こういう人だから、と分かっていたけれど。それでもやはり、少しだけ気にしてしまう。菖蒲ちゃんは自覚なく皆に優しくて距離が近い、それを一々気にする方が良くないんだ。
デートの最中顔見知りに会ってはしゃいでる、それだけなんだから。
猪股くんは菖蒲ちゃんがマネージャーやってるバド部の男子で、その彼女さんは菖蒲ちゃんのお姉さんと友達らしい。だから気安いのは当たり前、……多分きっと。まあ彼女さんが嫌そうな顔してない辺り、ホントにいつもの事なんだろう。全然気にもしてないと言うか、むしろ微笑ましく見守っている。
菖蒲ちゃんは色んな人と付き合ってきたわけで、こういう人あしらいも得意だ。俺がただ振り回されているだけ、情けない事にさ。
付き合ってて、好きだと言って貰えていて。それでも不安になってしまうのが、俺の悪い癖だ。
思えば初詣の時だって、友達と行くから別行動にしたいと言ったら多少は渋ると思っていた。せっかく付き合いだしたんだし一緒に行こうよ、とかさ。まさかあんなにアッサリと了承されるとは、そして同じ所に来ているとは。それで驚いた上に小銭落として狼狽えてるような情けない感じを見せたくないから、咄嗟に嘘ついちゃったけどあれは良くなかったかも。いやまあバレてはいないし結果オーライかな、聞いた話だと歩くのが遅いとか店員に横柄だとかそんな理由でフラれたのもいるそうだし、出来れば格好はつけておきたい。釣り合わないと思われて捨てられたら嫌だ。
……とか考えちゃう自分が、少しだけ嫌になる。男子が一緒にいたのはまあ、別に良いんだけどね。猪股くんは彼女持ちだし、もう一人は真面目そうで恋愛に興味無さそうだから。
大きく構えて受け流せれば、それで格好は付くのに。その辺の駆け引きは俺には難しすぎて、どうして良いか分からない。
付き合ってるからって独占するなんて間違ってると思う、俺の価値観を無理強いしたくない。でも出来れば他所を見てほしくない、俺だけの菖蒲ちゃんでいてほしいとも思う。こういうのを二律背反って言うんだろうか、違うかな。
告白してから数日、文化祭で返事をくれて。正式に付き合いだして、もう三ヶ月になる。バタバタと過ぎてきた三ヶ月だけど、菖蒲ちゃんはあの日以来ずっと楽しそうにしてくれている――と俺は思っている。あの時に見た物憂げな顔は一度もしていないし、俺の認識が正しいとは思いたいけどやっぱり不安は残る。向こうは恋愛巧者、こっちの浅知恵じゃあ通じないんだけどさ。
――と。
「ん? どうかした?」
不意に顔を覗き込まれ、俺は我に返る。一応デート中だぞしっかりしろ、余計なこと考えるな。
「あーいや、次どこ見ようかなって。菖蒲ちゃん、コスメ見たいって言ってたし行く?」
「だねぇ、行こ行こ。やっぱりコスメはテンションの源ですからっ」
正直言うと化粧品なんか良く知らないし菖蒲ちゃんはそのままでも綺麗だと思うけど、でも本人の気持ちが一番大事だ。
じゃあ行こうよと歩き出すその足取りはうまく揃わなくて、同じ方向を見ていても微妙に視線はズレている。でもまあ、それでもどうにかなるだろう。
好きな気持ちが通い合うなら、それに勝る事はないのだから。