セリム・ブラッドレイの許婚   作:クラレントブラッドブラッドレイ

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切っても切れない

 ラグスお兄様はただ、「そうか」と言った。

 その反面で──セリムは、喜を隠しきれぬ、といった顔で、だから手でその顔を覆って。

 

「それは、素晴らしいことです」

「素晴らしい、ですか?」

「はい。いえ、申し訳ありません。僕には君の行い……君の過去そのものについての感情がまだ発生していない。重荷を嫌ってそれを捨てる。それは別に、君でなくても行うことだと思います。なのでそこについてはまた後で。けれど」

 

 まぁ、同情してほしかったわけじゃないし、私自身が完全に満足していることだから良いんだけど。

 素晴らしいとは。

 

「君が真実"異物"であるというのなら、すべての前提が覆る」

「どういうことだ?」

「先ほど君には話しましたね。そしてレイゼン。君もまた、無意識にこの世界をそうであると捉えている。この閉じた世界はフラスコだと。中の物の配置がどれだけ変わろうと、代わろうと、替わろうと、決して僕たちは外に出ることができなかった。何故なら僕たちはフラスコの中の小人。外に出るための()()が足りない」

 

 ああ。

 成程。

 

「でも、私が完全なる異物──レイゼン・M・ダッドリーですらない誰かなのだとしたら、今まで閉じて(満ちて)いたフラスコを破裂させられるかもしれない……ということですか」

「はい。これは父も少し考察していたことですが、そもそも一度目、というものがある時点でこの世界は完全な閉じた輪になっているわけではない。底があるんですよ、この世界には。そうですね、レイゼン。君の知識になぞらえるのなら、疑似・真理の扉に血肉の地があるように。無限に思われる世界にも、入り口と出口が必ず存在し、且つ容量が規定されている」

「……セリム様。ダッドリー家が作られたのは、"お父様"による操作、でしたよね」

「そうです。けれど、ダッドリー家という家自体、そうでなかった者達をそうであるようにしたに過ぎません。いてもいなくても変わらなかった者達をダッドリー家と名乗らせた──それがダッドリー家の起源」

 

 いてもいなくても変わらない。

 死んでいようが生きていようが、年齢が違おうが男女が違おうが。

 何も変わらない、大筋に関わりのない()()()()。それに寄せ集めがダッドリー家だと。

 

 ラグスお兄様を見る。

 

「別に気にしてねぇよ。つかわかるんだよ、なんとなくだけどな。もし俺がダッドリー家の人間じゃなかったら、錬金術にも剣術にも、つーか軍にも関わらねえどっかの田舎で、何も成せず、何も遺せずに死んでいた……いてもいなくても変わらなかった奴だろう、ってことくらいは」

「それで、レイゼン。その確認は」

「はい。ならばセリム様の考察通りかと。セリム様含む"お父様"陣営がどれほどの時を経て内容物をかき混ぜようと、エドワード・エルリックらがどれほど変質しようと、結局あなた達はフラスコの中の小人。故にそうではないと断言できる私は特異点というより異物です。誰が入れたのか、偶発的なことか実験的なことかまではわかりませんが──私の特異性は、私が""前""と違って幼かったこと、ではなく、異物であったことであると推測できます。そして」

 

 そして。

 証明されるのは二つ。

 

 一つは、レイゼン・M・ダッドリーと私が完全なる別人であるという事実。

 なんせ今までのレイゼンでは異物足り得なかったから。

 

 もう一つは。

 

「"次"などを考える必要はありません。私は──私が私であるという理由だけで、このフラスコを崩し得ます」

「……知識がなんもねぇ身で口を挟むのはアレだけどよ。もしお前らの言う容積、容量だのが()()()()()()()()()()()どうするんだ?」

「それはあり得ない、と断言します」

「根拠は」

「"お父様"があらゆる要素を試さないはずがないからです。そうですよね、セリム様」

「はい。君にはグリードから二百を超えている……などと伝わっていると思いますが、その実その何十倍、何百倍もの回数を僕たちは過ごしています。その間、僕たちはあらゆることを試した。試して試して、ようやく君が来た」

「それでもまだダメってこともあんだろ。満杯がどれだけかを知らねえんだからよ」

「変な話ですが、私は"お父様"……フラスコの中の小人を信用しています。いえ、そもそもこの世界は閉じて(満ちて)いたはずなんです。あるいは私がその観測手でした。だから」

 

