猪突猛進とは大喜くんの為にある言葉だろう、いつだって真っ直ぐに突っ走って止まらない。その直向きさに、私は何度救われただろう。そもそも大喜くんがいなければ、私はとっくに潰れていた。仲間たちと離れる事もインターハイを諦める事も嘆きながら受け入れ、少しずつ心に澱を溜めながら作り笑いでやり過ごすようになっていただろう。考えただけで背筋が凍る、そんな人生なら棄てた方がマシだ。
敗北の悔しさを、夢を追う覚悟を思い出せたのは大喜くんがいたから。大喜くんを好きになって、私はもっともっと強くなる。
私はそれを恥じたくない、むしろ誇りたい。愛こそが私の心臓を動かしているのだと。
だからこそ、お父さんにも認めて欲しい。そりゃまあそれは確かに本心だけれど、うん。
いきなり乗り込んでいく辺り、猪突猛進というかあれはもう単に考え無しなんじゃないだろうか。
私が背負うしかない、どうにかしてわかってもらうんだ。そう覚悟はすれど、嫌な予感が身体を巡り指先を鈍らせようとする。
ダメだ、それは一番の悪手だ。バスケを疎かにした、と思われてしまえばもうすべてが終わってしまう。別れさせられるどころか、日本にさえいられなくなるかもしれない。
私は大喜くんが好き、それを胸にバスケでも結果を出す。決して簡単な事じゃない、だけど――大喜くんに負担をかける訳にはいかない。
――と、思っていたんだけど。どうやら大喜くんには、声にせずとも伝わっていたらしい。
「俺にも、持たせてください」
そう言った大喜くんは、いつもの笑顔で。私が好きになった、私を好きな、いつもの大喜くんだった。
まるで買い物袋をひょいっと持ち上げるように軽く、でも誰よりも信頼できる仕草。
ああ、そうだ。やっぱり私は、大喜くんが好きだ。
昨日の大喜くんは格好良かったけど、しかしそこからまさかああも奇想天外な事を思い付くとは。よくもまあ、と関心さえする。まさか私の代わりにお父さんの所に居候するとか、どんな風に考えたらああなるんだろう。
さっき話した感じだとお父さんの無愛想ぶりにちょっと圧されてる感じだな、昔菖浦ちゃんもお父さんを怖がってたし。あれは血が繋がってても結構堪えるんだ、何をしても関心を持ってくれないから。
私も小さい頃はお父さんが大好きで、もっと笑ってほしくて色んな事をしたな。マジックとか、お菓子作りとか。
お菓子は食べるのも作るのも好きになったけど、でも――お父さんは喜んでくれなかった。表情が緩む事もなく、仕舞いには「会社で配るから」とか言って手も付けなくなって。それでもう面倒になって、止めたんだ。
将棋とか水泳とかも、上手くなったら誉めてくれると思ってた。でもやっぱりお父さんはいつも通りで、気が付けば止めていた。
私はもう小さな子供じゃない、誉めてほしいとか気を引きたいとか幼稚園児みたいな事はもう考えない。
――そのつもりだったのに、な。
たった一言否定されただけで、私は思いきり凹まされてしまった。まったく因果なものだ、父娘と言うのは。
時計の針はもう中天に座し、夜はとっぷりと更けている。明日も練習するのに夜更かしは不味い、でもなかなか寝付けないのは大喜くんのせいだ。
何をする気なんだろうな、私の恋人は。大喜くんってたまに道がない所突き進むからなぁ、夢佳の時もそうだった。ウインターカップに来てくれたのは大喜くんがあれこれ頑張ってくれたからみたいだけど、あの後夢佳に「彼氏の手綱くらいちゃんと締めとけ」って笑われたんだよね。ひっぱたかれてもめげないのは良いけど、余計な世話焼きすぎだと。まああの頃はまだ付き合ってなかったけど、さ。
て言うかあの時は聞き流したけど、大喜くん夢佳になに言ったんだろう。いくら夢佳でも、親しくもない男子は殴らないと思うけどな。
……殴る、か。まさか大喜くん、拳で語り合おうとしたりしてないだろうな。いやそれは無いと信じたいけど、言葉じゃ伝わらないとかそんな風に暴走する可能性はゼロではない。明日会ったら、それだけは止めなさいと釘刺そうかな。
しかしそうなると、お父さんが拳を振るう可能性もあるわけか。「娘を奪っていく君を殴らせろ」なんて、古い歌みたいに。
いや、いやいや。いやいやいやいや、まさかまさか。お父さんにそんな脂が残ってる訳はない。
あーでも、あんまり仲良くなりすぎても困るかな。信じて送り出した大喜くんが……とかなったら、うーん…………それはそれで。
いやそれはそれでじゃないぞ私、いくらBLは女子高生にとって炭水化物だからってナマモノは良くない。
違うな、そうじゃないしそこじゃない。深夜テンションでおかしくなってる、落ち着け私。
「……無理にでも寝ないとダメだな、これは」
ばふりと布団を被って固く目を閉じ、私は入眠体勢へ移行すべく意識を奥底へと沈めていく。
明日だ、明日。明日のお昼休み、大喜くんと話そう。だから今は、おやすみなさい。明日はきっと、うまくいくから。