アオのハコSideB #101~   作:扇町グロシア

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アオのハコ#181 「もう外さない」SideB その四肢は

 不味いな、これは。

 スコアボードに浮かぶ点差は僅か二点、シュート一本で消えてしまう。彩昌(うち)の連中だって私ほどではないにせよ実力はある、しかし――栄明の勢いに押され過ぎている。

 全く、変わりゃしないな。何の因果かはたまた祟りか、向こうの面子は全員顔見知りだ。流れに乗り切ればどんな強豪にだってかじりついてくる、統率の取れたメスゴリラども。侮りはしていなかったけど、ここまで伸びているとも思わなかった。 

 そしてそれを束ねるナツは、三年の間に信じられないほど成長した。もしかしたら、インハイ予選の時よりも強くなっているかもしれない。

 こっちは調子を戻すだけで精一杯だってのに、嫌になるね。

 

 同じ視点で見ていた筈の景色は、すっかりズレてしまった。それを確信したのは、中学バスケの引退から少しした頃。

 まだやりたりないし高校の練習に混ぜてもらおう、なんて目を輝かせるナツが他人よりも遠く見えたのを覚えている。

 しばらくしたら戻るから、なんて嘘を吐いて離れなければ持たなかっただろう。正直私はもう、ウンザリしていたのだ。思うように勝てないまま気持ちが膿んでいき、すっかり嫌気がさしていた。

 ナツたちとつるむ事は減り、今まで関わってこなかった連中と遊ぶようになって、私はずっと知らなかった世界に触れるようになっていく。お洒落も恋バナも、全然興味なんか無かったから新鮮で仕方なかった。……皆と買い物行って、流行りに合わせて女子女子した服買ったなぁ。それ着て帰ったら母さんに、『なにそれ、あんたなんでそんな女の子みたいなの着てんの。女装でも始めた?』とか真顔で言われたな。アンタのお腹の中にいる時から女子だよ畜生。

 練習で疲れ果てるのも休日を部活で潰すのも、もう御免だ。そう思っていたんだけど、な。

 ナツたちと決別して栄明を去り、彩昌で私は地味な一般生徒となって。毎日がとても長閑で、一日がとても長くて。

 ――余計なことばかり、考えてた。 

 意味の無い焦燥感と行き場の無い罪悪感、それを振り切るように日々を生きていた私。ありふれた青春は楽しい、はずなんだ。なのにどうして、涙が出そうになるのか。

 あのジャガイモ野郎に言われるまでもなく、宗介に背中を押してもらうまでもなく。

 私はずっと悔やんでいたんだ、ナツと向き合うのを怖れたあの日を。

 

 目の前の試合は、更に旗色が悪くなりつつある。さすがは栄明だ、チャンスを手繰り寄せる天運を持っている。

 私の四肢はまだ重い、心臓の鼓動も復帰しきれていない。100%で動けるのは数分、しかし回復を待っていては試合が終わる。

 ここで座ったまま決着なんて、冗談じゃない。今動かないなら、こんな身体はいらない。

 私は、いや私も――変わったのだ。今ここにいる私が、すべてを賭けて挑むべきだ。

 ブランクを作ったことは後悔している、だがそれ以外を悔やんではいない。新しい友達が出来たことも、知らない世界を知れたことも。――恋をしたことだって、私を支える背骨になっている。何より栄明を出たからこそ、ナツたちと戦えるのだ。

 その全てが、思い出させてくれた。とてもシンプルで大切なこと、私はバスケが好きだという事実を。宗介には悪いけど、お前は世界で二番目だ。

 だからいつまでも、こうしてはいられない。勝っても負けても決着がつく、この試合が私にとっての大一番。

 さぁとっとと私を出せや監督、このままズルズル負けさせるなよ。そう目で訴えた想いは伝わった……のだろうか、『今戻ってどうする』みたいな顔が返ってきた。

 決まってるだろう、一切合切ブチまけてやる。どうなろうと恨みっこ無し、ただ暴れまわるんだ。

 この手足はその為に、荒れ狂う為にあるのだから。

 

 

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