アオのハコSideB #101~   作:扇町グロシア

9 / 141
アオのハコ#108「決着ついたでしょ」 SideB 背中を見守る仲

 既に決まってはいたことだけれど、年明けというタイミングでの発表はウインターカップがあったからだろう。そこから少し落ち着いた頃に人事異動、という感じ。

 本日を以て我らの新部長に、千夏が就任することになったのだ。

 気負う事無く責務を受け入れ信念を語る親友は、輝いてさえ思える。あの夏の終わり、副キャプテンになった時とは違う。このチーム好きだもん、とプレッシャーで折れそうになりながらも無理に笑って見せていた頃とは、まるで別人のようだ。誰にも頼らず弱音を吐かず、ひたすら自分を削り抜いていた千夏はもういないのだろう。それを成し遂げた理由が私ではないのが、少しだけ悔しいかもしれない。

 でもまあ、それで良いさ。中学までの笑顔が戻ってきたようで、私も嬉しいから。

 

 千夏に初めて会ったのは栄明中学に入ってすぐ、部活動説明会で。なんせスポーツ私立だから近隣の経験者が集まってくる環境の中、それでも埋もれる事無く突き進む努力の人。そしてその隣にはいつも、夢佳がいたっけ。あんたらは下手なんだからせめて私より頑張れよ、と涼しい顔で言えるイヤミな天才。正反対なこいつらはどうして仲が良いのか分からないけど、二人一緒にいるだけで栄明女子バスケ部の芯になれる存在だった。

 そんなコンビの片割れは高等部に内部進学する事無く、なにも言わず煙のように消え果てた。それ以降の千夏の荒れ方は酷いもので、それも全てが自分自身に向けられてたからタチが悪い。血を吐くほどに苛烈なトレーニング、自分を捨てたかのようなストイックさ。夢佳がいなくなった事さえ自分のせいだと言わんばかりに、何もかも擲ってバスケに依存していた。

 それが多少なりとも落ち着いたのが去年の春、二年に上がる少し前。なんとなく穏やかになり、後輩たちからも慕われるようになって。何かあったのかな、と思ってたけれど。思ってはいたけれど、――でもなあ。まさか後輩男子の家に居候してます、なんて爆弾を放ってくるとは想定外だった。

 家族以外の下で暮らすだけでも大変だろうに、男子がいるなんて。気持ち悪い、危ない、うちに引き摺って帰ろうかとも考えた。

 だけど、それでも私は。今の千夏を癒しているのはきっと彼なんだ、と気が付いて何も言わなかった。もし引き離せばきっと、夢佳を失った時に戻ってしまう。それはあまりにも、辛すぎる。

 ああ、悔しいったら無かったな。どうして私じゃあダメだったんだろう。そりゃ付き合いはそんなに長くないけど、私だって親友のつもりなんだけどね。

 

 私たちは同じ夢を追って一緒に歩む友達、その筈だった。なのにいつのまにか、千夏に護られる立場になっていて。私たちは道を行く千夏を邪魔しないように、気を遣うのが当然になっていった。私がもっと上手ければ、もっと強ければ、そうならずに済んだのに。何度無意味にそう思っただろう、何も出来ないくせに。

 私は天才じゃないから夢佳にはなれない、女子だから同居人くんにもなれない。千夏にとって必要な存在には、どうやってもなれそうにはない。

「……っ!」

 口から出そうになった諦観を無理矢理口の奥に押し込んで、私は練習に戻るべく立ち上がる。

 目標はインターハイ制覇、その為には時間なんかいくらあっても足りやしない。

 別に良いさ、何者でもなくったって。私は私、それで千夏の近くにいよう。隣には立てなくても、それくらいは出来るさ。

 ――と。

「ん、あれ?」

 ふとした違和感に、私は歩みを止めた。今のは、何だろう。

 千夏と同居人くんは体育館の中ですれ違う、その瞬間。小さく声を掛け合って、そのまま歩いていく。ただそれだけなのに、なんだか変に――()()()()()だった気がする。向こうで見ていたらしい松岡も何やら不思議そうな顔をしているから、これは私の気のせいでも無さそうだ。

 おや、おやおや。これは、もしかして。……本格的に、なにかあったのだろうか。そういや夢佳と仲直りしたのにも関わってるらしいし、どうもそうなると色々起こっててもおかしくはないかもしれない。

 さてどうしよう、友達として探りを入れるかチームメイトとして見守ってあげようか。もしかしたら、面白いことになるかもしれないし。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。