セリム・ブラッドレイの許婚   作:クラレントブラッドブラッドレイ

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箸にも棒にも掛からない

 赤子を抱く、という経験を初めてした。

 ずっしりと重い命の感触。触れてはいけないもの。触ってはならないもの。

 その奇跡が私の手にある。

 

「だーぅ」

「……えっと」

「可愛いでしょう?」

「はい、それは、もう」

 

 よく笑い、よく泣き、よく怒る。

 でも何に笑っているのか、何に泣いているのか、何に怒っているのかまではわからない。その思考は恐らく今後どんな技術が発達しても明かされることのない不可侵領域。

 

 私には、なかったもの。

 

「グレイシアさん、お返しします」

「そう? でも、エリシアはまだ離れたくないみたいだから、もう少し」

 

 私の身体を掴んで離さない小さな命。

 まるで。

 まるで。

 

 父親は殺させないと──私を引き留めているかのような。

 

「それに、ほら。まだ雨、止みそうにないから。ゆっくりしていって」

「……わかりました。お言葉に甘えさせていただきます」

 

 窓の外は豪雨だった。

 

 

 

 何故私が赤子を──エリシア・ヒューズを抱っこしているのか、という問いには、そして何故ヒューズ邸にいるのか、という問いには、明確な答えが一つある。

 私がしびれを切らしたからだ。

 どんな内容が、どこまでの計画が練られているのかは知らないけれど、一向に回ってこない「結果報告」と、当たり前のように過ぎ去っていく時間。

 元から待ちの姿勢は性に合わない。ラグスお兄様が無理なら私が。

 

 そういう考えでセントラルの住宅街を歩いていた。マース・ヒューズ中佐に会うために。

 ヒューズ邸の描写は少しだけされていたけれど、実際のところどこにあるのか、とかはわかっていない。だからどこに突撃すれば良いかもわからず、セントラルじゅうを練り歩いて、結局見つからなくて。

 

 公園で小休憩を挟んでいたら、そこに乳母車を押すグレイシア・ヒューズとそれに乗るエリシア・ヒューズが通りかかったのだ。

 私のような年齢の娘が木陰のベンチで項垂れていたからだろう。「あなた、大丈夫?」なんて聞いてきて。

 

 それとほとんど同じタイミングで雨が降り出した。「大変」と言って踵を返すグレイシアは、「あなたも早く帰りなさいね」と言い残し、去って行った──かに思ったんだけど、まさか戻ってくるとは思ってもみなかった。忠告を無視して雨に打たれていた私を見て、多分家出少女か何かだと思ったのだろう、彼女はあろうことか私を自宅へ連れ帰った、という次第だ。

 シャワーを借りて、着替えまで貸して貰って、ヒューズ邸のリビングに恐る恐る向かってみれば、グレイシアとエリシアが待ち構えていた。グレイシアは強引に私にエリシアを抱っこさせて、ようやく今に至る。

 

「ねえ、聞いても良い?」

「何故あそこで呆けていたのか、ですか」

「ええ。親御さんと喧嘩でもしたの?」

「いえ……むしろ家族仲は良好の一途を辿っています。最近は……家族での会話も増えました」

「じゃあ、尚更何故?」

「……わかりません。いえ、言語化はできますが、理解できない、が正しいでしょうか。私は今私の心に浮かんでいる言葉を理解できない。……初めはただの嫉妬だと思っていたのですが、どうやら違うらしいです」

 

 疑似倦怠期実験から生まれた、本物の嫉妬。

 はじめはそうだと思っていた。セリムは今もエドワード達との議論に明け暮れていて、何らかの画策、何らかの実行も傷の男(スカー)やラグスお兄様達と行っている様子。

 つまりまぁ、セリムを取られた、と。

 私の心が判断したのだと分析していた。ゆえの嫉妬だと。

 

 だけど、そうではないことに気が付いた。

 気が付いた理由は様々あるけれど、ただふと去来した、というのが大きい。

 

 驚いたのだ。

 セリムが絡んでこない日常が、あまりにも──平和(普通)で。

 