 鋼の錬金術師、という世界は完結している。

 だからこそフラスコ足り得た。それ以上の広がりを見せなかったから。

 

 なればこそ、異物は異物として最後の一押しができる。

 

「……わーったよ。もう話の腰を折る真似はしねぇ。つかお前、できるじゃねえか。悲観的じゃねえ考え方」

「私は一度だって悲観的であったつもりはありません。常に純然たる事実を話していました。今だってこの国に未来はないと考えていますよ」

 

 アメストリスの行く末など、正直どうでもいい。

 繰り返し。それが終わるのなら──たとえこの身が灼かれていようとも、あるいはレイゼン・M・ダッドリーにまた返却するようなことになっても。

 

 それで彼を、送り出せるのなら。

 

「つきましては、やはり仲間集めが最優先事項ですね。君の家の懐柔は可能でしょうか」

「……難しいと思います」

「それは、どうして?」

「爺さんも母さんも頭が固ぇし、何よりこの道はレイゼンが少なからず危険にさらされる道だ。俺みたいな柔軟性は兼ね備えてねぇよ。兄ちゃんなら……理解は示してくれそうだが」

「というより、弱いので要りません。先ほど話したように、私は守られたくない。その上で、彼らが危険にさらされたのなら、私は後先を考えずに盾となるでしょう。そしてそれは、セリム様もラグスお兄様も望まないことだと判断しています」

「あー」

「あはは、自分のことをよくわかっていますね、レイゼン」

 

 こんなに何度も言われたら、それくらいはわかる。

 それくらいしかわからないけど。

 

「強さです。必要なのは。仮にフラスコの中の小人が敵に回らないのだとしても、それ以外の未知──あるいは真理にさえも立ち向かえる存在が必要だと考えます」

「……となると、該当者は少なくなりますね」

「はい。まず、エドワード・エルリック。弟のアルフォンス・エルリック。彼らの師であるイズミ・カーティス。ロイ・マスタングやリザ・ホークアイもこちら側になってくれるのなら心強い」

 

 そして、私には彼らに対する鬼札(ジョーカー)がある。

 

「ラグスお兄様がそうであるように、彼ら彼女らは私へ少なくない罪悪感を覚えていると見ました。それを使いましょう」

「使いましょうってお前……ちょいと非道過ぎねえ?」

「使えるものなら何でも使います。そうですね、敢えてこういいましょう。""前""の私に頼るんですよ。これが私にできる頼り方の精一杯です」

 

 事態が好転した。

 そして、そして──誠に残念ながら、私ではこれ以上を思いつかない。ラグスお兄様にはこうして啖呵を切ったけど、錬金術的な大部分に関しては私は民間の域を出ない自負がある。

 こうして私達が集めた材料(マテリアル)を、国家錬金術師という名の天才たちがどう錬成するのか。想像も及びつかない発想が出てくるはずだ。

 

 フラスコの中の小人は、まだ頼れない。

 わからないからだ。キング・ブラッドレイの態度や人造人間(ホムンクルス)の在り方は、まだそこまで積極的ではないと見えてしまう。

 何より国土錬成陣を敷いている理由や、それが少し東にズレている理由など、まだまだ明かされていない情報が多い。

 勿論彼もこの繰り返しから脱却したいのだと信じはするが、存在として頼るのは──まだ無理だ。

 

「マスタング大佐とホークアイ中尉か。東部の有名人だが……少佐位とはいえ、セントラルの俺がいきなり声掛けるのは微妙だな」

「そういえばセリム様。軍法会議所の件はどうなりましたか?」

「結果から言えば、やはり無理でした。僕たちのような子供が軍の最重要施設ともいえる軍法会議所を調べる、というのは例え大総統権限を使っても難しい。ただし──軍法会議所の人間を仲間に引き入れることができれば話は変わってきます」

「マース・ヒューズ中佐ですね」

「はい。ただ……彼は、その」

「彼がどれほど記憶を保持しているかはわからないものの、仮に何かを覚えていた場合、人造人間(ホムンクルス)側に助力してくれる可能性は低い、ということですか?」

「そう、ですね。既に彼を殺さなくなってから久しいとはいえ、僕たちが彼に一抹でも興味を向けた途端、マスタング大佐達が過剰反応しますので」

 

 まぁ、当然だろう。

 

 よし。

 

