分かっている。俺がするべき事も、考えるべき事も。全部全部、分かってるよ。
でも、それでも俺は思ってしまう。どうして直接言ってくれなかったのか、と。
まさかこんな、盗み聞き同然の状態で聞いてしまうなんて。
寝たふりを止め、自己嫌悪を抱えながら俺は起き上がる。
父さんは気付かなかった事にした、なら俺も聞かなかった事にしなければならない。
平生を装って、今まで通りに生活する。
全ては千夏先輩の為なんだ。
お父さんは何を考えているのか分からない人、日本に残ると決めた時は反対も賛成もせず「そうか」としか言わなかった、去年の夏に千夏先輩はそう言っていた。だからまあ、そういう周囲にあまり関心を持たないタイプなんだろうなと捉えてはいたのだけれど。
――さっきの話からすると、全く違うじゃないか。むしろ逆だ、割と強硬派かもしれない。仕事の都合とは言え単身赴任でなく家族での移住を選ぶ辺り相当か。
つまり基本的には反対していて、結果を出す事を担保に渋々認めていただけ。そう考えれば、あの日線を引いたのも納得がいく。もし俺との関係性が父親の耳にはいれば、最悪親の強権で強引に連れていきかねない。そうなれば俺だって、いや猪股家だって責任を取る必要が出てくる。その「万が一」から俺たちを護る為、だったんだ。
そんな千夏先輩が俺と交際し始めるのは、どれほどの葛藤があっただろう。それでも先輩は、俺を選んでくれた。寄り添って過ごす日々を、望んでくれた。
ならば俺も、強くならなければ。ウインターカップに向かう千夏先輩を、少しでも助けられるように。大喜くんと一緒にいられて良かった、と言ってもらえるように。
そうしたらきっと、面と向かって打ち明けてもらえるようになれる。……うん、ちょっとだけ俺凹んでるからね千夏先輩。分かっています、俺を傷付けないように負担にならないように気を遣ってくれているのは。
いつかはお互い、偽りなく本心を吐露しあえる日が来るんだろうか。来てほしいな、本当に。
しかし父さん、『お前
あの人正直無防備過ぎるからなぁ、前ジャージ届けた時なんか俺がいるのに平気で脱ごうとするし、今でも毎日湯上がり姿で『お風呂空いたよ』言いに来るし。俺だって一応健康な男子なんですが、その辺は分かってくれてないんだろうか。
でも変に理解されても困るというか、一足飛びで色々やりかねない。千夏先輩のギアは一速と幻の七速しかないんだ、ブレーキも壊れて効いてないかも知れない。距離感バグってると言うか間合いがおかしいと言うか。
誕生日の時も母さん達がタイミングよく帰ってこなかったら、あれは結構ピンチになってた可能性がある。今日だけ特別だから、なんて――……。
「っ、あー……」
思い出せば胸が熱くなる、顔が火照って仕方ない。良くないな、これは。もっと大人にならないと、そういうのはまだ早い。
とりあえず、ちょっとやそっとで気に病むようなヤワな性根を何とかしないと。こんなんじゃ千夏先輩に顔向けできない。
頑張れ俺、もっともっと頑張れ。