セリム・ブラッドレイの許婚   作:クラレントブラッドブラッドレイ

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枚挙に遑がない

 トリシャ・エルリックの夕ご飯を食べて、仕切り直した深夜二時。

 月夜に輝く白いトレンチコートに何故か着替えたキンブリーに対し、別段普段着な私とホーエンハイム。

 

 決闘の始まりはキンブリーが鳴らす小さな破裂音から、ということになって、両者睨み合って。

 

 破裂音がして。

 

「ッ!」

 

 自らの首にヤツメウナギが如く襲い掛かる土の刃をしゃがむことで躱しつつ、足裏の錬成陣で土を割って外に転がり出る。

 

 ──転がった瞬間、全身が拘束された。速い。そしてあまりにも正確。殺気の乗っていない攻撃は無視されると最初からわかっていたのだろう、最初の攻撃は確実にこちらに命を刈り取るものだった。それを避けた先に本命の拘束。こちらが攻撃へと転換する意識の切り替えタイミングを狙った錬金術。

 勝てるはずがないとは思っていたし、勝てるわけがないとも思っていたけれど、やはり手も足も出ないか。

 

 まぁ関係はない。

 

 ズ、と。

 ズズ、と。

 

 強く強く、幼子であるこの身をして折れてしまうほどの力で地面へと縛り付けてくる合金らしき鎖。それを抜ける。引き千切れないから、こちらの皮が裂けても、肉が解けても、骨が折れても構わないとばかりに──抜ける。

 

 抜け……られ、ない。

 筋力が圧倒的に足りない。死ぬ気でもがいているのに、拘束は解けない。決死の行動であるのに、一切の抵抗が許されない。

 

「……参ったな。それ以上動くと死ぬよ、お嬢さん。既に出血量も筋断裂も酷いものだ。骨だって折れている。痛みがわからないってワケじゃないんだろう?」

「決闘と──了承して、息子の悲願を、妨げる障害を、心配とは……中途半端ですね、ヴァン・ホーエンハイム」

「……」

 

 わかる。

 たとえ全身の骨を折ったところで、この拘束から逃れることはできない。仮に手足を千切って抜け出たとしても、新たな拘束が待っているだけだろう。

 文字通り格が違う。そうだ。当然だ。フラスコの中の小人と対等とはいかないまでもやりあうようなイキモノを相手に、何ができると思っていたのか。

 

 別に良い。

 今までのレイゼン・M・ダッドリーだって、何ができていたわけではないのだろう。そこに別人の私が嵌って、彼女より弱い私が彼女の代わりをしているのなら、ゼロがマイナスになるのだって必然だ。

 多分、彼は心に傷を負うことさえないだろう。優しい甘いといっても今更だ。

 傲慢な狂犬など過ぎたる名。せいぜいが彼我の差もわからぬ野犬が関の山。

 

 それでも──。

 

「ダメだ。それはやらせない」

 

 刀が奪われる。手足がさらに強い拘束を受ける。

 錬成陣の円さえ描くことのできない程に、強く強く拘束される。

 

「──殺さないのは、何故ですか、ヴァン・ホーエンハイム」

「オレがやらなくたって、いずれ死ぬだろう、お嬢さん」

「ええ、まぁ、そうでしょうね。……ふふ」

「何がおかしい?」

「え? ……ああ、いえ。そうですか。今私、笑いましたね。前もそうでした。格上を相手に死を感じていると、笑ってしまうみたいで。あなたを馬鹿にするような意図はありません。気に障ったのなら謝ります」

 

 確実に、腕の折れた音が響く。

 確実に、脚の折れた音が響く。

 こんな満身創痍で仮に抜け出せたとしても、何にもならないことを知りながら。

 

 抵抗は一秒たりともやめない。

 狂犬から野犬へ、野犬からかませ犬へ。いいじゃないか、お似合いだ、レイゼン・M・ダッドリー。

 痛みを感じないわけじゃない。むしろ酷く強く感じる。意識が朦朧としているのは、出血量もあるのだろうけど、痛みの閾値を超えたことを受けて、脳が警鐘を鳴らしているのだろう。これ以上はショック死の可能性まであるぞ、と。

