セリム・ブラッドレイの許婚   作:クラレントブラッドブラッドレイ

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叛服常無し

 市場を抜けた辺りで、尾行はすぐにバレることとなる。

 

 遮蔽物の無い、記憶通りのド田舎に入ったからだ。駅周辺が栄えるのはどこも同じ、ということである。

 

「ええと?」

「トリシャ・エルリックさんで……間違いありませんか? ああ、申し遅れましたが、私は国軍大佐のゾルフ・J・キンブリーというものです。国家錬金術師のエドワード・エルリックさんに少しお話を伺いたく訪問させていただきました」

「あら、軍の……でも、ごめんなさい。今あの子たちいなくて。けれど丁度明日頃帰ってくるって連絡があったから、……ウチに泊っていきますか?」

「いえいえ、そこまでお手を煩わせるわけには。我々はそのあたりで宿でも取りますよ」

 

 一般人とマトモに会話をするキンブリー、というのを珍しい目でしか見れない私。いや、無いでしょ、だって。

 なんだこの人。別人か?

 

「それで、その子は……?」

「ああ、こちらはとある家のご令嬢でして。私がエドワード君に会いに行くと言い出したら、是非ついていきたいと。危険な仕事や暗い話をするわけでもないので、こうして同行を許可した次第です」

 

 目が言っている。「話を合わせなさい、レイゼン・M・ダッドリー」と。

 

「アポイントメントを取らずに申し訳ありません。私はレイゼンという者です。最年少国家錬金術師のエドワードさんと話がしてみたくて、大佐に無理を言ってついてきました」

「あら……なら、貴女だけでもウチに泊っていく? あの子たち……エドとアルの小さい頃の写真とか、興味あったりは」

「しますね。とてもします」

「そうですか。では私は明日またお伺いしますので、レイゼン嬢をよろしくお願いいたします」

「ええ、責任を持って預からせていただきますね」

 

 これはナイスアシストと言わざるを得ない。

 出来る大人だ。狂人の先入観があまりにも強すぎたから敵意むき出しだったけど、評価を改める必要がありそう。

 

「それではレイゼン嬢。くれぐれも()()のないように」

「大佐こそ、暇だからといってむやみやたらに他人を刺激しないように」

「しませんよ。大人ですから」

「そうですか。なら安心ですね」

 

 最後、一度だけバチっとして。

 

 キンブリーの離れていく姿を認める。

 

「レイゼンちゃん、でいいのよね?」

「はい。トリシャ・エルリックさん」

「トリシャだけでいいのよ。それじゃ、家に行きましょうか」

 

 今更ではあるけれど。

 ……生きている。そう、感じられる。

 

 成程。

 母親が生きていると知りながら、それを殺せるか、か。

 

 私はともかく、あの二人には無理そうだなぁ。

 

「長閑ですね」

「レイゼンちゃんは、セントラル出身?」

「はい。なのでどこへ行っても人人人。こうもだだっ広い草原というのは見たことがありませんでした。……良い風ですね。心地が良い」

 

 平和だ。

 東部はイシュヴァールさえなければ、あとは東の大砂漠に隣接しているくらいでしかない。成程、こんな土地で育てば反戦軍縮の考えにもなる。

 北も西も南もバチバチで、中央は魔窟。東だけがこんなにも爽やかな風が吹いている。

 

「会う前から聞くのは不躾だとは思いますが、エドワードさんはどういう方なんですか? 鋼の、なんて二つ名を聞く限り……あと、噂では全身に鎧を纏っている、という話も聞いたことがあるので、私の何倍も大きな方、と予想していたのですが……でも最年少だし」

「ふふふ、大きな鎧は弟の方よ。アルフォンス、っていうのだけど、そっか、アルの名前はあんまり有名じゃないのね」

「あ、申し訳ありません。浅学で」

 

 大丈夫、だろうか。

 無知な子供。演じられているか、私。一応学院にいる時と同じ程度の知能で喋っているつもりではあるけれど。

 

「こんにちは、トリシャさん。……おや? トリシャさん、その子は?」

「ああ、こんにちは、サラさん。この子はエドに会いに来たって言う子で」

「レイゼンといいます。よろしくお願いします」

「……良く出来た子ね。私はサラ・ロックベル。よろしくね?」

 

 今の間。目の細め方。

 間違いない。この人は私を知っている。

 

 でも、どこで?

