[完結]回復銃師はキュアしたいっ!   作:黒片大豆

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エピローグ.『私の導師様』

 教会の修繕にはお金がかかります。

 建物のあちこちにガタが来はじめており、想定よりも明らかに早いため、積立金では賄えないかも知れません。

 

「困ったわね」

 最近の悩みはそんなことばかりでした。

 外観だけは絢爛豪華な建物でしたが、街を代表とする建物とするには少し心もとなかったのです。

 

「サラサ、ここにいたのか」

「あら、来てたの? ……あらあら」

「ご無沙汰しております、マザー・サラサ」

 ボルドーに連れられて来た、栗毛色の成人男性が声を掛けてきました。

 

「サラサ、洗濯は修行中のシスターに任せては?」

「わかっているけど、これだけはね……」

 私は、猫耳フードが付いたマントを、洗濯ロープから取り込みます。

 太陽の光をいっぱいに浴び、暖かく柔らかい香りで包まれていました。

 

「マザー・サラサ。エマルからのお手紙、持ってきました」

 そういって、彼──ルノが、私に手紙を渡します。

 

 ルノは中央教会(セントラル)の斡旋を受けて、養子に出されました。

 しかし彼は今、この街に戻ってきて教鞭を振るっております。

 

「あら、そろそろかと思ったの、ありがとう」

 私は庭に出されていたロッキングチェアに腰掛け、早速手紙を開封し目を通します。

 

「……讃美歌隊は、紛争地区に入ったみたいね」

「心配ですか」

「勿論です」

 

 歌に癒しの法術を載せ、響き聞かせる。すると、聞いた人物の傷は癒やされていく。

 生まれ持った素質がないとできない芸当であるが、エマルはそれに該当したのです。

 そのため、彼女は中央教会(セントラル)にスカウトされました。本人も、これが天職だと言って、自ら望んで行きました。

 

 讃美歌隊は、主に難民支援を行うことを掲げていますが、危険と隣り合わせなことに違いありません。ですが、これは彼女が望んだ道なのです。

 

「……あら?」

「ああ、うわさの」

 先程から、ボルドーとルノが私の後ろから手紙を一緒によんでいました。

 手紙の2枚めから、エマルの筆跡が大きく変わり、明らかに高揚していることが伺えました。

 

『この紛争地区にもいたわ!! 銃に治療術を封じた軍団!』

 

 その軍団は、2国間のどの軍隊よりも強く、事あるごとに戦闘に介入してくるのだといいます。

 

 戦場を大きく混乱させ、武力を制圧させ、そして去っていく。

 しかし、死傷者は全く出ておらず、撃たれた兵士、民間人は皆、何故か傷が癒えているといいます。

 

「これが、あの人の贖罪、ですかね」

「彼らによって、戦況は引っ搔き回されてますからね」

 

 彼らの介入で、戦争に意味を見いだせなくなった2国間は、既に秘密裏に、休戦に向けての話し合いが始まっているという噂です。

 

「……今日、何か予感がしていたのよ」

「エマルの手紙かい?」

 私は、首を横に振りました。

 今日、非常によく晴れ、風も気持ちの良い天気でした。

 私は、自室の奥に仕舞っていた猫耳フードのマントを取り出し、天日干しをすることを思い立ったのです。

 

「当時3歳ながら、結構しっかり覚えてますよ、赤い髪の女性のこと。まるで天使のようだと感じました」

「私は、そうは感じなかったわよ」

 

 エマルの手紙をきっかけに、昔話に花が咲きます。

 

「こうやって、君と一緒になれたのも……」

「あの人の導きかもしれませんね」

 ボルドーと私達はお互い目を合わせ微笑みました。

 ルノが同席していたので……それ以上のことは控えました。

 

 

 ***

 

 

 ボルドーは当時、アークロン牧師から重火器の処分について相談を受けていました。

 そして、その武器を狙ったテロ集団の情報と、ノックス牧師の遺体発見の報を受け、あの夜に教会に駆けつけたのです。

 

 そして事件の後。

 彼女が、苦しむエマルに撃ち込んだのは、『回復銃』でした。

 弾丸に『術』を乗せる技術など、当時はありません。

 

 彼女はおそらく、独自に研究を重ね、異径の弾丸が使える平等化(イコライザー)を用い、『回復銃』という概念に達したのです。

 

 試験段階の銃弾でしたが、結果、それは彼女の目論見通り作用し、エマルの体内奥深くから回復効果を巡らせることができたのでした。

 

 

 ***

 

 

「マザー・サラサ、お話中申し訳ありません」

 昔話が一段落した頃合いに、修道女が声を掛けてきました。

 

「? どうされました?」

「あの、お客様なんですが……どうやらアポなしでして」

「……あら」

「ご用件を聞いても、どうも口を濁すといいますか……」

「あらあらあら」

 

 朝に感じた予感は、このことだったのかもしれません。

 

「……ふふっ」

 

 私はつい噴き出してしまいました。ルノも、ボルドーも、私の表情から何かを悟ってくれました。

 

「予感というものは、当たるものね」

 

 私は、その人と会うことにしました。教会の入り口で待たせているとのことでしたので、私は少し、急ぎ足で向かいます。

 

 自然と、胸が高鳴ります。私は両手で、猫耳の外套を抱きかかえていました。

 

 そこには、彼女が立ってました。

 逆光になって眩しいですが、彼女の赤い髪は、夕日でさらに映えていました。

 

「……やっと、お礼を伝えられます」

 あの時、彼女がいなければ。私達はここにはいません。

 

 

 

 彼女は、弾丸を撃ち込んだあと、行方を眩ませていました。

 

『弱者が銃を持たなくていい時まで、私は引き金を引き続けるわ』

 

 去り際に彼女が残した言葉です。

 今この国では、その言葉が現実になろうとしています。

 

 

 

 私は彼女に近づきます。すると、彼女も私の方に歩いてきてくれました。

 差し込む夕日で表情は伺えません。けれど、私には判ります。見間違える訳がありません。

 

「こんにちは、シスター。忘れ物を受け取りに来たわ」

 

 当時となんら変わらない、彼女の陽気な声色。私は、嬉しさと懐かしさに充てられ微笑みます。

 

 そして私は、手にした外套を彼女に差し出したのでした……。

 

「ずっと、ずっと……お待ちしてましたわ、『私の導師様』」

 

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