アオのハコSideB #101~   作:扇町グロシア

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アオのハコ#179 「幻」SideB 勝ってやるぞと勇ましく

 全く嫌になるよ、あの角度と距離でどうやってシュートを決められるんだ。アメフトの神頼みの一撃(ヘイルメリーパス)みたく苦し紛れの一投かと思えば、的確に点を追加しやがってさ。二年もブランクがある癖に、毎日やり続けた私たちを軽々しく驚かすなっての。

 試合はまだ第一クォーターが終わった所、でも終わる寸前にリードされたのは精神的に辛い。タイミングを知ってるんだな、どうすればより良く相手を消耗させられるかを。天性の性悪だよ、目付きの通りに。

 流れる汗を拭って見据えるのは、かつてのチームメイト。

 誰だよこんなのを復帰させたのは、……なんてね。色々思いはすれど、中学時代を思い出させてくれる邂逅には実際感謝している。そもそも夢佳がいなけりゃインターハイだって出られただろうけど、それ以上に私は――私たちは現状が楽しくてしかたない。 

 

 

 夢佳はミニバス時代エースだった、と聞いても大して驚きはしなかった。栄明はスポーツ私立で、地域のスポーツエリートが集まる学校だから。私はそこまで讃えられたりした記憶はないけど、そこそこ誉められる経験を経て入ったんだ。

 それに意気揚々と女子バスケ部に入った直後、皆同じように鼻っ柱をヘシ折られたから正直「差」と言える程のものがあるとは思えなかったし。

 二年三年のレギュラーと一年生組が試合して、勝てるわけがない。後で見せてもらった動画も、正直大人と子供くらいの差があった。たった一年二年の練習量が、覆しようがない程の差を産むとは思わなかった。どの競技でも一年生が活躍するチームはまずないけどそれも当然、全員ドングリの背比べだったんだ。

 私たちがしていたのはミニバスという、ただの「バスケごっこ」だったのだと痛感させられたな。

 そのまま嫌気が刺して辞めてしまった子もいたけれど、私らはどうにか残って三タイプに分かれた。

 先輩たち凄い私もああなりたい、と眼を輝かせるタイプ。千夏はまさにそれだ、めげることを知らず折れず曲がらず一直線。痛みも嘆きも隠して歩む努力の人。

 いつか寝首をかこうと牙を研ぐ、野心家タイプ。そんな夢佳は出来ない奴が大嫌いで、すぐ「なんでこの程度もこなせないの?」とか言いやがるイヤミ大臣だった。

 んでもって一番多かったのが、私みたいなバスケ好きの凡人。厳しい練習は正直キツいけど、バスケが好きだし友達とも一緒にいたいから頑張る。

 あれから中学時代の私は、千夏に支えられ夢佳に檄を飛ばされ、こけつまろびつ頑張ってきた。

 まあ夢佳にしてみれば熱量が足りないと思うらしく散々嫌み言われたな、でもあれの暴言に悪意はなかった……と信じたい。一応気遣いは感じられた、私の勘違いで無ければ。

 なんだかんだで滑って転んでも立ち上がってまた駆けて、上手く回っていた私たちの中学バスケ生活。それはでも、夢佳の逐電で終わりを告げた。バスケはもう飽きたと他所へ行き、連絡も取れなくなって、そして久しぶりに会ったのが他ならぬ去年のウインターカップだったな。

 散々人に心配かけやがって、何しれっと観戦してんだよお前は。そう言ってやろうと思ったのに、千夏と盛り上がってるから話し掛けるにも話し掛けられなかったじゃないか。

 

 

 私たちはきっと、恵まれている。大会をどう征するかを考えられる、日々を練習に費やせる立場にある。金がかかる私立校に行かせてくれた理解ある親もいる私たちは、世間的に見れば奇跡的に幸運な人間だ。

 どんなにバスケ好きの集まりでも一回戦突破さえ出来ない学校もいる、親の都合で部活さえ出来ない人もいる。そんな人たちにしてみれば、人生は運命だろうな。勝つも負けるも、結局変えられない。そのなかで楽しみ、満足するしかない。

 ――私はそう思わないけど、ね。

「お……っあぁっ!」

 千夏が決め損ねたシュート、それをカバーしてゴールへと放り込みながら私は思う。

 何が運命だ、そんなもんこの腕でねじ曲げてやる。()()()()()、全力で。

 

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