 

「エドワード君に会いに来たってことは、レイゼンちゃんも錬金術師になりたい、とか?」

「なりたいといいますか、既に扱えはするのですが、国家錬金術師程じゃなくて……。けれど、エドワードさんは私より少し上の年齢で国家資格を取ったと聞いて、是非、と」

「最近の子は勤勉ねぇ。ウチのウィンリィにも見習わせたいくらい」

「ウィンリィさん、ですか?」

「あら、ごめんなさい。ウィンリィはウチの娘よ。ここだけの話、エドワード君に片想い中の、ね?」

「やっぱりカッコいい人なんですね、エドワードさんは」

 

 サラ・ロックベル。ウィンリィ・ロックベル。この分だとユーリ・ロックベルもやっぱり存命か。

 ホーエンハイムの口ぶりからわかっていたこととはいえ。

 

「ただ、そのエドワード君が国家錬金術師になって、いろんなところを旅するようになっちゃったでしょう? だからウィンリィったら、拗ねちゃってて……って、いけないいけない。買い出しの最中なんだった。つい話し込んじゃって、それにレイゼンちゃんにはまだ早い話だったかも」

「いえ、興味深いお話をありがとうございました。そのウィンリィさんという方にもエドワードさんについて聞いてみたくなりました。具体的にどこを好きになったのか、とか」

「あら、あらあらあら。やっぱりレイゼンちゃん()もそういうことには興味あるのねぇ。そうね、ウィンリィならウチの鍛冶場にいるだろうから、訪ねてみて、それで教えてくれなかったら私が教えてあげる」

「もう、サラさん? あんまり子供たちの恋路に首を突っ込むのは……」

「ちなみにね、レイゼンちゃん。片想いとは言ったけど、双方が告白してないだけで、実はエドワード君の方も……」

「サラさん?」

「……じゃ、詳しいことは本人たちに、ね。私は買い物に行ってくるから」

 

 ひゅーんと去っていくサラ・ロックベル。

 こんな人、だっけ。イシュヴァールでの焦燥感溢れる姿しか印象にないから、言っては何だけど普通のおばさん、井戸端会議の好きなママさん、という印象が無さすぎてとても違和感がある。

 

「エドワードさんは、ウィンリィさんの事が好きなんですか?」

「ダメよ、レイゼンちゃん。こういうのは本人のいないところで話す事じゃないの」

「わかりました。明日、本人に聞きます」

「それもダメ。こういうのはね、外野がとやかく言えば言うほど拗れていくんだから……」

「そういうものなんですか」

「そういうものよ」

 

 ……そしてそれは、トリシャ・エルリックも同じ。

 むしろトリシャ・エルリックの方が描写が少ないし、どれもが家族に向けるものだから、こうやって対外的な、外交的なトリシャ・エルリックには違和感しかない。

 

「ほら、見えて来たでしょう? アレが私達の家」

 

 見えて来た。

 だだっ広い草原に立つ一軒家。

 

 此度は燃やされなかった家。

 

「……実を言うとですね、トリシャさん」

「なぁに?」

「私、ホーエンハイムさんに会ったことがあるんです。ヴァン・ホーエンハイムさん」

「……それ、本当?」

「はい。北部からの帰りの汽車で会いました。お爺様……私の家名はダッドリーというのですが、お爺様と知り合いらしく。その時に貴女の写真と、赤ん坊のエドワードさんを見せてもらったことがあるんです」

「そう。……あの人もね、放浪癖があって。エドもアルも旅に出て、あの人もいなくて……少し寂しい、なんていうのは、レイゼンちゃんに話すことでもないか。ごめんなさい、忘れてね」

 

