セリム・ブラッドレイの許婚 作:クラレントブラッドブラッドレイ
珍しく思いつめたような顔の彼に、声をかけた。
自分から、というのは……実は中々に珍しいことだったのかもしれない。周りのざわつきを聞くに、多分そう。
「悩み事ですか」
「……ええ、まぁ」
「吐けば楽になるかもしれませんよ」
「それは、ないですね。僕が悩んでいるのは、君についてなので」
「だとしても、です。たとえ対象が私だったとしても、私が私に対する対応について解決策を見出せない理由にはなりません」
「……随分と、屁理屈が得意になりましたね」
「昔からです。セリム様の前ではできるだけ嘘を吐かないようにしていただけで」
「そう……ですか」
おや、売り言葉に買い言葉で乗ってこない。
これはかなり重症かもしれない。
だから──私は、自然と。
彼の手を取った。
「あ……」
「ここは少し人が多すぎるので、行きましょう。悩みというのは大多数に聞かれていては素直に話せないものです」
返事を待たずに歩く。彼の身体は特別重いとかそういうことはないので、ずんずんと。
野次馬が割といるから気配を読んでひと気のないところ、ひと気のないところを目指して──そうして辿り着いたのは、学院二階の裏バルコニー。日当たりが悪いためにちょっとじっとりしていて、だから誰もいない場所。
そこで振り返って、手を放して、向き直る。
「さあ」
「強引な役回りは、僕が担う方だったと思うのですが」
「一人で考えていても答えは出ないでしょう。前に言っていましたよね。行動するのが大事だ、と。あの時は何の話かわかりませんでしたが、その答えに至ったという事実だけで十分です。さあ」
「君は……。いえ、いいです。どうせ言っても無駄でしょうから」
諦めたというか。
呆れたように、セリムは口を開く。
「父に対する作戦。僕はまだ納得が行っていない、というだけのことです。ただこの話を学院でするのは憚られたから、黙っていました。僕の事情で君の日常を脅かすのは、強制した身として申し訳が立ちませんからね」
「後半ガン無視しますが、納得が行っていない、とは? マスタング大佐にも"それならば……まぁ、いいだろう。だが……いやいい"とお墨付きを貰っています」
「快諾じゃなかった時点で察してほしいものですが。……いえ、違いますね。そこじゃないんです、僕が悩んでいるのは」
「というと?」
セリムは、先ほどまで握られていた手の方を見る。
まじまじと見つめて、また大きく溜息を吐いて。
「この作戦の可否というより……成功した場合、100%の確率で君とお別れになる。それが……やっぱり、どう考えても受け入れられません」
「……今更未練ですか」
「今更も何も、僕は初めから納得していませんよ。マスタング大佐への電話からずーっと君の主導で事が動いている。僕はほとんど何も関与しないまま、ね」
「死が別つ凄惨な離別ではなく、世界を解き放って終わる清々しい関係に、何の文句があるんですか?」
「酷い言葉を吐いても良いですか?」
「どうぞ」
「……。……、……。──君は……一回目だから、そういう言葉が吐ける」
十分に溜めて、長く長く息を使って、血を吐くように紡いだ言葉がそれだった。
「君が好きだと自覚したのはそんなに初期の頃ではなかったけれど、それでも僕たちは何度も何度も繰り返して、そして、僕は、ようやく君を好いていると理解して……君が死なない未来をようやく手に入れて。それでも、僕が愛した彼女はいなくなっていて、僕が好きになった君とは今永遠の離別を迎えようとしている。……君には関係ない話ですね。申し訳ありません」
「つまり、"これだけ長い間我慢したのだから報われたっていいじゃないか"、ということですか?」
「……ええ、そうです。一瞬陳腐な言い方をされた、と思いましたが……思い直してみれば、その陳腐な思いを抱いているのが僕でした」
「そうですね。陳腐で、そして高望みです。愛も恋も実らないことの方が普通です。そんな中、貴方の恋はしっかり私に届いています。それだけで十分な報酬でしょう。そこからさらにを求めるのなら、多大なる代価を自らに強いなくてはなりません」
