日曜日の部活に大喜先輩がいない、というのも考えてみれば珍しい。あの人大体毎週いるというか、バド以外なにしてんだってくらいバド漬けだから。あの人でもインハイ勝ちきれないんだから、世間って広い。
バスケ部がいない分広く感じる体育館で、俺は雑念を交えつつ練習中。
よその部活の事はよく知らないけど、今日はバスケ部がウインターカップ予選だとかで出払っている。そして大喜先輩はその応援に行ってしまった、なにしろあの人は女バスの部長さんと付き合ってるらしいから。
誰がどうくっつこうが離れようが知ったことではない、そう言ってしまえばそうなのだけれど。今の俺にとっては、少し複雑なのだ。
思えばこのモヤモヤは、文化祭の終わりから今まで続いている。
全く、面倒なことだ。
素振りを切り上げて床に座り、スポドリ片手に溜め息を一つ。やはり集中できそうにない、適当に流してしまいたいが――さすがにそれはダメだな。ここで気を抜いてたら、いつまで経っても勝てやしない。柊仁にも、大喜先輩にも。
なにか揉めてるな、と迂闊に近付いたのは不味かったな。校舎の裏で正座させて取り囲むとか、なんなら助けてやるつもりでいた。
しかしあれは不意討ちだ、まさか文化祭の受かれた空気のなかであんな話を聞くなんて。
要約すると渦中の男子は大喜先輩を倉庫に閉じ込めた、その理由は単なる嫉妬。そこまで聞いてアホらしいと立ち去れば良かったんだ、余計な事を耳にする前に。
『去年蝶野さんとキスしてたくせに、鹿野さんと付き合ってるから』――なんて。周りもそんな事あったなと肯定してた辺り、それは事実である可能性が高い。
一年前、二人に何があったのだろう。どういう経緯でキスをして、何を切っ掛けに別れたのだろう。今現在大喜先輩には彼女がいるんだから、別れたのは確かだ。あんなにも強く激しい、光の塊みたいな人を大喜先輩は傷つけたのか。そう思うと怒りが沸いてくるけれど、でも蝶野先輩は大喜先輩と
少なくともあの二人は、付き合いもせずキスをするような連中ではない。それだけは確かだ、うん。
じゃあいったいどういう事か、思考はグルグル回るだけで進みやしない。どうにもバカなんだな、俺は。
――俺はきっと、蝶野先輩が好きだ。まあ向こうは俺を相手にもしてくれないけど、別にそれは仕方ない。色々失礼な事言っちゃったし、イメージは良くないだろうから。でも、もしも。大喜先輩との事が引っ掛かっているんだとしたら、俺にも出来る事がある。
俺がもっともっと、強くなれば良い。大喜先輩よりも良い男になって、蝶野先輩の心をこっちに向けさせれば良い。いやまあ、言うほど簡単ではないけど。だけどそれが出来れば、柊仁にだって勝てる筈。単純と言わば言え、シンプルなのが一番なんだよ多分。
あかりだってヘタクソなりにバド頑張ってるんだ、人間頑張れば大抵はなんとかなる。その為にも、今は練習練習。
気合いも新たに立ち上がって、俺はふと気がついた。いつも体育館を駆け回って檄を飛ばす、あのツインテール先輩がいない事に。
マネージャーなんだから普段は大体その辺にいるんだけど、今日に限って姿が見えない。ちょいちょい覗きに来る彼氏さんとデートにでも行ってるんだろうか、あの人もあの人で分からん。
……まあ良いか、別に。気にしたって、それもまた仕方ない。
「晴人、シャトル上げてー」
「おぅ、行くぜー」
今日もまた、練習日和。色恋もなにもかも、後回しにしてしまえ。
頭を空っぽにして、ラケットを握り。俺は再び、練習へと戻っていく。