 違う。

 と、感じた。何に対してかは自分でもわからない。

 

「もうずっと帰ってきてないんですか?」

「そんなことはないわ。時々フラッと帰ってきて、旅の話を聞かせてくれるの。明日帰ってくるエドとアルも、ここのとこずっとそんな感じ」

「成程。つまり、後方300m付近でこちらをじっと窺っている金髪の男性は、まさにホーエンハイムさんでしょうか。顔までは見えないので判別が難しいのですが」

「え?」

 

 殺気が分かるようになったから、というのが大きいのだろう。

 それはもうヒシヒシと突き刺さってくるものだから、否応にでも気付いてしまう。

 

 トリシャ・エルリックが私の言葉に振り返れば、観念したような足取りで私達の方へ近づいてくるその気配。

 

「あなた……」

「や、ただいまトリシャ。それに……久しぶりだね、お嬢さん」

 

 ヴァン・ホーエンハイム。

 ……少しお返しをしてみる。

 

「ッ!」

「あなた?」

「あ、いや、なんでもないよ。……これは、腕を上げたね、といえばいいのかな、お嬢さん」

「はい。お久しぶりです、ホーエンハイムさん」

 

 お遊びはここまで。

 さて、では──確認と行こう。

 

 誰が人体錬成されたのか。そして失敗したのかの、確認を。

 

 

 

 

 いない。

 

「母さん、四番スパナそっちに無いかい?」

「スパナの管理くらい自分でしな! ったく、いつまで経っても子供なんだから……」

「お父さん、老年看護学の棚ってどこだっけ」

「えーと、棚の右上の方だから、あとで僕が戻しておくよ」

 

 いない。

 誰もいなくなってない。

 

 おかしい所はある。

 医者夫妻のはずなのに、ユーリ・ロックベルがスパナを手に取っているところとか、ウィンリィ・ロックベルが逆に医学本を読んでいるところとか。

 ピナコ・ロックベルはそのまんまだ。私より小さいのはどうかと思う。

 

「お隣はいつもこうなの。騒がしくて、けれど……羨ましくもあって」

「う、それはオレに刺さるなぁトリシャ。ごめん、もっと頻繁に帰ってくるから……」

「奥さんを寂しがらせて、悪い夫ですね、ホーエンハイムさん」

「まさかお嬢さんが刺してくるとは思わなかったなぁ……そして返す言葉もない」

 

 人体錬成をしたなら、誰かが死んでいるはずだ。だってアレは失敗するのだから。

 それとも成功した? いや、それはあり得ない。鋼の錬金術師という世界で人体錬成の成功はあってはならない。

 

「レイゼンちゃん、ほら、コレ」

「あ……これが例のアルバム、ですか」

 

 見せてもらう。

 それは、そこそこ見た事のある記録、かもしれない。エルリック兄弟の変遷。ウィンリィ・ロックベルの幼き頃。そしてトリシャ・エルリック、ロックベル夫妻、ピナコ・ロックベルと──いつまで経っても見た目の変わらないホーエンハイム。

 

「若作り、上手いですね」

「ええ、そうなの」

「トリシャまで……」

 

 今のはフォローだろうに。

 ……聞くのは、流石に、か。

 

 誰を人体錬成したんですか、と。トリシャ・エルリックに聞けるほど、流石に私も終わってはいない。散々終わっている感性を見せつけている気がしないでもないけれど、肉体を失った兄弟の母親にそんなことを聞ける精神性は持っていない。

 

「トリシャ。急な帰りになってすまないんだが、今日オレの分の夕飯も作ってくれないかな」

「ええ、レイゼンちゃんの分も作るつもりだったし、明日にはエド達も帰ってくる予定で食材も買い込んであったから、大丈夫」

「ありがとう」

「だから──大事な話があるのなら、ちゃんと、ね」

「……いつまで経っても敵わないなぁ」

 

 期せずして、ではあるけれど。

 なんだか、正念場のようでして。

 

 

 *

 

 

 エルリック家からもロックベル家からも離れた場所で、私とホーエンハイムは対峙していた。

 

