まったく、スイカ運んできただけか。忙しないなあ、男の子ってのは。
バタバタと去っていく大喜くんの背中を見送り、私は
さぁ練習だよ練習、と檄を飛ばして私は合宿所へと一旦戻る。さすがにスイカ一つをまるまるその辺には置いておけない、それにさわった感じはあんま冷たくない。食堂の冷蔵庫に入るかな、もしダメなら水にでも漬けておくか。
浜風は生温いけど、独特の郷愁が溢れてくる。夏生まれの本能か、それとも。
ふと見やった浜の先では、早速大喜くんたちが張り合っている。
――海、楽しそうだな。
ウインターカップに向けて無駄にして良い時間なんて無い、私たちは慢心する程強くはないから。それに大喜くんとは、いつだって一緒にいられる。大喜くんのお父さんは交際を許してくれたし、由紀子さんだって味方してくれるだろう。たった数日離れてるだけ、去年なんか一ヶ月も別々だったじゃないか。
なのになんで、こんなに寂しいんだろう。
私は人より優れてる訳じゃない、だからこそ愚直に進むしかない。ただひたすら、真っ直ぐに。そんな日々を繰り返す中、気が付けば隣は大喜くんがいた。道は違えど方向は同じで、時には背中を追ったり追われたりもした。
そして、……そして。私は大喜くんを好きになり、大喜くんは私を好きになってくれたのだ。
だから私は、決して立ち止まらない。夢佳と決着を付けたい、お父さんに認めてほしい。大喜くんに、私を好きで居続けてほしい。この程度の人なのか、好きにならなければ良かった、なんて死んでも思われたくはない。その為なら、誰を敵に回そうが私は負けない。
練習を続けながら決意を新たにし、私はもう一度海水浴場へと視線を向けた。
ビーチは賑やかで、観光客で溢れている。もし合宿がなかったら、大喜くんとあの中にいたのだろうか。……いや、無いな。きっと大喜くんは練習を優先するべきだと言うだろう、それでこそだ。
日はもう傾き、ビーチも閑散としつつある。練習も終わって私たちは浜辺へ降り、黄昏たり黄昏なかったり。
明日は私の誕生日、部員たちは色々と用意しているらしい。インターハイお疲れ旅行中の男バドも呼ぶよ、なんて余計な気遣いが少し重いけど。
そう言えば、そう言えば。去年の誕生日は大変だったな。その数日前に、蝶野さんが大喜くんに告白したと知ってしまったから。……まさかその後で面と向かって宣言されるとは思わなかったけど。ああいうの、鞘当てっていうのかな。
とは言え、だ。未熟なまま背負うものばかり増えて、どうして良いか分からないまま『辛い時は誰かを頼りなさい』というお母さんの声に導かれて――大喜くんと海へ行ったんだ。
何かあったんですかとか頼ってくださいとか、そんなのは言わない。ケーキをくれて、海を見詰めて。そんな時間が、愛しくて――。
あぁ、そうか。私はきっとあの時点で、大喜くんを好きになっていたんだ。だから蝶野さんの鞘当てに胸を痛めたり、大喜くんに逢いたくて朝駅から走ったりしたんだ。
そうだったんだ、な。そう分かってしまえば、些細なことだ。花恋に『まだそれほどでもないかも』と言った頃にはもう、と虜だったんだ。
「あー……幸せだねえ」
するべき事はいっぱいある、今は確認しただけで良い。すぐ逢えるし心は通じている、寂しがる必要はない。時間はまだまだ、あるのだから。
幸せな時間は終わらない、きっと。ずっと。