 

「……いえ。……いえ、いえ。……そうです、ね。……ふふふ、勝てるはずがない……勝負になるはずも、ない。……彼の庇護がなければ……私はとっくに死んでいた、というのに……ふふふ、ふふ……これは傲慢では、なかったのかもしれません。ただの、蛮勇。勇敢というには……あまりにも暴力的、なので、野蛮、という言葉で……片付けるのが、ベストでしょうか」

 

 血だまりが広がっていく。

 ……これを円形にする、というのは無理そうだ。起死回生の一手にもならないか。

 

「──話には聞いていましたが、本当に泣かない。本当に助けを求めない。ラグス・M・ダッドリーが施したという意識改革とはなんだったのですか?」

「立会人が、口を挟むとは……美しくないですね、ゾルフ・J・キンブリー」

「そして減らず口もやめない、と。アナタ、あと数十秒としない内に死にますが、それは理解しているのですか?」

「していても、してなくとも、やることは変わらない……」

「……アナタもアナタですよ、ヴァン・ホーエンハイム」

「オレを非難するか、ゾルフ・J・キンブリー」

「ええ、します。一思いに殺してあげたらいいものを。こんな悲鳴も上げない、自身も理解できない、何もできない矮小な存在、アナタならば最初の一撃で殺せたでしょう。アナタに幼子を嬲る趣味があったのだとしても、こんな反応の薄い相手にどんな楽しみを覚えているのですか?」

「オレをお前のような異常者と一緒にするなよ……」

「異常者。その自覚は勿論ありますよ。私の美学はこの世の常識に反する。ですが──」

 

 目も見えなくなってきたのに、わかる。

 キンブリーがこちらに向ける目線が憐憫であると。

 

 だから強く睨み返す。

 

()()()()()()()()()()は、見ていて面白くない。アナタや人造人間(ホムンクルス)と同じですよ、レイゼン・M・ダッドリーは。撃たれようが斬られようが気にも留めない。違う所は、彼女は再生しない、ということだけ」

「……いまさら何を言われても、オレの心には響かないよ」

「でしょうね。アナタは最早人の親ではない。心まで怪物となった装置に過ぎない。──ですから、まぁ」

 

 一矢。

 舌で地面に描いた錬成陣から、ヴァン・ホーエンハイム目掛けて土の槍を錬成する。

 

 それは──途中で止まった。届かなかっただけだ。

 

()()()()()()()()()()()、と言っておきましょう」

 

 薄れゆく意識の中で、最後に見たのは。

 

 金色と、青銅色の──。

 

 

 

 *

 

 

 

 一命を取り留める、とはこういうことを言うのだろう。

 絶対安静の状態で、全身に包帯やギプスを巻かれた状態で、私は目を覚ました。

 病院、ではない。ここは。

 

「あ!」

 

 声。でも顔を動かせない。聞いたことのある声だけど、耳にまで包帯がぎっちり巻かれているせいでくぐもって聞こえる。

 

「お母さん、お父さん! 起きたみたい!」

 

 気配がたくさん来る。

 けれど体が動かない。無理に動かすとかも出来なさそうだ。これは麻酔か、筋弛緩剤の類を打たれている?

 全身が重く、酷く眠い。ずっと眠っていた気がするのに。

 

「──ほっとしたよ。あとは当人の生きる意思のみだったんだけど──」

「──でもまだ顔色は良くない──何か食べ物──」

「レイゼンさ──レイゼンさん──ッ!?」

 

 意識が落ちるのを感じる。

 だが、成程。生きるには当人の生きる意思が必要、か。

 

 まだやり残したことがある。生きる。生きる。

 生きる。

 

 

 

 雨が降っている。

 だというのに、おかしな光景が目の前にあった。

 

 真っ白なのだ。

 見渡す限り、全てが真っ白。

 

 その中で、二人が喋っている。

 

「それは確かに正解ですが、あなた()自身を損なうことになりますよ」

「何か問題がありますか? ──ようやく辿り着いた結末です。あなたが"世界"でも"宇宙"でも"神"でも"真理"でも"全"でも"一"でも──私自身でも。この願いを妨げることをさせるつもりはありません」