「お前、今"私が行きます"とか言おうとしただろ」

「えっ、何故わかるんですか?」

「その意気込んだ顔見りゃ一発だ。そんでもって絶対ダメだ。お前さ、自覚してねぇと思うけど、交渉とか説得とかそういうの向いてねえんだよ。今朝だってもうちっと言い方あっただろ。母さんアレ、大分落ち込んでるぞ」

「……しかし、他に伝手がありません」

「あるだろーここに」

 

 自分を指差すラグスお兄様。

 ……いやでも、もしラグスお兄様が人造人間(ホムンクルス)側の人間だと思われたら、最悪その場で投げナイフ、もあり得るんじゃ。

 

「適任ですね。中央に所縁のある軍人で、中佐と少佐。階級が近ければ話しかけやすいでしょう」

「おう。んで、俺はこれでも誰とでもサクっと打ち解けられる自覚のある人間だ。特技の一つつってもいいくらいにはな」

「それは、素直に羨ましいです。私には絶対できないものなので」

「ああ、そのまま羨ましがっとけ。羨ましいってことは憧れるってことだ。憧れるってことは頼れるってことだ。こういう大人の話し合いは大人に任せろよ、レイゼン」

 

 頼る。仲間。 

 ……なる、ほど。そうか、これが。

 

 ──なんて、怖いものか。

 

「セリム様、お願いがあります」

「構いませんよ。彼の護衛でしょう? エンヴィーやラストだけじゃなく、何かしらの刺客が彼を襲う可能性は考慮しています。以前も話し合いましたが、この繰り返しを引き起こしている根本の原因──そのナニカは未練によって世界を運営している可能性がありますからね。それを解決に導かんとしている僕たちは相当目障りに映ることでしょう。ならば、君が仲間と認めた彼も僕が守る対象足り得ます」

「別に守られる気はねぇけどな。俺だってダッドリーの剣士だぜ?」

「ほう? じゃあ私と殺し合いをしてみますか? 剣だけであらゆることがどうとでもなると思っているのなら、それもまた一興でしょう」

「あー、化け物は勘弁だ。わかったわかった、頼むよ。頭下げる。俺の妹のために俺は頑張るからさ、俺の妹を大事だって思うんなら、俺を守ってくれ」

「はい。勿論です」

 

 正直な話をすると、怖い。

 私のいないところで話が進む、というのが。そんなの今更だけど、もしかしたらを考えると──。

 

「わかった。お前、悲観的なんじゃなくて、杞憂し過ぎなだけなのな」

「え」

「わかってんのか? わかってないだろ。俺は今、お前が全面的に頼るくらい強い奴に守ってもらえることになったんだぞ。話がどう転ぶかは勿論俺次第だけどよ、お前が考えてるより良い方向には必ず転ばせてみせる。もっと信じろや、兄貴を」

「……ご武運を」

「戦場にでも送り出す気かよ……もっと気楽に行けよ。ヒューズ中佐のことは俺の耳にだって入ってるよ。良い人なんだろ?」

「はい。多分、根っこから」

「んじゃ大丈夫だ。お前は大人しく学院でのんびりしてろ」

 

 頼ること。信じること。

 ああ──恐ろしい。けれど、克服しなければ。

 

 ハッピーエンドを掴み取るために。

 

 

 

 

 

 それで、私とラグスお兄様は、ダッドリー家に帰って来た。

 

 ……気まずさ、というのは、まぁある。言い過ぎだった自覚はあるし。

 でも主張は変えない。だからそこについて触れてきたら、私は。

 

「おかえりなさい、レイゼン」

「──お母様。泣いたのですか?」

「あら、やだ……どうしてわかったの? お化粧はばっちりだったはずなのだけど」

「はい。化粧も目の充血も収まっていますが、一度枯らした喉をこの短時間で戻すのは相当な無理をする必要があります。声の上ずり方で、それくらいは」

「……そう。そうね、大泣きしたわ。なんでかわかる?」

「必要以上に私がお母様を傷つけたからです。くだらないとかいって申し訳ありませんでした」

「そんなこと気にしてないわ。私だってダッドリー家の在り方はくだらないって思っているし」

「ちょ、母さん!?」

 

 あっけらかんと、そんなことを宣うお母様。

 ええと。

 ええと。

 

 では、何故大泣きしたのですか。

 

「私が泣いたのは、貴女のことをなーんにもわかってない母親だったー、って自分で自分を責めたから。ごめんね、レイゼン。ずっとずっと寂しい思いをさせてしまって」

「いえ、特には。私は末娘としての役割を」

「それよ、それ」

 

