二年の終わりに入部して、まだ一年と経っていない。そんな私を部の中心に置いてくれた部員たちには感謝しているけど、同時に情けなさも覚えてしまう。幾らなんでも層が薄すぎだ彩昌、ロートルに負けてんじゃねぇ。
……そういや前もそう思ったな。
『ブランクがある新入り相手に負けてんじゃないよ、現役の癖に』
入部早々1on1でレギュラー全員をあっさり下してそう言ってやった時は、さすがに顧問が怒ったっけ。いくらなんでも失礼でしょうが、ってまあそりゃそうか。そこから部内を引っ掻き回す傲岸不遜な新参者としてあれこれ衝突し、それでも実力で黙らせて。気が付けば最初で最後だけどインターハイに出られた、不良バスケ娘の物語としては上出来だろう。
これで千夏と決着を付けられていたら、夏の時点で引退しても良かった。
本当ならばそうなる筈だったんだ、私の頭で一般入試するんだから時間はいくらあっても足りない。早く切り上げて大学受験を見据えていかないと、などとは思えど――ウインターカップを後輩に譲るわけにはいかない。
戦う機会を奪われた親友から、雪辱を果たそうと挑む気持ちまで奪ってしまわない為に。
素直に負けてやる気なんか無いけど、さ。
私たちは二人揃えば最強だと思っていた、それを証明し続けた。少なくとも、ミニバスの間は。
中学に上がるなり私は『現実』にフルスイングでぶん殴られ、堆い壁の前に踞るしかなかった。どうにかエースの矜持を保てたのも一瞬だけ、すぐに凡才へと落ちていく。それでもバスケが好きだから頑張りたかった……んだけど、最悪のタイミングで私は知ってしまう。『好き』は時間と共に失われ、決して戻らないと。
父と母の間に『好き』はもう残っていない、私とバスケの間にも。
ならもう、良いじゃないか。出来もしない事に必死になるのも、周りに期待されるのも、なにもかも面倒だ。
理由をつけて逃げ込んだ先では、日々が穏やかに過ぎていった。これまでとは違う、呑気な時間。朝練も強化合宿もない、漂いながら生きていく私。
好きになったりなられたり、友達と遊んだりバイトし始めたり。長閑で何処か退屈な、極々普通の高校生活。
でもそれは、私を抑え込むには足りなかった。
千夏と望まない形で再会した事。
あのチキンタツタ野郎のお節介。
去年のウインターカップ。
そして宗介が、私の背中を押してしまった。
もう最強じゃない、道を外れ地に落ちた元エース。そんな惨めな私の中にも、赤々と燃える感情がまだ残っていたのだ。
戦って戦って、灰も残らないくらいに戦って。そして――決着を付ける。私の望みはそれだけだ、それ以外は必要ない。
研ぎ澄ませ、余計なものは剥がして捨てろ。
それでこその私じゃないか、折れず曲がらず一点を突き抜けろ。
「よろしくお願いします!」
開戦を告げる挨拶を交わし、私たちは向かい合う。
ああ、何て良い日だろう。今日こそ本当の決着だ、ウインターカップ本戦なんか考える気もしない。今日死ぬつもりでやってやる、この試合にはそうするだけの価値がある。
人生の半分以上を費やした荒れ狂う夢が、ようやく終わる。勝っても負けても恨みっこなし、全力でやってやる。
「千夏。また私にバスケやらせてくれてありがとね」
この気持ちに嘘はない、バスケに戻ってきたからこそ今がある。人生で一番熱い日を、ただひたすら楽しもう。
ミニバス時代のように心は高揚し、でも歳を経た私には照れ臭くてそれを直視できない。
だから口の中だけで、呟いてみる。
――さあ、道を開けろ。天才様のお通りだ。