「……本当に良いんですね」

「本当に良いから、ここまで来ました」

 

 二人は。

 真っ白で、ぼやけた黒い輪郭を持つ女性と、凛とした印象を抱かせる女性は。

 

「二つ名の無き──いいえ、錬金術を覚えたての、いてもいなくても変わらなかった錬金術師の、最期の錬成です。確と受け取ってください」

「いいでしょう。──さようなら、レイゼン・M・ダッドリー」

 

 後者の女性が手と手を合わせる。

 神への祈りか、人体錬成者のソレを思わせる合掌を、けれど彼女の背後にあった巨大な扉にではなく、自身へと当てた。

 

 中心から分解されて行く女性。

 雨が降る中で、真白の空間で、ぼやけた輪郭の女性の方に全てが集まっていく。

 

「願わくは」

 

 最早顔の半分も残らぬ状態の彼女が、最後に呟いたのは。

 

「セリム様の、健やかなる、未来、を……」

 

 そうして。

 そうして、完全に消え去る彼女。

 

 残ったのは──消えた女性と同じ姿をした女性。

 

「これが真相の一つです、レイゼン・M・ダッドリー」

「……何らかの要因で穴が開いた、のではなく……中身の一要素が消滅したから、フラスコが耐えきれずに穴を開けた。生じた真空を支えられるほどの強度は無かった、と」

「良い理解力です、レイゼン・M・ダッドリー。貴女は私ではありませんが、私の代替を務められる魂。流石です、と褒めるのは……おかしな話でしょう」

「真理」

「はい」

「これが夢でも、私に封されていた記憶でも、どちらでも構いません。あなたが本物でも偽物でも気にしません。ただ……一つだけ聞きたい」

「どうぞ。貴女にはその権利がある」

「私が……あの人。セリム・ブラッドレイと添い遂げることは、彼女の悲願の達成と言えるのですか?」

「どうでしょうね。彼女()を愛したセリム・ブラッドレイ。貴女(誰か)を愛したセリム・ブラッドレイ。そして、(彼女)が愛したセリム・ブラッドレイ。そのどれもが同一であるのなら、あるいは」

 

 雨が降っている。

 この雨は、私の記憶の雨なのか。それとも、彼女の最期の雨なのか。

 

「少なくとも」

 

 雨音を立てない雨の中で、真理(レイゼン)の声は、良く響く。

 

「仲違いをしている貴女達を見たら──彼女()は前に出て、踏み込んで、貴女の頬を叩くのではないですか?」

「……返すことは、できないんですね」

「はい。もう彼女()はいませんから。その身と引き換えに世界に小さな穴を開け、異物(貴女)を混入させるという等価交換は成立しています」

「そうですか。愚かなことをしましたね、レイゼン・M・ダッドリー」

「ええ、(彼女)もそう思います」

「自己犠牲も献身も滅私もあまりにも愚かです。やるなら最後まで自分の手でやればいいものを、自分が消えて穴を作り、あとは誰かに任せる、なんて……馬鹿馬鹿しい。それも、呼び込んだ魂がこんな欠陥品と知っていれば、レイゼン・M・ダッドリーも考え直したのでは?」

「そう思いますか?」

「いいえ。そうですね、心にもないことを言いました。……もう一つだけ教えてください真理(レイゼン)

「どうぞ」

 

 いつの間にか私の背後に移動していた扉が開いてくのを感じる。

 中から出て来た黒い手が私の身体を掴んでいくのを感じる。

 抵抗はしない。だけど動く気は無い。

 

「彼女が開けた穴は、まだ開いていますか?」

「はい。誰も埋めていませんから」

「十分です。それでは、失礼します。私ではない真理(レイゼン)。願う必要はありません。あなたの傲慢な願いは、既に私が引き継ぎました。どうか安らかにお眠りください」

「──何の関係も無い貴女に重荷を背負わせたことを、どうか」

「くどいんですね、レイゼン・M・ダッドリーは。そこは私とは違います。私が今眠れと言ったのですから、疾く眠ればいいんです。この門が再び開かれることはありません。この真理の扉は彼女のもの。彼女の位置にいる私が今こうして混線してしまったのも、二度とは起きないことでしょう。──もう一度言います。安らかな眠りを享受しなさい、レイゼン・M・ダッドリー。貴女ではない私が、貴女ではできなかったことをやってあげます」