「具体的には、なんでしょうか」
「さぁ、なんでしょうね。私も知りません。恋も愛も抱いたことがないので」
そこからさらに、を求めることができないのならば。
多大なる代価を支払う能力が、セリムには無かった、というだけの話。
多分それも等価交換だから。
「ただ一つ言えるのは、セリム様がどうしようと私は事態解決に向かう、ということです。このままエルリック兄弟やヴァン・ホーエンハイムに全てを明け渡し、引き継ぎ、私達は安全地帯で日常を、なんてことは我慢なりませんから」
「なら僕が父のもとへは向かわない、と言ったら、どうしますか。君は僕の護衛として」
「護衛として、確実に害を為してくるフラスコの中の小人を打ち倒します」
「……僕を守ってください。僕のそばで」
「防戦一方では手が尽きてしまいますから。早めに大元を叩くのは間違っていません」
「じゃあどうすれば」
拍。
「……どうすれば、君を引き留められるのですか。どうすれば、君と別れずに済む。……ああ、ダメですね。僕の思考は今……父に寄っている。今脳裏に浮かんだ言葉は、"もう一度繰り返せばいいじゃないか"でした。だって、そう……ここで君を阻止して、また父が世界を回せば、また君と会える。もっと幼い頃からちゃんと日常を過ごして、ちゃんと気持ちを伝えて……」
「そして、永遠を求める気ですか?」
「……ダメ、なんですか?」
「幸せは元から永遠ではありませんよ、セリム様」
そうだ。
元から幸福と永遠は両立しない言葉だ。
人間の命には限りがあり、短命だからこそ命は輝くし、幸せな記憶は持続する。これを永遠に変えてみろ。終わりがないことにいつしか飽き、幸せであることが退屈になり、果てには愛も恋も忘れた熱量の無い怪物に成り下がる。
何事にも興味を持てず、何事にも関心を持たず、一時的に熱くなることはあってもすぐに急冷する。
そんな、感情とは程遠い化け物になる。
「ただ私達の幸せが特別短かった、というだけの話。明日私がいなくなることも、作戦決行日にお別れすることも、十年や二十年後突然病死することも、等価です。等しく幸せな日常で、等しく悲しい離別です。長く待ち過ぎたせいで、幸福に夢を見過ぎていますよ、セリム様」
「そんなことは……ないでしょう。やっと、ようやくの思いで手に入れた日常を……そう簡単には手放せません。手放さずに済む手段が目に見えているのですから、尚更に」
「そうですか? しかし、先ほどの想定には一つ穴があります。では問題です、セリム様。"もう一度繰り返せばいいじゃないか"という貴方の脳裏の答え。それの穴とはなんでしょうか」
一秒、二秒と経った。
セリムは口を開き、しかし噤む。思いつかなかったか、あるいは思い至って、けれど口に出せなかったか。
どちらにしろ時間切れだ。シンキングタイムを十秒二十秒と取ってやるほど私は優しくない。
「仮に次の世界で貴方に告白されても、私は決して頷かないからです。──私はレイゼン・M・ダッドリーではありませんから、貴方の愚行に呆れ返り、貴方を拒絶するでしょう」
「……すべてを覚えていられると、何故そう」
「記憶の有無は関係ないです。私は私が私であるという理由だけで、貴方を拒絶します。妥協に走って延命措置を選んだ貴方を軽蔑します」
「構いません、と言ったら? 別に、いいですよ。君に嫌われても……共に在るだけなら、僕には立場が、権力がありますから」
「本気ですか?」
「どう、思いますか」
……本気かどうかは、読めない。
本気で言っているのか、仮定を吐き出しているだけなのか。
悩んでいるのはわかる。決め切れないでいる気持ちもわかる。
でもそれは、もう幸せでもなんでもないじゃないか。
「──本気なら、私は今日にでも動きます。ヴァン・ホーエンハイムもマスタング大佐もエルリック兄弟も連れずに、誰にも話していない、私一人が思い当っている""ある場所""へ行き……そこですべての蹴りを付けます」
「君が単独で、自分の考えだけで動けば、事態は悪化するだけですよ」
「誰にとっての悪化ですか?」
一瞬、虚を突かれたような顔になるセリム。
今。現在。
