――どうせまた、余計な事考えたんだろうな。
まだ住み始めて一年半、広くはなったが今一つ馴染めない
冬樹さんはどうも、言わない事は伝わらないという事が分かっていないな。家族だからって以心伝心なんかじゃないぞ、まったくもう。
仕事の件があるというかそれを口実にして千夏の顔を見たいのは察するけど、一言なんか言ってからいけば良いのに。由紀子から連絡が来て驚いたわ、だったら私も一緒に行きたかった。
それはともかく、問題はそのあと。千夏を猪股家から他所へ行かせ独り暮らしようとしている、と翌日お怒りメッセが届いたのだ。曰く『そりゃ産んではいないけど千夏ちゃんを実の娘みたいに思ってるし、本人もウインターカップを控えて大事な時期なんだからさ。あんたちゃんと夫を教育してんのか、うちはちゃんと逆らわないように
男親ってのはどこもこうだな、私の時もそうだった。子供の考えなんて大したものじゃない、大人がちゃんと導かないと、なんて気負うだけ気負ってプレッシャーばかりかけるんだ。男親は自分で産んでない訳だし、鈍くても仕方ないんだけど。
まあそりゃあ、気持ちは分からなくもない。娘に彼氏的な存在ができてしかも一つ屋根の下にいると知ったら、日頃口を開かない冬樹さんでさえ叫びかねないし。さすがに気が付くだろ、あの二人が一緒にいるのを見れば。
私や母さんは正月の時点で気づいてたけど、ね。
大喜くんがたまたま群馬まで来ていた、はまあ無くはない。だけど話に出たスキー場は車で二時間はかかる、偶然近くにいたなんて有り得るか。それ以前に千夏の表情が、すべてを語っていた。去年の秋に一ヶ月ほど一緒にいた時にも徴候はあったけど、もう隠す気さえ無いんじゃないかと思うくらいにハッキリと。ずっと子供のままだと思っていた千夏は、
大喜くんを駅まで送り、家へ帰ってから母さんはこう言った。アンタも中学三年生の時ああなったわね、と。……憚りながら初の彼氏が出来たのがその位で、でも誰にも話さず一人で抱え込んで半年持たずにパンクしてしまった。恋に恋するとはあんな感じなのだろう、とは言えもう顔も名前も全然覚えていないけど。
私はずっと隠せていると思っていた、でも母さんは一目で見抜いてしまったのだな。そして私も千夏の恋を感じた訳で、これって女親の本能なんだろうか。『股を痛めて産んだ子供が大人になった事にも気付けなくて、どうして親なんてのが務まるのよ』、なんて笑いながらお茶を淹れに行った母さんの背中は記憶より小さく、でも不思議な安心感に満ちていたのを覚えている。
いつか千夏も、私をそんな風に見てくれるんだろうか。そうなってほしいな、うん。
……あんまり拗れるようなら私が行かないとダメかな、冬樹さん悪い人ではないけど誤解されやすい上それを解こうとしないから。
由紀子も由紀子で『当人同士いっそ殴りあいでもして、強引に和解しちゃえば良いのよ』とか言って大喜くんを冬樹さんの借りたマンスリーマンションに送り込んだそうだし、いよいよ取り返しがつかなくなるぞこれ。由紀子は本当にモノを考えないからなあ、どうするんだこれ。千夏を大事にしてくれるのは有り難いけど、さ。
さてどうするか、ソファに背中を預けながら掴んだスマホに映る、自分の顔を見ながら考える。
千夏のためを思うならどうするべきか、どうあるべきか。
親として私がとるべき選択は――