「……傲慢というより、傲岸不遜ですね、私ではない貴女は」

「ええ、それが唯一残された私のアイデンティティです」

 

 黒い手に引きずり込まれ、扉が閉じる。

 目は閉じない。けど、真理が見えることはなかった。まぁ私が開いたわけではないから当然か。

 

 ──真相の一つは理解した。

 ならば後は。

 

 

 

 

「起きたか!?」

「正確には起きていた、が正しいです。エドワード・エルリック」

「何言ってんだ、お前三日も寝てたんだぞ!」

「でしょうね。それくらいの大怪我でした。あなた達が割って入って来なければどうなっていたことやら。ただ、まぁ、ユーリ・ロックベルには感謝を伝えないといけませんね。私の意識が薄れる寸前に聞いた彼の"生きたいという意思"なる言葉が私を生かしました」

「いや冷静が過ぎんだろ! 死にかけたんだぞ!」

「自身の行動の結果です。不満も不服も無いのであれば、感情を荒げる必要はありません。……それよりこのギプス類取ってくださいませんか。動けません」

「~~~ッ! ウィンリィ! ユーリさん、サラさん! 重症者が起きて、暴れようとしてる! ちょっと手伝ってくれ!」

 

 暴れようとはしていない。

 嘘吐きめ。

 

「ああ、今度こそ本当に起きたようだね。よかった」

「ダメよ、レイゼンちゃん。そのギプスも包帯も点滴も、貴女が生きるために必要なものなんだから。取ろうとしちゃダメ」

「いえ、ご迷惑をお掛けしましたし、ご心配もおかけしましたが、もう大丈夫です」

 

 ガン、と。

 それなりに強い痛みが脳天を襲った。

 

「お、おいウィンリィ! 流石にソレはやべーだろ……」

「うるさい、黙っててエド。──あんた、レイゼンって言うんでしょ」

「はい、そうですよ。ウィンリィ・ロックベル」

「……レイゼン。あんた、自分が眠ってる時に、魘されるようにずっと繰り返してた言葉、覚えてる?」

「寝言ですか。覚えていませんね。何か恥ずべきことでも言っていましたか」

「覚えてないなら良い。エド、お母さん、お父さん。この子の看病はやっぱりあたしがやる」

「不要です。すぐにでも出て行きます。お金は後々払いますので、とりあえずこの点滴から出ている麻酔を抜いていただけると助かるのですが」

 

 振り被られるスパナを、辛うじて、と言った様子でエドワードが止める。

 そしてユーリ・ロックベルが彼女の手からスパナやら何やらを取り上げた。

 

「ウィンリィ?」

「……う。……つい、エドにやる感覚で」

「オレなら良いみたいな言い方!」

「でも、気持ちは変わらない。この子の看病、あたしにやらせて」

「……うん、わかったよ、ウィンリィ。レイゼンちゃんが逃げ出そうとしたら、暴力以外の方法で止めること。いいね?」

「さて、じゃあ私はご飯を作ってくるわ」

「任せて、いいんだな。ウィンリィ」

「うん。ついでに女同士で話すことがあるから、あんたも出てって、エド」

「……あんま変な事言うなよ。ソイツ、結構危ない奴だぞ」

()()あんたより?」

「……」

 

 さ、と言って、ユーリ・ロックベルがエドワードの肩を押して、三人は出ていく。

 残ったのは怒り顔のウィンリィ・ロックベルと私。

 

 何をそんなに怒られているのかさっぱりわからない。医者の言うことを聞かない患者だから、か? まぁそれなら合点は行く。こちらが十割悪い。

 

 ウィンリィ・ロックベルは、一度私から離れ、勢いよく部屋のドアを開ける。

 

「……聞き耳立ててるとか、野暮な事はさすがのエドもしないか。ふぅ」

 

 そうして扉を閉じると。

 彼女は、今度は真剣な目を向けて来た。

 