 抱きしめられる。

 ……何もわかっていない母親でも致し方がないだろう。だって何も話していないのだから。

 特にお母様は軍に関わる身でもない。錬金術を理解できなかった、と言った時は少しカチンと来てしまったけれど、それがこの世界のスタンダードであることも理解している。

 

 そして、寂しい思いなど。

 ダッドリーの剣以外では、特にはしていない。母親と娘の距離感なんか、私は知らないから。

 

「いいのよ、理解しなくて」

「はあ。でもそれだと、お母様が悲しいままなのでは?」

「いいの。これは私の問題で、私が解決すべき私の成長課題! レイゼン、あなたにはもう頼れ、とか、泣いて、とか、笑って、とか。そういうの言わないから」

 

 だから。

 

「好きな時に頼って、好きな時に泣いて、好きな時に笑ってね」

「……難しいです」

「ええ、そうね。私もそう思う」

 

 自己完結、という奴だろうか。

 それなら私が入る隙は無さそうだ。

 大人しく抱きしめられていよう。

 

「レイゼン」

 

 と思ったら、頭上から厳しい声が落ちて来た。

 

「んもう、何? お義父さんったら……今、私とレイゼンが親子の大切な時間を過ごしている最中なのだけど」

「であれば儂も混ぜよ。じゃが、儂には償いの言葉が見つからん。ラグスとエイアグラムに言われたこと、その全てに納得してしまったがゆえな。だから、せめてこれをお前に授ける」

 

 これ、と。

 渡されたのは、布……じゃない。布に包まれた、小刀?

 

「儂が現役時代、懐刀として使っていたものじゃ。ある意味でダッドリーの剣とも言える。言葉遊びに過ぎんが──これをお前に授ける」

「……」

「何度でもいう。()()()()()()ダッドリーの剣の才は無い。じゃが、それ以外の全てがある。ああいや、他人とのコミュニケーション能力には些か難があるように思うが、儂の目から見てもお前は才に愛されておる。お前は望まぬじゃろうが、もし求むるのであれば言え。最高の家庭教師、錬金術師、そしてダッドリー以外の剣術家を専属として付けよう」

「ぶっ」

 

 ぽけーっと、私が剣を受け取っている背後で、ラグスお兄様が思わずと言ったように噴き出した。

 みるみるうちにお爺様の額に青筋が入っていく。

 

「ラグス……何か、笑う所でもあったか?」

「いや、笑うだろ爺さん。不器用すぎてさ。もっと色々言い方あんだろ。顔だってそんなしかめっ面で、コレ相手がレイゼンじゃなかったら泣いてるぜ?」

「……確かに、儂が叱るたびにお前は泣きべそをかいていたな、ラグス」

「ちょ、オイ! そういうのは言わなくていいだろ今!」

「ふん、いっちょ前に祖父をからかうからじゃ。そもそもラグス、お前は言葉遣いがなっとらん! 行動もそうじゃ! 此度レイゼンをどこへ連れて行ったのかは知らぬし聞かぬが、前は歓楽街で連れまわしとったじゃろ!」

「その話は終わっただろあの日! こっぴどく叱られて俺も反省したってーの!」

「いいや、まだじゃ! 儂も儂の気持ちに整理がついておらん! ちと付き合えラグス! 久方ぶりに儂直々に稽古をつけてやるわ!」

「アンタが鬱憤晴らしたいだけじゃねーか!」

 

 なんだかわざとらしい喧嘩を始めたお爺様とラグスお兄様。

 それを見て何かを察したか、お母様は「さぁレイゼン、お部屋に戻りましょう? いつまでも部屋着のままなのも寒いでしょうし、ね?」とか言って、私を二人から引き離す。

 

 ……不器用は、ちゃんと遺伝してたのかな。

 でもだからこそ伝わった。

 

 ダッドリーの剣。言葉遊びはその通りだけど……ちょっと、嬉しい。

 

 

 そうして、二人の喧騒が聞こえなくなるほどまで離れて、着替えをして。

 今お母様の部屋で髪を梳かされている。

 

 うーん。

 私、この剣振ってみたいのですが。ダメですか。はい。まぁ後ででもいいのでいいんですけど。

 

「ね、レイゼン。あなたの錬金術って、独学なのよね?」

「はい、まぁ。ただ、ゼロからイチを作り上げたというよりは、世にある錬金術を自分の使いやすいように改変した、という感じですが」

「私に教えることってできる?」

「……私に教わるより良い先生なんていくらでもいるでしょう」

「そうね。事実、エイアグラムは知り合いの錬金術師の方に指導を願いに行くそうよ。ホント、あの子ってば真面目なんだから」

「ならお母様もその方に習えばいいのでは?」

「私はレイゼンに教わりたいんだけど、だめ?」

 

