アオのハコSideB #101~   作:扇町グロシア

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アオのハコ#166 「この気持ちは」SideB 緊急搬送

 まったく世話が焼けるったら、どうしてこうも我慢強いんだか。

 周りが気付かないようにひっそりと体調崩すな、はた迷惑にも程がある。

「退いて退いて、退けってのー!!」

 台車を全力で押しながら廊下を駆け抜け、目指すは自分のクラス。ついさっき耳にした『匡が倒れた』というのが事実であるなら、ちんたらしていられない。急げ急げ、もっともっと急げ。

 あれに何かあったら、――ものすごく不愉快だ。好きとか嫌いとかじゃない、そんなもん飛び越えている。 

 菖蒲は嫌なことをしない、好きなことだけして生きていく。だから絶対、不愉快になるようなことを許さない。菖蒲のそばでは、みんな幸せでいてくれないとダメなんだ。泣くのも嘆くのも、可愛くない。みんなを笑顔でいさせる為なら、いくらでも頑張るさ。

 菖蒲は菖蒲が大好きで、菖蒲を好きになってくれる人も好き。だけど今()()じゃない人だって、好きになって見せる。

 笠原くんは菖蒲を好きじゃない、だからって放っておけない。だって菖蒲は――。

 

 

 失礼なメガネだな、が最初の感想。

 本気で誰かを好きになった事ないでしょとか、面と向かって言うか普通。多分バド部でマネージャーやってなかったら、話もしなかっただろう。陰険メガネめ、と罵ったりもしたっけ。

 だけど考えてみれば、もしかしたら。あのメガネは、本質を見抜けるメガネなのかもしれない。ひなっちの慟哭を経て、二人で話す機会もあって。そんな風に思えるようになってきて、もうずいぶんになる。

 余計なことしてウザがったりウザがられたり、それでもなんとなく一緒にいる間柄。

 ……まあ、好きとかそんなんじゃないけどさ。お姉にまで勘違いされたけど、やっぱり違うんだ。

 きっとこれは、気を許せる「友達」としての親愛なんだろう。若しくは単なる腐れ縁、切っても切れない悪縁か。

 とは言えもしも向こうが菖蒲を好きだと言ってきたら、吝かではない。こっちからはどうも行きづらいけど、来てくれたら話は済む。菖蒲を好きにならない男子なんかまずいない、間合いに入ってくればこっちのものだ。

 でも実際に笠原くんが好きなのは、多分ひなっちなんだよね。あの距離感は九割方そうだ、経験豊富な菖蒲の目は欺けない。

 しかしまあややこしい話になると困るから、そこは考えないようにしておこう。

 恋愛は軽くて楽しいもの、面倒なことを考えるなんて菖蒲らしくない。

 でも自分の気持ちを抑え込むのも、やっぱり菖蒲らしくない気がしてしまう。

 重症だな、これは。

 

 

 そう言えば高砂くんを待たせたままだな、落ち着いたら謝ろう。でもそんなのは後で良いでしょ、うん。

 今はとにかく、笠原くんを保健室まで運ばないと。

 明らかに顔色が悪い、急変ってレベルじゃない。意識だって朦朧としているだろうに、何で『大丈夫』なんて言えるんだ。そんなだから困るんだよ。

 何処まで人を頼らない気だ、人間不信メガネめ。辛いなら辛いって言え、周りに後悔させるなバカメガネ。弱音一つも吐けないなんて、寂しいメガネになっちゃうぞ。

 ガラゴロガラゴロ、急ぎすぎて何度もぶつけたせいかキャスターが歪んだらしい。豪快な音を立てながら、菖蒲は必死で台車を押していく。

 人一人乗っけて運ぶのも大変だ、でもスピードが出ない分身体には優しいかもしれない。ガタゴト言ってるしプラマイゼロかな。

 (うわごと)さえマトモに出ないくらいに消耗した病人を搬送するんだ、余計な事を考える暇はない。

 頑張れ親友、菖蒲も頑張るから。

 

 

 

 

 

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