「教えて」

「……何をですか」

「エドなんでしょ。お父さん達やトリシャさんを()()()()()()の」

「……死んでいたのですか?」

「知らない。でも、あたしの中に残ってる。二人が死んだって知った時の、虚無みたいな感情も、復讐相手を知った時の、爆発するみたいな感情も、ようやくみんなが前を向けた時の、歩き出した感情も。……でも、何故か今、みんなそれを失ってる。あたしだけ……リゼンブールでは、あたしだけ、どこか疎外感を覚えてる」

 

 明確な記憶を有しているわけではない。 

 錬金術師ではないから、なのか。お爺様やお兄様達と同じように、夢で見たとか、人伝に聞いてようやく思い出したとか、その程度なのだろう。

 もっと薄いか、これは。

 そうか。

 

 そうか──忘れてしまっても、ただ感情だけが残っているのか。

 ……それは、つらいだろうな。

 

「レイゼン。あんたの名前に対して、私が思うことはほとんどない。だけど、エドの執着具合から見て、あんたはエドにとって何かカギを握る人だ、ってことはわかる。アルもびっくりするくらい心配してたし」

「それで、それらの情報が何故あなたの両親やトリシャ・エルリックを蘇らせた、などという荒唐無稽な話に繋がるのですか?」

「だから、知らない。直感よ直感! あとは……あんたの寝言」

「寝言。私は眠っている時に、なんと?」

「……」

 

 つらそうな顔だ。

 なんだろう。寝言までは操作できないから、何を言っていたのか気になる。

 

「ずっと──ずっと、謝ってた」

「謝っていた? 私がですか?」

「私みたいなのが生き残ってごめんなさい、とか。私なんかを助けさせてごめんなさい、とか。私のためになんか命を賭させてしまってごめんなさい、とか。……夜じゅう、ずーっと」

「はあ。悔恨ですか。そんな感情、私にあったんですね」

「自覚がないなら、より重症じゃない……」

 

 自覚がないわけがない。

 だから私は前世で命を絶ったのだし。

 ……まだ未練があるのか。情けないな、本当に。満足した人生であったことを、まだ誇れないのか。

 

「それらを加味しても、死者蘇生に繋がるキーワードが出て来ないのですが」

「だーかーら! 大半は直感だって言ってるでしょ。……わかんのよ、あたしは。エドが……アイツが、どれだけ普通に、明るく振る舞ってても、自分を騙し切れない程に何か後ろ暗いことをやってるって、わかるの」

「はあ。愛の為せる業、という奴ですか」

「……」

「否定しないあたり、もう恋心には自覚がある……いいえ、告白された時の感情も覚えている、といったところでしょうか。まぁいいです。教えて、ということでしたが、申し訳ありません。私もその確認のためにここへ来たので、教えるも何も、と言った感じで」

「それでもいい。アイツの頭ぶん殴ってでもヘンな道へ行こうとしてるのを止めるのは、あたしの役目。あんたや他の人に渡す気は無いから」

 

 強いな。 

 ……この強さは、私から最も遠い所にある強さだ。

 

 ウィンリィ・ロックベル。技術面においてエドワードをサポートする役割ではあるけれど、同時にエドワードの「根拠」であり「支柱」。

 お手上げだ。

 

「アルフォンス・エルリック」

「アル? アルも関わってるの?」

「いえ。ただ簡易伝声管のようなものを錬成してこの部屋の音を拾っているようなので、呼びかけました。アルフォンス・エルリックは関わっていないのだろうことを私は推理していますから、ある意味でウィンリィ・ロックベル。貴女と同じ立場にあります。ここへ呼び込みましょう」

 

 同じ立場。

 それは、つまり。

 

「身内を疑わなければならない、そのつらい立場は──申し訳ありませんが、心中お察しすることができるほど、私に人間味がないので他を当たってください」

「あんた、偏屈な人間って言われない?」

「生まれて初めて言われました。新鮮です」

「……アル、聞こえてるなら早く来て。このままだとあたし、この重傷患者の顔ぶん殴りそう」

 

 アルフォンスが来るまでに、私は顔を二、三回殴られそうになったことだけを記述しておく。

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