アオのハコSideB #101~   作:扇町グロシア

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うちのSSでは千夏先輩のお母さんを春架さんと呼んでおります。
毎度のことですが。


アオのハコ#197 「徐々に」SideB うちの子として

 思えばその話を聞いてからもう二年になるのか、早いものだ。

 夫の海外勤務で日本を離れる事になったのはまだ想定出来ていた、人生というのはそういうものだ。私は結婚してもずっとこうして同じ街にいるけれど、そうでない人の方が遥かに多いから。みんな進路が違ったり嫁に行ったり出戻ったりで忙しくしてて、高校時代の同期なんてすっかりいなくなって久しい。そもそも私の方も、昔馴染みと旧交を暖める暇も無かったし。

 とは言えまさか、まさか。

 うちの娘を預かって欲しい、なんて言われるとは思わなかった。

 

 春架が春架だからもっとワンパクで逞しい子を想像していたけれど、あれが産んだとは思えないくらいに良い子で驚いたのを覚えている。確かうんと小さい頃に何度か会ってる筈だけど、その時分にどんな子だったかは記憶にない。きっと千夏ちゃんもそうだろう、親戚よりかは遠い距離感にあった。

 それが段々と縮まり出したのは、最初の夏が終わった辺りだろうか。大喜と何かあったのか若干ギクシャクして見えたから心配してたけど、どうやら上手く和解出来たのか目に見えて関係は改善されていったな。

 ……まあ、色々あったのは察したけどさ。親に嘘ついて外泊とか私も若い頃は結構遊んで、……ゲフンゲフンいやまあ若気の到りなんか思い出しても仕方ない。でも千夏ちゃんはまだしも、親を欺ける程の頭が大喜にあるわけがない。

 そして春架が帰国して一時的に千夏ちゃんがうちを離れた時の大喜と来たら、気丈に振る舞ってはいたけどかなり落ち込んでたな。何があったか聞くほど野暮ではないし、親が面倒を見てやるべき事でもない。そこはお互いの裁量で、何とかしてもらうしかなかった。

 

 そんなこんなで落ち着くかと思った冬も、事態は進んでいたな。去年の今頃になると、二人の仲は明らかに変わりつつあったから。

 うんまあ、親だからその辺は気が付くのよ。本人は隠してるつもりだったみたいだけど、伝わってくるものだ。私の時もそう、どういうわけか親にはバレていた。自分がなってみて分かったけど、親と子供ってそういうものなのだろう多分。

 勿論よそ様の娘さんを預かった身として、それを表立って肯定する訳にはいかない。見ないふり気付かないふりをしつつ、でも度を越さないように見守りはする。千夏ちゃんが大喜を選んでくれたのは嬉しいけど、それはそれとして。

 ……しかしなあ、まさか自分から冬樹くんに打ち明けるとは思わなかったよ千夏ちゃん。父親としてはそりゃ反対せざるを得ないし、早めに猪股家を出てもらおうとするわな。『娘が何を考えてるか分からない』とガックリ来ていたよ、あの時の冬樹くん。時差ボケな上うちの旦那やお義父さんに無理に呑まされて二日酔い半歩前のコンディション、しかも朝っぱらからそんな話聞かされたんだもの。そりゃ堪えるよ、嘆くよ。

 まあそれより堪えたのは、大喜と同棲する羽目になった事だろうけど。猪股家に娘を置いておけないというのは俺がいるからでしょ、じゃあ俺が向こうに住むから千夏先輩はそのまま住まわせてあげて、なんて言い出して。

 いや、いやいや。いやいやいやいや、違う違うそうじゃない。

 しかし一旦言い出したら大喜は聞かない、強引に冬樹くんが借りたマンスリーマンションに行ってしまった。『お義父さんって呼ばれてるけど私はどうしたら良いんですか』なんて相談されても、私こそどうしたら良いんだか。

 ――なんて考えながらも、時間は過ぎていく。荷物の梱包が終わり部屋を片付けて、千夏ちゃんは巣立ってしまった。

 いやまあ大した距離じゃないしいつでも行けはする、というか冬樹くんからもたまに様子を見て欲しいとか頼まれてるから、ちょいちょい顔を出しに行くつもりだし。

 でもしかし、やはり慣れるまでは少しかかりそうだ。うっかりすると、二人分のお弁当を作ってしまいそう。

 いつの間にか千夏ちゃんは、私の家族になっていたのだな。股を痛めてはいないけど、大事な娘として二年間育てたのだ。情も移るさ、うん。

 それに、――もしかしたら。千夏ちゃんが義理の娘として、戻ってくる未来もあるかもしれない。でも大喜は私に似ないで奥手だから、そこまで何年かかるやら。

 あーでも、その方がいいか。まだまだ「おばあちゃん」にはなりたくない、もう少し先にしておくれ。

 

 

 

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