「何が目的か、聞いてもいいのかな、レイゼン・M・ダッドリー」

「ダメだと言ったら諦めるんですか」

「オレの家族に手を出そうとしているのなら、申し訳ないけれど本気で行かせてもらう」

「そうですか。ではこちらにも事情がありますので、本気で行かせてもらいます」

 

 一触即発。いや、もう踏み込む、その直前だった。

 

 ポン、と。

 小さな小さな爆発、というか破裂が足元で起きる。

 

「敵だと判断したらすぐに剣を抜くクセをやめなさいと言ったはずですが?」

「……ゾルフ・J・キンブリー」

「はい、私です。レイゼン・M・ダッドリー」

 

 考える。

 メリットデメリット。

 

 ……。

 よし。

 

「ホーエンハイムさん。いいえ、ヴァン・ホーエンハイム。私はあなたに聞きたいことがあります」

「……今凄まじいまでの殺気を叩きつけてきたことについてはノーコメントなんだ」

「諦めてください。このご令嬢は零か百しか知りませんので」

「ああ、うん……。ええと、ゾルフ・J・キンブリー……というと、国軍の大佐さん、かな?」

「そうですが、別に知らないフリをしなくても構いませんよ。人造人間(ホムンクルス)の仲間のキンブリー、という認識で構いません。もっとも、此度においては声をかけられていませんが」

「そうだったんですか、ゾルフ・J・キンブリー」

「エイアグラム・M・ダッドリーが先でしたからね」

「賢者の石を人造人間(ホムンクルス)が渡していたら?」

「当然人造人間(ホムンクルス)側に着きましたよ」

「安心しました。あなたが私の知っているゾルフ・J・キンブリーで」

 

 ふぅ、と一息を吐く。

 私も成長しなければ。傲慢な狂犬は結構だけど、情報源にまで噛み付いて知りたいことを知れない、というのは本末転倒が過ぎる。

 

「誰ですか。ヴァン・ホーエンハイム」

「……ええと、主語をくれるかな」

「エドワード・エルリックが人体錬成をしたのは、誰ですかと──そう聞いています」

「……」

 

 肩をすくめるキンブリー。なんだその態度は。

 

「答えたくない、と言ったら?」

「トリシャさんに聞きます」

「一度は躊躇っただろう、お嬢さん」

「はい。一度躊躇い、もう少し口を割ってくれやすそうな人に聞いた結果、口を割ってくれなかった、というのであれば──彼女に問い詰めるのが最も効率的でしょう」

「エドワード・エルリックに尋ねる、というのは?」

「もうしました。答えてくれませんでした。トリシャ・エルリックが答えられないのであれば、ロックベル家にも聞いて回るつもりです。それでも無理ならリゼンブールじゅうに聞いて回ります。彼らが手足と肉体を失ったであろう時期に死んだ人間が誰なのかを」

 

 故に、私は剣を収めない。

 構えこそしないけれど。私はそこをうやむやにする気は無い。既に盤面は動いている。答えをはぐらかされて終わっていい時期じゃない。

 

「……デンだよ」

「──……はい?」

「だから、デンだよ。二人が人体錬成をしたのは。そういう知識はないのかな。ロックベル家で飼っていた犬でね。賢い子だった。……エド達を庇って馬車に轢かれて、死んでしまうくらいには」

 

 デン。いや、知っている。それは知っている。

 ああ、ああ、そうか。そういえば見ていなかった。リゼンブールに来てから、あんな目立つ存在を忘れていた。

 片足が機械鎧の犬なんて、見落とすはずがないのに。

 

「人では、ないですよ」

「変わらないよ。魂だ。命を蘇らせるという行為に変わりはない」

 

 人ではないものを蘇らせる。

 それが人体錬成として成立する?

