アオのハコSideB #101~   作:扇町グロシア

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アオのハコ#193 「明けまして」SideB 悩みは晴れず

 友達としては背中を押してあげたい、でもそれが余計な事なのは分かっている。菖蒲は今高砂くんと上手くいっている、匡くんを応援するというのは二人の仲に割って入らせる事になってしまう。それは全員が傷付くだけ、私の場合もそうだった。大喜も千夏先輩も私も、三人揃ってギクシャクしていたのは忘れられようもない。

 二人がお互い惹かれ合っていたのを知っていた癖に、どうにかすれば私を好きになってくれるだろうと空回りして。その結果が、あの日の涙だったのだからいっそ笑えてくる。

 他の人を好きになるなんて、そうそう出来はしない事も。

 誰かを好きになるのは楽しくて、だからこそ報われなかった時が辛い。匡くんはそれを一度思い知って、それでもまだ向かっていって――今また打ちのめされようとしている。

 どうなろうとも傷付くだけの荊道に取り残された人を、どうやって助ければ良いんだろう。

 回りの悪い頭ではなにも思い浮かばず、私はただ寒風の中駅のホームに立ち尽くしていた。

 

 ずっとずっと、気付かない振りをしていた。本当は中一の夏祭りからずっと、大喜が好きだったのに。

 それを認めてしまえば私は変わってしまう、これまでのように新体操一筋ではいられなくなる。大喜みたいに肩肘はらず話せる友達を、こっちの勝手で失いたくない。つまり私は、ただただ怖かったのだ。この穏やかで平和な日々に、亀裂を入れるのが。

 でも私が足踏みしてる間に大喜と千夏先輩の距離はどんどん縮まって、告白して尚大喜の気持ちは動かせなかった。あれは堪えた、な。私を気遣って最後の一押しをしないままでいてくれた、その優しさが痛かった。

 まあ今思い返せば、ああなって良かったんだろう。好きではないけど告白されたから付き合う、なんて器用さは私も大喜も持っていないし。

 菖蒲はそれが出来るんだよね、スゴい事にさ。好きになってくれたからこっちもちゃんと努力して好きになる、なんて。……それで長続きはしてないんだから、実は菖蒲も出来ていないんだろうかな。

 匡くんだって、そうもいかないみたいだし。好きだったけど向こうに彼氏ができたから諦めた、という話は前に聞いたけど菖蒲に対してもそうなりつつある。だからこそ一歩引いて、気持ちを圧し殺している。辛いだろうな、詰んだまま介錯もされないなんて。

 私はここから、何が出来るのだろう。何を言えるんだろう。

 私だって別に経験豊富じゃない、と言うか一回袖にされた以外の経験値はハッキリ言って無い。自分の事さえ上手くいかないのに、偉そうにしてもなぁ……。大喜もカウンター浴びてたし、機嫌が悪くなってきた匡くんは正直手に余る。いやあれは大喜が悪いか、『他の人を好きになるって道もあるんじゃないか』なんて彼女持ちが言っちゃあなぁ……。

 そもそも他の人って言われても、そんなのがいたら苦労はない。私も私で自棄を起こして菖蒲に『誰か男の子紹介して』とか言ったけど、いざ連れてこられても困るし。好きになるなんて、やっぱり難しいよ。

 

 迷っている間に乗り換えの電車がホームに滑り込んで来たようで、人波が一斉に動き出してようやく私はそれに気が付いた。

 何悩んでるんだ、私と来たら。全く霊長は複雑でいけないねぇ、なんて。色恋沙汰なんか柄じゃないな、やっぱり。

 口の中で小さく溜め息を吐きながら、思考を切り替える。どうでも良いことだけ考えろ、新年から思い悩んでどうする。正月一日(いっぴ)くらいは気軽に行きたいものだ。

「……あ」

 そう言えば、そう言えば。最近晴人のやつ、こっちに全然絡んでこないな。さっきも愛想ひとつ見せず大喜とだけ話してたっけ、前は『後輩くんじゃなくて俺、晴人って名前なんで。気楽に呼んでください』とか変に馴れ馴れしかったのに。呼ぶ義理はねぇ、と突っぱねたから諦めたのかな。

 アイツもアイツで、訳分かんないんだよね。何がしたいんだか、全くさ。

 まあ――良いか、別に。どうせ冬休みが終われば学校で会うだろう、その時にでも『新年の挨拶くらいちゃんとしろ』とか言ってやれば良いさ。

 新しい年は、始まったばかりだ。悩むな暮れるな呆れるな、どうにかなるさ。

 

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