アオのハコSideB #101~   作:扇町グロシア

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アオのハコ#172 「目の前の“今”」SideB 断じて負け惜しみではない

 大したこと無い、そう言える程の差はあった筈だ。少なくとも去年の夏前までは。中学時代から成長していない、私がつけば余裕で抑え込めると信じていた。

 負けて尚あれは総合力の差であって私と鹿野さんの差ではないと確信し、先輩方が抜けてしまった籠原の現状をどうにかしなければと奮戦していた。

 その結果私たちは二年連続でインターハイを逃すどころか県予選序盤敗退という醜態を晒し、籠原はもう終わったとさえ言わせてしまった。

 最後の望みを賭けたウインターカップでさえ、県予選一回戦がまさかの大惨敗で終わるとは。

 全く、いっそ面白いくらいに裏目を引き続ける。一応はライバルだと思っていた鹿野さんは、あんなにも順調に勝ちを手にしたのに。……いや、順調ではないか。インターハイ県予選を怪我で棒に振って尚突き進むのは、立派に波瀾万丈だ。

 ――と。試合を終えた鹿野さんが、彩昌の選手と僅かに視線を交差させるのが見えた。あれは確か、後藤夢佳……だったか。今年になって彩昌女子バスケ部に入ったというのに、今やチームの要となっているエースだ。決して強くはなかった彩昌を叩き伸ばしてインターハイまで引きずっていった、『道を開けろ凡人ども、天才様のお通りだ』と背中に描いてあるような不遜で不敬な……本物の天才。

 はて。そう言えばミニバス時代、近くのチームにそんな感じの選手がいたような。でも後藤ではなかった気がする、誰かと間違って記憶しているのかな。

 しかしあの二人、見ていて惚れ惚れするくらいにライバル同士だな。これでどっちかが不敵に笑ったら数え役満なんだけど。

 ああ、ああ――なんなんだろうな私は。鹿野さんは同格だと思ってたのに、随分と引き離されたものだ。もはや背中も見えやしない、すっかり周回遅れ。

 

 誰かを好きになる暇も、バスケ以外の事を考える暇も無かった。ミニバスから中学高校とバスケ漬け、同じ境遇の戦友達とどうにか歯を食い縛って耐えてきた。でもバスケには、敢闘賞はない。負けてしまえばそこで終わり、努力したと言えるのは勝った側だけ。死んでも勝つ、それが誇りだったのだ。

 思えば私が執着するのは、バスケ以外では鹿野さんが唯一だったかもしれない。その鹿野さんは、バスケ以外にもちゃんと生き甲斐を持っているらしいけど。スポーツの世界は狭いし私らだって年頃のメスゴリラだ、色恋の話は学区を越えて伝わる。どうも夏の終わりくらいに彼氏が出来たとか実は前々からそんな気配があったとか、あれこれと聞いたときは目眩がした。私は全部擲ってもこの様なのに、どうしてこうも差があるのか。もう嫉妬もする気にならない、肖りたいやら金借りたいやらってなもんだ。

 それだけでもガックリ来るのに、後藤夢佳も後藤夢佳で試合が終わるなり彼氏らしき男子とじゃれあっている。なんなんだよリア充どもめ、二物も三物も持ちやがってさ。

 才能の差か努力の量か、はたまた運の有る無しか。どんな理由か知らないけど、私にだって少しは回して欲しいものだ。

 まあ、もう遅いけど。

 

 籠原のウインターカップはこれで終わり、粘り続けた引退ももう伸ばせない。スポーツ推薦がとれるような成績は出せなかったから一般入試だ、冬はもう勉強漬けだな。今までバスケしかしてこなかった分、苦労する事になるだろう。

 努力は裏切るし才能は生えてこない、成功が手を差し伸べてくる事はない。それは拗ねてひねくれた考えではなく、真実だ。しかしそれでも、そこそこ人生は面白い。上手くいかなくて下を向いて、それでも死ぬ訳じゃない。負けて負けて負け続けて今の私がある、もう恨みはしないさ。これはこれで楽しんでやる、それでこその人生さね。

 バッグを肩にかけ、冷たくなってきた風を受けながら私は歩き出す。

 精々成功し続けろ、スターども。お前らの輝かしい日々なんて、鼻で笑ってやるよ。




あの「大したこと無いですね」の人です。
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