそういう立ち位置が苦手だ。こんなんで将来『息子さんを私にください』とか言われたらどうなるんだ、心臓止まりそう。
いつになったら私は、