「……初対面のグレイシアさんに、話すことでは、ないですね」

「私が聞いたのよ?」

「……今から言うのは、変な事です。叱咤も同情も受け付けないと思ってください」

「ええ」

 

 強くなり過ぎないように、腕の中の温かみを抱く。

 

 

「──幸せを享受したくない」

 

 

 ほぼ同タイミングで鳴った雷の音。

 声は聞こえたのかどうか。ああいや、グレイシアの困った表情を見るに、聞こえてはいたらしい。

 

「どうしてかを、問うても?」

「いいですけど、先も言った通り理解できていません。……このまま時間をかければ、いつか彼らが正解を導き出す。それは多分、誰にも犠牲を強いない、誰にも悲しみを覚えさせない最良の選択。私はただそれが出るのを待てば良くて、その先に訪れる幸福を受け入れたらいい。……はずなのに」

 

 本当に、初対面で、しかもこっちの事情を全く知らない人に話す内容じゃない。

 抽象的だし、内容も取り留めのないものだし。

 

 それでもグレイシアは真剣な顔で聞いてくれている。成程、マース・ヒューズが惚れるわけだ。

 

「多分、私は期待していたんです。私には私にしかできないことがある、って。だから無駄なドリョクを続け、無為な意地を張り続けた。……おかしな話です。自身を非才だの非力だのと罵っておいて、これだけの自虐を周囲に振りまいておいて、私は私に期待していた、なんて」

 

 転生者だから。

 セリム・ブラッドレイの許婚という特殊な立場だから。

 

 何か、私にはまだ、あるんじゃないかと思っていた。

 ""前""の私より幼いせいで、技量も実力も彼女に劣る私が、恐らく知識も先を越されているのだろう私に、何か、何かが、と。

 

 でも今、私は必要とされていない。

 私の役目は終わったと言わんばかりに、だ。私の役割はセリムをその気にさせることと、エドワード達と彼を繋げること。その役目を終えたのだから、もう要らないとばかりに爪弾きにされている。

 期待されていないことが理解できた。

 

 だから──ああ、だからか。

 

「傲慢な考えですね。()()()()()()()()()()()()()()()()()、なんて。言葉に出したおかげで、ようやく整理がつきました」

 

 私の絡まないハッピーエンド。私が守ることなく来るエンディング。私の名の連ねられないエンドロール。

 

 散々他人の無能を拒絶しておいて、いざ自身がそうであると知ればこれだ。

 なんて──幼稚。

 

 自分は天才ではないのだから、材料(マテリアル)を用意して、天才たちに錬成してもらう姿勢であったというのに、いざそれが始まったら不満を抱くなんて虫が良すぎる。

 世界を甘受する。幸福を享受する。

 つまり、あとはなるようになることを祈る、と。

 

 ……ああ。

 

「グレイシアさん。やっぱりエリシアちゃん、お返しします。そろそろ帰らないと」

「母親になった身としては、こんなに弱っている女の子をこの豪雨の中帰すのは無理よ。おうちには連絡してあげるから、もう少しここにいて。ね?」

「でも」

 

 ぎゅ、と肩を掴まれる。

 まだ返さないと言わんばかりに、エリシアは私を離さない。

 

 その時、玄関口に気配を感じた。

 その気配は「うへぇうへぇ」とか「おーい帰ったぞー」とか言いながら、リビングへ近づいてくる。

 

「あら、あなた。お帰りなさい。今日は早かったのね」

「おうただいま、グレイシア。……っと、その子は?」

「さっき公園で会って、雨が降り出してもずーっとベンチで項垂れてたから、心配になって連れ帰ってきちゃったの。そしたらエリシアがこんなにも懐いて」

「連れ帰ってきちゃったの、ってお前……」

 

 こっちに、来るのか。 

 ラグスお兄様が三か月以上もコンタクトを取れずにいた存在に、私が会うのか。

 

 何の示しだ、それは。

 

「よ、嬢ちゃん。エリシアのお守りありがとうな。それで、あー……グレイシア」

「そういえば名前はまだ聞いていなかったかも。あんまりにも憔悴していたからそっちの方が気になって」

「あー。そうかい。んじゃ嬢ちゃん、名前は? 家の番号言えるか?」

 

 人好きのする笑みで、人好きのする雰囲気で。

 彼が私を、覗き込む。

 

「……レイゼンです」

「ファミリーネームは?」

「レイゼン・M・ダッドリー」

 

 グレイシアの表情は、「まぁ!」という感じ。ダッドリー家の事を知っていたのだろう反応。

 だけどマース・ヒューズのは、なんだ?