少なくとも三つの意志がこの世界の行く末に手をかけている。
紛い物を代価に本物を呼び込まんとするフラスコの中の小人。紛い物の世界であっても幸せなら続けていたいセリム、あるいは未練ある者達。そして紛い物の世界を解き放ち、フラスコの中の小人の野望を阻止せんとする私やエルリック兄弟方々。
その、誰にとっての、悪手なのか。
「フラスコの中の小人の言い分にも穴があるんですよ。──"次"において、私が本物であるという確率はまだ半々です。呼び込んだ本物が、"次"には紛い物になっているかもしれない。まぁだからこそフラスコの中の小人は試行回数を重ねたいのでしょうが。どれだけ数を重ねても本物が増えないと知れば、フラスコの中の小人は全く別の手段を取るか、諦めるかもしれません。そうなったらどっちみち同じですね」
「……そうなるとしても、そこに至るまでの日常は過ごせますよ」
「いつ来るかわかっている終わりより、いつ来るかわからない終わりの方が好ましいのですか?」
「長さで見れば、明らかに後者の方が長いですから」
そうですか、と私も息を付く。
では、と。
剣に手をかけた。
「……何を。いえ、どういうつもりですか? まさかここで僕を殺す、とでも?」
「護衛が護衛対象を殺すわけがないじゃないですか。ただ」
踏み込む。
出来得る限りの脱力をし、足音も立てず、気配も溶かして。
一閃。
「──……ふ」
「そろそろ来る頃だろうとは思っていました。まさか学院で、とは思っていませんでしたが」
剣を受け止めているわけじゃない。振り下ろされた力の流れを逸らし、相手が自分の力で剣を抑えてしまっていることに気付かせないようにしているだけだ。
私が非力であることに変わりはない。
けれどそれを言い訳にするつもりはもうない。
「ふっふっふ……はっはっは。──さて、レイゼン・M・ダッドリー。用件はわかっているな」
「ここにいたのが私一人であれば"好都合です"といって同行したのですが、残念ながら今の私は護衛です。さて──大総統。私の返事はわかっていますね?」
剣の煌めきはない。陽光が当たっていないから、ここでは彼が天に見放されることもない。
それでも私が彼の振るう剣を捉えられているのは、偏にターゲットが誰なのかを理解できているためだ。
即ち。
「な──何を。どういうことですか、ラース!」
「簡単な話だ。たとえ長兄と言えども、自身から離反し、役目を果たさない不穏分子を生かして置く理由はない。伝言であるかは怪しいが、こう言っていたぞ、
「……その言葉は」
かつては、グリードに向けられたもの。
「させません」
剣を受け流し、受け流し、受け流し、受け流す。
弾く程の力は無い。受け止める力はない。利用するのはあくまで相手の力だ。できるだけ剣の根元に防御を滑り込ませ、腕が伸び切る瞬間を狙って剣を潜り込ませる。
大総統、もといラースに他
だから腕の、もっと言えば手首の腱なんかの耐久力はあくまで人間の範疇にある。尺骨の形も手根関節の形も人間と同等で、中を通っている神経も骨を覆っている筋膜も、無理な動作ができるように作られているわけじゃない。
この技法は人間の腱の、中でも親指に繋がるものを痺れさせるためにある。何度も何度も不意に伸ばされた腱は予想外のストレスがかかり、しかもそれは本当に痺れてくるまで気付けない。
問題があるとすれば、そんな遅効性の毒が彼の動きを奪う前に、私が力尽きる可能性の方が高いということ。
あくまでこれは受け流しのための技術だ。痺れそのものはおまけで狙っているにすぎない。
剣を振り下ろす時、剣が突っ張ればそれ以上を振り下ろせない──ただその事実だけを狙った防御。私が硬くなるのではなく、相手の可動域を狭める剣。
「成長が目覚しいな」
「子供なので」
「ふっふっふ、お前の後ろに、いつまで経っても成長できない子供がいるとわかっていての言葉かね、それは」
「子供として生み出されたのですから、仕方がないでしょう。
「だが、まだまだ」
チッと、左目の上の皮が薄く斬られる。
……危ない。間合いを見誤った。
「どうしましたか。何故そんな驚いた顔を?」
「いや何、若者の成長に驚いていただけだ」
