全く、どういう了見なんだか。先輩をからかうんじゃないよ、本当にさ。
実行委員会の人に書類を渡した帰り道、自販機でお茶なんぞ買いながらそんな事を思ってみる。
あれは失礼な奴だけど悪い子じゃない、バカなだけ。だから距離感考えず、名前で呼んで欲しいとか言ってくるんだ。それだけだ、その筈なんだ。
――あなたを良いなと思う気持ちがこんにちわしてきたんですけど、か。きっとあれもまた、バカだからこそのうっかり発言なんだろう。ほら私顔の印刷もスタイルも良くて才能溢れるエースオブエースだから、一年生からしたらキラキラ光ってて当然だもん。そういう一過性の気持ちなら、何度も抱かれてきた。
もしもそうでないなら、真剣な気持ちだと言うのなら。私は――どうしようかな、どうしたもんだろうか。
「……いけないな、これは」
小さく呟き、お茶の缶を握り締める。もう良いんだよ、そういうのは。他人のはともかく自分ではする気になれない、さすがに疲れて仕方ない。暫くは大喜と千夏先輩を見守るくらいで十分だ、それくらい距離を置いていたい。
大喜の事を嫌いになる日は来ないだろう、大喜も私を嫌いにまではなるまい。
もし大喜に何かあれば、私は隣に誰がいようと駆け付ける。大喜もきっと、私に何かあればすぐ飛んでくる。私たちは親友で、だからこそ恋愛関係にはならない。私が恋心から目を背けてきたのも、知ってたからだ。大喜は私に恋をしない、千夏先輩しか見ていないと。私が泣いて終わるならまだしも、友達でさえ無くなってしまう可能性もあったのだ。
思えば拗らせたものだな、迷惑も掛け通し。まあ大喜はバカだから気にしないか、それ言ったら私も私で相当だけど。
とは言え今はもう友達に戻った私たちだ、終わった事は考えても仕方ない。悔いも憂いももう無いんだ、蝶野雛は折れない負けない。……一応今度菖蒲には謝ろうかな、でもあれがおかしな気の遣い方したせいであんな風になったんだけど。
しかしまあ大喜の奴、まさか千夏先輩と付き合ってると公言するとはね。私は春にはもう知ってたけど、あまり口外して良い話とは思わなかったのに。やっぱバカだからなあ、千夏先輩もあんなんが彼氏じゃ大変だわ。私がフォローしたげないと、ね。
……はて、そう言えばそう言えば。もし私に
「……む」
ふと思い出すのは、あの後輩――ハルトだっけ? の事。バドバカで他の事をサボってる風に見えることもあるけど、実は真面目で一本気。顔も体格も違うけど、それでも何処か似ているのだ。大喜のバカに、意外なくらい。類は友を呼ぶというかバカがバカを呼んだのか、本人たちはイヤな顔するかもしれないけど似てるんだな。
さっき見たときハルトは作業中、美女と野獣の背景セットをせっせと描いていた。バカはバカなりに、頑張ってる訳で。先輩である私としては、労うべきだろう。バカ言いくさるから逃げちゃったけど、あの描き割りにも興味あるし。去年私らが作った白雪姫のやつより精巧かも知れない、じっくり見たいわ。
「ついでに差し入れでもしてやろうか、な……」
コーヒーか紅茶か、紅ヒー……もあるんかい何だよこの自販機。混ぜんな混ぜんな。
適当に目についたのを一つ買い、ポケットに放り込んで私は体育館へと足を向ける。
あのバカはどんな顔をするやら、なんだか楽しみだな。