私は仲間にも後輩にも恵まれている、と本当に思う。こんな私を支えてくれるのだから、頑張らないと。――いや、違うな。あんまり気張りすぎるな、と以前渚に釘を刺されたじゃないか。人を頼れ弱音も吐け、私らがどうにかしてやる。千夏さんが寄り掛かって嫌な顔をする奴はいない、いたとしても私が殴っておく、なんて。
着ぐるみの中でニヤケながら、私は廊下を歩いていく。スタンプラリー用の顔見せにその辺歩いてきなさい、とのお達しを受けての事ではあるけどまあ気を遣って抜け出す口実をくれたんだろう。合宿の時と同じように。
気遣いはちょっと重いけど、悪くはないな。
夏休みに大喜くんとの交際を打ち明けてしまったのは、殆どが勢いだ。とんでもない事をしてしまった、と帰り道は内心気が気でなかった。
全国を征するどころかインターハイにも出られず夏を終えて、それなのに浮わついて。蔑まれるだろう疎まれるだろう、と覚悟せざるを得なかったくらい。夢佳にも嫌みを言われたな、男作って遊び歩くような女だったのかと。いや今考えたらあっちも彼氏連れだったんだし、少なくとも再会して開口一番『じゃあ全国制覇は諦めたんだね』とか失礼なこと言われる筋合いはあんまり無いんだけど。
発覚が夏前だったら更なる惨状だっただろうし、今なのは不幸中の幸いと言える。何にせよ新学期、どころか次の練習日は修羅場だな、とため息の一つも吐きたくなってしまっていた。
まあそれは、杞憂だったのだけど。
どうも私と大喜くんが近しいというのは、結構前から皆が気付いていたらしい。そして大喜くんの頑張る姿も同じ体育館で見ていたわけで、あの後輩なら大丈夫でしょ、と皆笑って認めてくれたのだ。そりゃあれこれ聞かれはしたけど、立ち入った話にはならずに済んでくれた。
一応渚は同居を知っている身として『言って良かったの?』と聞いてきたけど、その意味は私の想像とは違っていた。色恋沙汰にかまける暇があるかと叱られても仕方ないつもりだったけど、渚は『あんたモテるんだし、彼氏くん周りに妬まれちゃわない? 体育館にいる間はともかく、それ以外では学年違うんだからフォロー出来ないでしょうが』と、大喜くんを心配しての忠告だったという訳で。
しかし私がモテるとか、渚はなにを勘違いしていたんだろう。こんなワンパクでたくましい子相手に、まさかまさか。でもそう言えば前に花恋から『他校の男子がちーの連絡先知りたがってるけど教えて良い?』とかハゲた事聞かれたっけ、知らない人と話すの苦手だから断ったけど。
あれはもしかして、そういう魂胆だったんだろうか。私ってもしかして、意外とモテてる?
いや、いやいや。いやいやいやいやいや自惚れるな、まったくもう。私は大喜くんが好き、大喜くんは私を好き。それで良い、それだけで良い。
家へ帰れば思う存分イチャつける、とまでは行かないけどお喋りする時間くらいは作れる。学校ではお互いすることも多いんだし、我慢して過ごすのも手だろう。それが普通だし真っ当だ、何かあったらそれこそ大惨事になりかねない。
だけど私は最近、思うのだ。渚の言うように、もっと周囲に甘えていくのも良いんじゃないかと。私が思うよりずっと、世界は優しい。血を吐くような道程を行かなくとも、責められたりはしない。もしかしたらお父さんも、そこまで強く拒みは――……いやそれはさすがにどうだろうな。そこは私が相対して敢えて傷付くべき所だ、そこまで能天気になっては不味い。適度に脱力、適度に緊張、バスケと同じだ。臨機応変に構えないと、足下を掬われてしまう。
さて、と。大喜くんは何処に居るだろうか。クラスの出し物はお化け屋敷らしいから、今は作業の真っ最中かも。この格好なら誰だか分からないだろうし、覗きに行こうそうしよう。
去年は何処か寂しく感じた秋の風が、なんとなく優しく思える。被ったネコヘッドのお陰か、はたまた今年は大喜くんと離れずに済んだからか。
まあ良いか、どちらでも。私がすることは変わらない、これから頑張ったり甘えたりしよう。それで十全、私の人生は何があろうと大丈夫だ。二人なら、二人だから。