アオのハコSideB #101~   作:扇町グロシア

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アオのハコ#188 「正しい選択」SideB 人に歴史あり、とね

 いくら師走とはいえ、この雪は少し堪えるかもな。

 雪国から見れば大したこと無い量でも、雪が積もる事の方が少ないこの地域では結構な痛手だ。どの車のタイヤもスタッドレスじゃなく通年で履きっぱなし、みぞれ混じりの段階でも結構危険。これは本格的な降雪が来る前に、大喜と千夏ちゃんを迎えにいく方が良さそうだ。ついでだし買い物もして、晩御飯の支度に二人を付き合わせようかな。

 そう考えたところで、ふと気付く。いつのまにか千夏ちゃんまで、うちの子扱いしている事に。

 まだ二年にもならないのに、股を痛めて産んだ気になっているな。まったく、私と来たら。

 窓越しに見上げた空には雪が舞う、ひらひら落ちて止まらない。あの日と同じように。

 

 ウインターカップを控えて部内は燃えていた、というか浮き足立っていたな。

 引退を控えた私たちは進路のことで既に手一杯なのに、後輩の為にも部活に邁進しなければならなくて。さすがにこんなん両立なんか出来るか、と放り出したくなりながらもどうにかやっていたあの頃。 

 オトナになって考えれば大したことじゃない、だけど当時の私たちは真剣な顔をしていた。――真剣にやれば必ず勝てるなら、苦労はないんだけど。 

 私たちはウインターカップ本戦には出たけれど結局インターハイに続いて惜敗を喫し、そこで小学校からやって来たバスケを引退したのだ。人生の半分程を共にした競技と別れる決断をしたのは、その少し前。スポーツ推薦で大学バスケの道に行く選択もあったし、そこからプロを目指すことも出来た……んじゃないかなぁ……うーんどうだろう。でも道自体はあった、大袈裟ではなく人生の分岐点が確かにあったのだ。

 まあそっちには、行かなかったのだけれど。

 

 もう20年も前、最後の試合を控えた日。春架と二人寄り添うように、体育館でただ過ごしていた午後。

 引退するのは同じだけど進路は違う、春になれば離れ離れ。それなのに何を話すでもなく、ぼんにゃりとしていたっけ。明日試合だね、そうだね、なんて。いつものように、今まで通り。

 何を考えていたのかいなかったのか、今ではもう分からない。でも多分、明後日以降の事を思うのが怖かったのだろう。もう練習に来ることはない、学校自体一月半ばから自由登校だ。私たちはもう、今まで通りではいられないから。携帯はあったけどスマホはなかったし、ネットだって今よりハードルは高かった。普段通りに会えなくなる日は、すぐそこに迫っている。だけど口にしてしまえば、それを認めなければならない。

 少しずつ強くなる雪を見やって『そろそろ帰ろうか』『じゃあ、明日ね』と、いつも通りに手を振って買える途中。何故か泣きたくなって、曇天を仰いだのを覚えている。

 もうじき終わるんだ、苦しかったり辛かったりで終わりを求めていたけれど――離れがたい愛しい日々が。

 ああ、ああ……祭りが終わってしまう。

 冬の空に星のように煌めく粉雪は頬に舞い降り、解けながら肌を滑り落ちていく。それはまるで、涙のように。

 

 ……我ながらあの時は慣れない感傷に浸ったものだ、あほらし屋の鐘が鳴る。あれで風邪なんか引いてたら、春架にひっぱたかれてたかも。ああいうのを中二病って言うのかな、違うかな。遠い思春期の記憶ですよ、ええ。

 さてそろそろ行かないと。大喜と千夏ちゃんが待ちくたびれてしまう。 

「ん、……ん?」

 そう言えば、だ。あの二人、どうして一緒にいるんだろうか。女バドはそれこそウインターカップ目前だから体力温存や体調管理を考えて早めに切り上げると思う、いくら気持ちが荒ぶったってオーバーワークは害になる。あと数日となったら、流す程度の練習をしつつモチベーションを上げていくべき。

 しかしそんな用事はない大喜はいつも通りだろう、あのバカはいつだって変わらない。公式戦前にもドタバタやってたりして、誰に似たんだか本当にさ。

「……あれ?」

 改めて思い返すと、なんだか今年の頭辺りから急に距離が縮まったなあの二人。千夏ちゃんがうちに慣れて打ち解けたからだとか思ってたけど、まさか――まさか。

 いや落ち着け、大喜は私に似て色恋と無縁の筈だ。……でもなあ、千夏ちゃんは春架の娘なんだよなぁ……。あのバカはやたら手が早いから、もしかしたら遺伝したんじゃないのか。

 うーん……気を効かせて二時間くらい遅れていくべきか、それとも親として急ぐべきか。

 どうしたもんだろうな、これもまた大事な選択だ。下手をすると……いや上手くするとかな、千夏ちゃんが本気でうちの子になるかもしれない。それならそれで良いんだけど、ここで時間与えるのは不味いな。私まだお祖母ちゃんにはなりたくない、少し急ごう。

 まったく、忙しいったら。

 

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