……どうしよう、ちょっと気まずい。
ぐっちっぱでチーム分けしたのに何故男女ペア三つになるんだろう、どっかで被るのが普通な気がする。
まあ、ダブルスで大喜先輩とやりあえるのは楽しみではあるか。左手で、ってハンデ付きなのは惜しいけど。あかりと組む事自体がハンデみたいなもんなのに「二人ともバド部」を理由にするとは、マネージャーそうまでして勝ちたいか。俺がもらったチケットなのに勝手に争奪戦にするし。
それはまだしも、そこはともかく。組んだ相手が大喜先輩の彼女さん、ってのがどうしたって落ち着かない。
あの話の真偽もまだ、分からないってのに。
去年は蝶野先輩と付き合ってたけど夏の間に乗り換えた、なんて器用な人には見えない。そんなことになってたら、蝶野先輩はあんな風に笑えない筈だ。二人は普通に仲が良く見える、少なくとも別れ話を挟んだ間柄ではない……と思う。
やれやれ、余計な事を聞いてしまったものだ。俺はこういうの、向かないんだよな。
蝶野さん、と言えば蝶野先輩。あまり多い姓で無し、現役の栄明生で何人もいないだろう。そして大喜先輩とかかわり合いのある距離にいるのは、あの人一人。その人とキスしていた、でも鹿野先輩と付き合っている。それが許せないから、とあの先輩らしき人は言い訳のように溢していた。周りも否定していなかったし、それが事実である可能性は低くない。
でも、――でも。そんな不誠実な人ではない、と思っている俺がいるわけで。
猪突猛進を擬人化したような、突き進む人。兵藤さんに真正面から着いていける、そして自分に足りないものがあると思えば後輩の俺にも「教えてほしい」と素直に言えてしまう。そんな真っ直ぐな人が、そんな事をするんだろうか。
兵藤さんにもあかりにも気に入られてる辺り、根っからいい人ではあるんだ大喜先輩は。
逆に蝶野先輩の方が一方的にコナかけた、……なんてのは更に無いだろう。それこそあの人はそんな事しない、それくらい俺にも分かっている。蝶野先輩はいつだって眩く輝く、太陽のような人だから。
でもそうなると、じゃああの話はなんなのかって事になる。どっちかに致命的な問題がないと成立しないのに、そんなのは無い気もしているんだから。
思考はどんどん廻るばかりで進まない、どうしたもんかとラケットを弄んでいると不意に隣から声がかかった。
「えと、遊佐くんだっけ。私サーブ得意じゃないから、任せて良いかな」
「あ、あーハイ。俺打ちますんで」
鈴の音みたいなその声に応えてコートに入り、見据えるのは笠原先輩とマネージャーのペア。この二人もこの二人で、なんだかよく分からないんだよな。マネージャー彼氏いるそうだけど大体のやつに距離近めだし、笠原先輩はどうも正体がつかめない割にマネージャーと仲が良いし。
……まあ、考えるのは後だ。試合は試合、負けるのはやっぱり嫌だ。チケットはとりあえず鹿野先輩にあげれば良い、俺はただ勝とう。
そう言えば鹿野先輩は、あの話を知っているんだろうか。当人同士でケリがついてるなら蒸し返すべきではないけど、そうでないなら――……どうしようかな。下手につつくと俺のせいで拗れそうだ。
皆それぞれ色々あって、知らない事の方が遥かに多い。きっとその大半はわざわざ聞く必要がないし、実際知らないままだろう。
でも俺は、出来れば知っておきたい。
大喜先輩と蝶野先輩の間に何があったのか、蝶野先輩は大喜先輩を――どう思っているのか。
その結果しだいでは、俺は改めて大喜先輩に勝たなければならない。
そうしなければ、先へは進めない気がするから。