既に決まってはいたことだけれど、年明けというタイミングでの発表はウインターカップがあったからだろう。そこから少し落ち着いた頃に人事異動、という感じ。
本日を以て我らの新部長に、千夏が就任することになったのだ。
気負う事無く責務を受け入れ信念を語る親友は、輝いてさえ思える。あの夏の終わり、副キャプテンになった時とは違う。このチーム好きだもん、とプレッシャーで折れそうになりながらも無理に笑って見せていた頃とは、まるで別人のようだ。誰にも頼らず弱音を吐かず、ひたすら自分を削り抜いていた千夏はもういないのだろう。それを成し遂げた理由が私ではないのが、少しだけ悔しいかもしれない。
でもまあ、それで良いさ。中学までの笑顔が戻ってきたようで、私も嬉しいから。
千夏に初めて会ったのは栄明中学に入ってすぐ、部活動説明会で。なんせスポーツ私立だから近隣の経験者が集まってくる環境の中、それでも埋もれる事無く突き進む努力の人。そしてその隣にはいつも、夢佳がいたっけ。あんたらは下手なんだからせめて私より頑張れよ、と涼しい顔で言えるイヤミな天才。正反対なこいつらはどうして仲が良いのか分からないけど、二人一緒にいるだけで栄明女子バスケ部の芯になれる存在だった。
そんなコンビの片割れは高等部に内部進学する事無く、なにも言わず煙のように消え果てた。それ以降の千夏の荒れ方は酷いもので、それも全てが自分自身に向けられてたからタチが悪い。血を吐くほどに苛烈なトレーニング、自分を捨てたかのようなストイックさ。夢佳がいなくなった事さえ自分のせいだと言わんばかりに、何もかも擲ってバスケに依存していた。
それが多少なりとも落ち着いたのが去年の春、二年に上がる少し前。なんとなく穏やかになり、後輩たちからも慕われるようになって。何かあったのかな、と思ってたけれど。思ってはいたけれど、――でもなあ。まさか後輩男子の家に居候してます、なんて爆弾を放ってくるとは想定外だった。
家族以外の下で暮らすだけでも大変だろうに、男子がいるなんて。気持ち悪い、危ない、うちに引き摺って帰ろうかとも考えた。
だけど、それでも私は。今の千夏を癒しているのはきっと彼なんだ、と気が付いて何も言わなかった。もし引き離せばきっと、夢佳を失った時に戻ってしまう。それはあまりにも、辛すぎる。
ああ、悔しいったら無かったな。どうして私じゃあダメだったんだろう。そりゃ付き合いはそんなに長くないけど、私だって親友のつもりなんだけどね。
私たちは同じ夢を追って一緒に歩む友達、その筈だった。なのにいつのまにか、千夏に護られる立場になっていて。私たちは道を行く千夏を邪魔しないように、気を遣うのが当然になっていった。私がもっと上手ければ、もっと強ければ、そうならずに済んだのに。何度無意味にそう思っただろう、何も出来ないくせに。
私は天才じゃないから夢佳にはなれない、女子だから同居人くんにもなれない。千夏にとって必要な存在には、どうやってもなれそうにはない。
「……っ!」
口から出そうになった諦観を無理矢理口の奥に押し込んで、私は練習に戻るべく立ち上がる。
目標はインターハイ制覇、その為には時間なんかいくらあっても足りやしない。
別に良いさ、何者でもなくったって。私は私、それで千夏の近くにいよう。隣には立てなくても、それくらいは出来るさ。
――と。
「ん、あれ?」
ふとした違和感に、私は歩みを止めた。今のは、何だろう。
千夏と同居人くんは体育館の中ですれ違う、その瞬間。小さく声を掛け合って、そのまま歩いていく。ただそれだけなのに、なんだか変に――
おや、おやおや。これは、もしかして。……本格的に、なにかあったのだろうか。そういや夢佳と仲直りしたのにも関わってるらしいし、どうもそうなると色々起こっててもおかしくはないかもしれない。
さてどうしよう、友達として探りを入れるかチームメイトとして見守ってあげようか。もしかしたら、面白いことになるかもしれないし。