 

 待て。いや、そうだ。だから──閉鎖・真理の扉の理論なら、辻褄が合うんだ。

 

 彼らは既に真理を見ていて、死者蘇生という必ず失敗する錬金術を使った、という時点で条件は揃う。リバウンドはリバウンドとして起きて、封じられていた真理の記憶がエルリック兄弟に流れ込む。対象がトリシャ・エルリックでもデンでも関係はない。

 死者は蘇らない。それは動物だって同じだ。

 

 ただ、一度目にトリシャ・エルリックを人体錬成した、という事実は消せないから、誰にやっても、何度やってもどんな理論でやっても――必ず同じものが"持ってかれる"だけ。

 

「これで満足かい、お嬢さん」

「……ヴァン・ホーエンハイム。あなたはこの繰り返しに気付いている。では、あなたは黒幕ですか?」

「いいや。これはオレがやっていることじゃあない」

「ちなみに言うと私も違いますよ」

「ゾルフ・J・キンブリーには聞いていない。……ヴァン・ホーエンハイム。私はエドワード・エルリックがこそすべての元凶だと睨んでいます。そしてそのエドワード・エルリックをロイ・マスタングが庇っている、と」

「……そうかい」

「アルフォンス・エルリックは、わかりません。けど彼の性格を……私の知る限りの彼の性格であれば、このいびつな世界を許せないだろうから、容疑者からは外しています。見立てが欲しいんです、ヴァン・ホーエンハイム。五百年を生きる錬金術師。いいや、繰り返しを含めれば何千、何万年となるのだろう西の賢者。あなたから見て、あなたの子供は──」

「答えられない、と言ったら?」

「それが答えだと見做します」

 

 答えられない、なんてことがあってたまるか。

 それはつまり、父親として子供を庇っているだけじゃないか。エドワード・エルリックの身の潔白を知っているのなら、ここで違うと断言すればいい。知らないだけなら知らないと言えばいい。

 答えられないのは、答えだ。

 

「ゾルフ・J・キンブリー。私を止めますか?」

「いいえ。私がエイアグラム・M・ダッドリーから言われているのは、レイゼン・M・ダッドリーが道を誤りそうになった時、気付きを与えてやってほしい、というものでした。しかし今、貴女は道を違えようとはしていない。自らの意思で探し出し、辿り着いた答えの証明をしようとしているだけ」

 

 ならば。

 

「立会人として見届けますよ。安心してください。貴女が死んでも、ヴァン・ホーエンハイムの名は出しません。私が目を離した隙に野盗に攫われ、駆けつけた頃には野盗全員との相打ちで死んでいた、とでも説明しますよ」

「些か私の実力を買い被り過ぎていますが、まぁそれでいいです。──私はレイゼン・M・ダッドリー。ダッドリーの剣を形だけ授かった未熟者。長き時を生きるヴァン・ホーエンハイムに決闘を申し込みます」

「……受けるのはいいけど、トリシャの夕飯を食べた後じゃダメかな。彼女をこれ以上待たせたくないんだ」

「わかりました。その後やりましょう」

 

 剣を収める。

 ……。

 

 ……?

 

「なんですか?」

「アナタの物分かりの良さと悪さは、何を基準にしているのかサッパリですね」

「オレも、頷いてくれないと思ってたよ……」

「トリシャ・エルリックから害意は受け取れませんでした。既に死んでいる方であるとしても、彼女は一般人。ただ好意と善意でご飯を用意してくれている方に、夫の死体を突きつけろ、とは。そちらの方がどうかしているのでは?」

「うーん……」

「安心してください、レイゼン・M・ダッドリー。どうかしているのは確実にアナタですよ」

「そうですか」

 

 そんなのとうに知っている。

 ……だけどなんだ、その、肩をすくめる動作は。年長者二人揃って言語化も出来ないのか。

 

「狂犬というより、殻を破った時に親鳥を見つけられなかった雛鳥、という感じですね、アナタ」

「馬鹿にしているのだけは伝わりました」

「いえいえ。まさかまさか。そんなそんな」

 

 いい。ゾルフ・J・キンブリーは立会人になると言った。

 なら、あとは今夜が決着だ。

 

 真実を聞き出して──私が全てを終わらせよう。

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