 

 何故そんな顔をして、固唾を飲み込んだ?

 

「……どんな因果だ、そりゃ」

「その顔をするということは、私を覚えているのですか、ヒューズ中佐」

「っ……やめてくれ。仕事で疲れてるんだ。家の中にまでそういうのを持ち込みたくない」

 

 覚えているのか、彼も。

 マース・ヒューズはもうずいぶんと殺されていないと、エンヴィーは言っていた。それでもロイ・マスタングの親友であることには変わりなかっただろうし、エドワード達とも仲良くしていたはずだ。

 

 ならば──膨大な繰り返しの中で、あるいはこの人も、私を。

 

「あなた?」

「……いや、あー。グレイシア。ちょいとエリシアを頼む。残業だ。ダッドリー家のご令嬢といえば、セリム・ブラッドレイの許婚。要人なんだよ」

「ああ、やっぱり。ダッドリーって聞いたことがあると思っていたら」

「すまねえ、グレイシア。俺はこの嬢ちゃんをダッドリー家に帰してくる。ホントのただいまは、その後で、だ」

 

 必死に取り繕った笑顔で。

 必死に振り絞った声で。

 

「なら、お願いがあるの」

「ん?」

「家に着くまでの間、決して手を離さないでいてあげて」

「あ、ああ。そのつもりだよ」

 

 傘が二本、渡される。

 マース・ヒューズの分と、私の分。

 

「服は晴れた日に受け取りに来てくれたらいいから、ね」

「……何から何まで、お世話になりました」

「いいのよ。さ、エリシア。ママともうちょっとの間パパを待ちましょうねー」

 

 離れていく小さな命に、未練はない。

 ぎゅ、と掴まれていた肩も、所詮は赤子の力だ。グレイシアのそれには及ばない。

 

「さて、んじゃ」

「はい。行きましょうか」

 

 私とマース・ヒューズは、豪雨の中に戻る。

 

 

 

 

 しばらく無言の時間が続いた。歩いての帰宅だから、それなりの時間がかかる。

 

「……アンタが、本当にレイゼン・M・ダッドリー、なんだな」

「そうですね。ただし私は前の私というのを覚えていません。周囲に聞いた、あるいは伝えられた大人の私という像を知っているに過ぎません」

「そうかい。……そりゃ、ありがたいか」

「貴方も私を殺したのですか?」

「……ああ。どうやらそうらしい。ロイの奴に話を聞いた時は半信半疑だったが、意識して見りゃ何度も夢に出てくる。……変な話だ。俺の武器は投擲するタイプのナイフだってのに、アンタを殺した感触が消えねえ。軍人だ、俺も。だからもっと多く殺してる。ちゃんとこの手は敵の血で濡れている。……だが」

 

 豪雨だけど、か細い声はしっかりと聞こえる。

 その目が私なんかよりよっぽど憔悴しているのだってわかる。

 

「味方を手に掛けたのは……初めてだったよ。裏切り者だとかスパイだとかじゃねえ、最後の最後まで味方だったってのに……アンタを殺した。そういう状況になった」

「そうですか。ご愁傷様です」

「気楽な返事だな」

「他人事ですから。……ただ、聞いてみたくはありました。先程ロイ……ロイ・マスタングから聞かされた、と言っていましたが、貴方はどれほどのことを知っているんですか? あるいは覚えている?」