 私の錬金術は、私の身体の小回りの良さと、そして非力であることを補うためのものばかりだ。

 曲がりなりにもダッドリーの剣を授かり、しっかりと剣を握り、振れているお母様には合わない。それに、誰かに何かを教えられるほど成熟したものでもない。

 

「だめです」

「ええー」

「お母様に教えている間に、私はもっと強くなれます。何度も素振りができるし、体力の底上げやトレーニングができる。お母様は私から時間を奪うというのですか」

「じゃあ、私はレイゼンに剣を教えてあげる」

「……ダッドリーの剣を、ですか? それはお爺様が許してくれなそうですが」

「ダッドリーの剣はダメよ。貴女の可能性を狭めてしまうから。でも他の剣なら良いはずよ」

「失礼ながら、ダッドリーの剣を授かったということは、お母様に他の才が無かった、ということだとも思います。違うのですか?」

「違うわ。だって私、踊れるし」

 

 ……。

 ……?

 

 たしかに。

 

「ダッドリーの剣が非才の~っていう話は、軍人に限ったことなのよ。まぁ確かに私には銃を扱う才能も文官になる才能もなかったけれど、ダンスやお料理、あとそうね、歌も得意なのよ私」

「はあ」

「でも、それって軍人には必要ないことでしょう?」

「確かにそれはそうですね。でも剣術は軍人に必要な事なのでは?」

「ふふん。良いことを教えてあげるわレイゼン。剣術っていうのはね、どの流派でも、その源流となった、あるいは合わさる前の型が存在するの。つまり、ダッドリーで言う所の"銃に打ち勝つ剣術"以前の剣術がね」

 

 それは、まぁ、そうだろう。

 発生時点から銃に打ち勝つ剣術であったのなら、もう少し門下生が多くても良いはずだし。そもそもダッドリー家は作られた存在。これが元から完成しきっていた流派なのであれば、なんなら原作にいてもおかしくはない。

 

「私がダッドリー家に嫁いできた理由、知ってる?」

「お父様に惚れたから、ではないのですか? 今よりもっと幼い頃、散々惚気を子守唄のように聞かされた記憶があります」

「あ、あら、よく覚えているのね、ソンナコト。……そ、そうじゃなくて。確かにあの人のことは愛しているけれど、私の家とダッドリー家は一応政略結婚だったのよ。正確に言うと、私の家はダッドリー家の分家のようなものでね。その分家に生まれた子供がダッドリーの剣の才を見出されたからこっちに送り出された、みたいな」

「はあ。本家と分家の合流ですか。本末転倒ですね」

 

 そういうのって、分かれているから意味があるんじゃ。

 

「つまり、お母様は結婚できる年齢になるまで、その分家の方で剣を習っていて、それならばダッドリーの剣を教える、ということにならない……という認識でよろしいですか?」

「ええ。といっても一人前になる前に結婚しちゃったから、ホントは誰かに教えられるほど成熟したものじゃないんだけど……」

「……なら、いいです。私も同じなので」

 

 果たしてそれは、お母様なりの気遣いだったのかもしれないけれど。

 一応、初めてだ。試合以外で、剣を習うという行為自体が。

 

 楽しみではある。同時に錬金術を教えるという不安もある。アレかなり危ない学問だから。

 

 でも。

 

「これは、家族仲が良好になった、ということでしょうか」

「……あのね、レイゼン。そういうのは思っても口に出さないことなのよ」

「言葉にした方が、お互いがそうなのか、そうじゃないか? と距離感を掴みあぐねるより良いと思いませんか?」

「……確かにそうなんだけど……うーん、ま、いっか! そうね、家族仲良好! 良い言葉!」

「はい」

 

 不安はある。

 だけど。

 

 ──頼る。信じる。授かる。教える。

 

 願わくは、ラグスお兄様の交渉が上手く行きますように。

 そしてまだ見ぬ根本原因──首を洗って待っていろ、だ。私が私であるという事実を以て、必ずやみんなを開放して見せるから。

 

 ……いやホントにまだ見ぬどころか尻尾もつかめてない状況だから、どこを睨めばいいのかさえわからないんだけど、とりあえず空でも睨んでおこう。




第二章 / Mental

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