「どれほどか、なんて言われても……はっきりと全て、ってわけじゃねえのは確かだ。結局単なる夢なんだよ。明確に焼き付いた記憶ってわけじゃねえ」

「質問を変えます。マース・ヒューズ中佐。貴方は自らが死んだ記憶を有していますか?」

 

 踏み込む。

 それによって、マース・ヒューズの足が止まった。

 

「……俺が?」

「はい」

「レイゼン・M・ダッドリー。アンタが、じゃなくて、か?」

「はい。マース・ヒューズ中佐。あなたが気付いてはいけない歴史の闇に気付き、家に帰ることも出来ずに死んだ記憶を有しているのか──と、そう聞いています」

「何の、冗談だ。それは。アンタは前を覚えてないんじゃないのか」

 

 ……。

 それは、膨大な回数が繰り返されているから、とかではないのだと思っている。

 知らないか。伝えられていないか。

 

 覚えているのは、繰り返しが始まってからあとのことだけ、か。

 

「マスタング大佐は、私を警戒しろ、とか言っていませんでしたか」

「……よくわかったな。初めはトチ狂ったのかと思ったよ。アンタみたいな子供を警戒しろとか、ロイの野郎が言ってきた時は」

 

 ──最重要候補、か。

 

「殺しますか?」

「は?」

「ロイ・マスタングに言い含められた要警戒対象です。貴方の記憶にある通り、私は私を覚えていなくとも、たとえどんな道を辿ったとしても、セリム様の護衛を止めるつもりはありません。それはあるいはあなた達と敵対する可能性も生むでしょう。──今か後かの違いならば、今の方がいい。この豪雨で路地裏ならば、誰も気づきません」

「……馬鹿言いやがる。警戒しろと言われたから殺すだぁ? あんま軍人舐めるんじゃねえよ」

「国敵になる可能性がある存在を早めに摘み取っておくのは軍人として最適な行動では?」

「アメストリス国民を守るためにあるのがアメストリス軍人だ。国民に向ける刃は持ってねえ」

 

 苛立ちの色。

 彼は本気で怒っている。……やっぱりいい人だな。

 

「この辺りで大丈夫です。あとは一人で帰れます」

「ダメだ。ちゃんとダッドリー家にまで送り届ける」

「せっかくの家族団欒の時間が減ってしまいますよ」

「その家族から頼まれたんだろうが。決してお前の手を離すな。……ああいう時のグレイシアの勘は当たる。んでもって、その危うさは俺も今感じてる。今アンタの手を離したら……俺は絶対に後悔する」

「ただ家に帰るだけですよ」

「帰るつもりがあるなら、なんで公園なんかにいた」

 

 それは。

 ……それは、マース・ヒューズに会うためだ。それ以上でもそれ以下でも。

 

「ラグス少佐が俺に会いたがってる、っつーのと関係があるのか」

「もう関係なくなりました。会う必要はなくなったとお兄様には伝えておきます」

「俺と接触して何をしたかった。さっきのことを確認したかっただけか?」

「いえ、軍法会議所の内部を探れる人間が欲しかっただけです。──ただそれは、危険な行為です。ですからあなたにやらせるという択はない。今更ですが、前提から破綻した計画でした」

「軍法会議所に、何の用だ。あそこには資料しかねえぞ」

「無いはずだから気になっているんです。ただ、もう気にしなくていいです。貴方の今が幸せであるなら、それを楽しんでいてください。むしろこっちに首を突っ込まないでください。私はあなたを背負いきれない」

 

 グレイシア・ヒューズ。エリシア・ヒューズ。

 あの二人と短時間を過ごして、わかった。

 

 良い人たちだった。

 

 理由はそれだけで十分だろう。

 これ以上私の思考に彼を付き合わせるのは忍びない。

 

 もしかしたら。

 事によれば、有限となるかもしれない幸福の時間を。

 

「あのなぁ」

 

 ぽん、と。

 頭に手を置かれた。傘を持っていない方の手で。

 

「もっと大人を頼れ。なんだその思考。背負いきれないだぁ? 背負われるつもりなんかねぇよ。俺にはグレイシアとエリシアがいるんだ。んでもってアメストリス軍の中佐だ。なんだってアンタに背負われなきゃならねえ」

「だから、今が幸福なら、幸福であり続けてくださいと言っているのです。今日聞いた話がノイズとなるのなら積極的に忘れてください。貴方が善人であることはわかっています。私が困っている風体だから、今そうやって私の事情をどうにかしたいと思ってくれている。それはわかります」

「……知ったかぶりだろうがよ、それは」

「そうですね。私はあなたの一側面を、そして人生のほんの一部分を知っているに過ぎません。それ以上は何もわからない。ただ、その少ない判断材料で巻き込むべきではないと判断しました。グレイシアさん、エリシアさんと会ってしまったことを心から謝罪します。私が会うべきではなかった。貴方にも会うべきではなかった。本当にごめんなさ」

 

 むぎゅ、と。

 頭に置いてあった手が前に来て、私の口を抓んで潰した。

 

「軍法会議所に何用だ」

「……ふぇふから(ですから)

「ロイの奴も、軍法会議所になんか印をつけてたんだよ。アメストリスの全体図を開いて、軍法会議所にだけ印をな」

 

 ロイ・マスタングが。

 ……いや、エドワードが共有すると言っていたか。そして、彼も私と同じ思考に至ったんじゃなかろうか。

 

 どうにかしてマース・ヒューズを巻き込まない形で終わらせたいと──多分、私よりも強く思ったんじゃないだろうか。

 

「言ってくれ。──俺は、自分だけが安全圏にいて、他の奴の苦労を知らねえまま幸福を享受できるほどイイ性格してねぇんだよ」

「!」

 

 奇しくも、同じ言葉をさっき吐いたばかりだったから驚いてしまった。

 アプローチは違う。方向性は違う。

 

 だけど。

 

 マース・ヒューズの手を振り払う。

 だけど逃げずに問う。

 

「嫌、ですか。ロイ・マスタング──親友の彼が、あなたに隠し事をしている現状が」

「ああ、嫌だね。ロイの奴、露骨に俺を避けやがる。だってのにいつ訪ねてもアイツ思いつめたような顔してやがって、俺に対しても取り繕った笑顔を向けてきてよ。俺はアイツの親友だって自覚がある。そんでもって、アイツが俺に隠し事をするのは俺のためだってのも理解できてる。だが」

 

 私は、あるいは爪弾き者にされているだけかもしれない。

 私がいると議論が円滑に進まないからと隔離されているだけだ。

 けれど彼は、彼の死を考えて──彼の幸せを奪いたくないから、という理由で突き放されている。

 

「……わかりました。話しま」

 

 ──姿勢を低く、傘を西側に向ける。

 

「どうした? 躓いたのか?」

「そんなところです。……大通りじゃありませんが、あっちの路地を通りましょう。近道なので」

「ああ、そりゃ構わねえが」

 

 何故。

 というより、今のが殺気か。大総統との遊戯であったソレよりももっと濃密な。

 

 何故だ。

 何故、私を。

 

 

 その後も、ずっとずっと死角になるように背後を気にしながら、ダッドリー家までの道のりを辿った。

 お母様はマース・ヒューズにいたく感謝して、マース・ヒューズはマース・ヒューズで人好きのする笑みを浮かべて「軍人として当然のことをしたまでですよ」なんて言って。

 

 ──邪魔者、か。

 やめてほしい。本当に最重要候補になるじゃないか。

 

 

 *

 

 

 通信を取る。

 

『大佐。レイゼン・M・ダッドリーがヒューズ中佐に接触しました』

「……そうか」

『ただ、照準を合わせた瞬間気取られました。あの年齢で、と考えると──もしかしたら、今までの彼女より、今の彼女の方が』

「それ以上の深掘りは危険だ、中尉。誰が聞いているかもわからん。一度こちらに帰投してくれ」

『はい』

 

 通信を切る。

 そして、深く溜息を吐いた。

 

「……余計なことをしてくれるなよ、レイゼン・M・ダッドリー」

 

 恐らく目の前に鏡があれば。

 その目は──あまりにも、暗く。

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