「左目を丸ごと潰すつもりだったのに、ですか」
「無くなった所で困らないだろう?」
「そうですね。両目見えなくてもあまり問題はありません。ただ痛いのでやめてください」
「言う割に、攻撃をしてこないではないか。受けるばかりでは傷が増える一方だぞ」
「攻撃はてんでまったく成長していないので」
「ならば死あるのみだぞ、レイゼン・M・ダッドリー」
「果たしてそうでしょうか。別に成長していない、という言葉は言い訳じゃありませんよ」
踏み込み。
大総統が踏んだその場所が、突如ぐずりと崩れ落ちる。
「!」
「私の戦闘スタイルを忘れたわけじゃないでしょう。ここに至るまでの数手で、私が一切の錬金術を使っていなかったことに違和感を持ちませんでしたか。それとも、錬成反応が走らなければ錬金術は使われていないと──勘違いしていましたか」
たとえそうやってバランスを崩しても、流石は大総統だ。
すぐさまバルコニーの中で無事である箇所を見抜き、そちらに捕まることで事なきを得た。まぁたかだか二階の高さなので、落ちた所で、だったとは思うけれど。
「水を用いた腐食の錬成陣です。錬金術の中では基礎に近いものですが、大した錬成反応ではないため錬成規模も小さくて良いという利点があります。やり方を工夫すれば、
「……良い脅しだ。つまり、これ以降はもう錬成反応を基準にはできなくなった──お前の周囲にあるすべての物に仕込みがしてあると思え、と」
「説明ありがとうございます。そして、正答には報酬が必要でしょう。──どうぞ」
今度は激しい錬成反応を立てて、一階、つまり腐り落ちたバルコニーの建材から杭が錬成される。
それらは簡単に避けられたけれど。
けれど、だ。
「……今のは、錬丹術かね?」
「いいえ、錬金術ですよ」
「しかし、遠隔で錬金術を発動させる技は」
「遠隔ではありませんから」
また錬成反応。今度は壁から。
それは石柱の形を取って、大総統を横殴りに吹っ飛ばす。
先程から何もしゃべらないでいたセリムの手を掴み、彼を俵抱きにして地面へ飛び降り──今度は普通に剣を受け流して回避。
ダメージは……全然だ。あとセリム、軽いとは言っても私には重い。降ろす。
「成程」
「もうタネがわかったのですか。驚かし甲斐の無い人ですね」
「これでも長くを生きているからな。──しかし、あの範囲の物質の錬成し直しとは。錬金術とは、円の範囲内だけに作用するものではなかったのかね?」
「範囲内ですよ。──私、この学院が安全だと思ったことは一度もありませんから」
「ふ、はっはっは! そうか、飛んで火に入ったのは私の方か!」
遠隔錬成なんて高等技術は私には使えない。
だから、地面の杭と壁の石柱は、バルコニーと地面、バルコニーと壁を錬成し直し、ついでに杭と石柱を追加錬成した、という原理。そのための錬成陣はこの学院の至るところに仕込んである。
いつ襲われてもいいように。
どこで襲撃されても対応できるように。
この学院に通うと決まったその日から、主に血液などを用いて染み込ませる形での錬成陣を刻んできた。
私は護衛。セリム・ブラッドレイの護衛。
少なくとも彼が最も安心している場所への警戒は怠ったりはしない。
「いいだろう。中々に楽しい時間だったが、次で終わりとなる。以前付けられた頬の傷の返礼を受け取りたまえ」
「さっき左目上に受けましたが」
「防がれている。受けたとは言えん」
「わかりました。受けて立ちます」
もう、いなかった。
「ッ!」
「
馬鹿を言え。
まるで鎌鼬に切り裂かれたかのような傷跡を見ろ。何が防いだ、だ。
頬。
頬、だ。確かに。それ以外も――大きく傷を負ったが。
「レイゼン!」
「……おや。なぜそんなに悲痛な声を? 貴方には次があるのでしょう。私が貴方を軽蔑しても、次において私が健やかであればそれでいいのでしょう。その私が誰でも、何になっていても、貴方は構わないのでしょう」
まだ、腕の感覚はある。
戦闘スタイルを忘れていたのは私の方だった。生存のための剣ばかりに固執していて、こっちを忘れていた。
まだだ。
まだ、私は死んでいない。
「今はそんなことを言っている場合じゃ」
「そうだとも。そんなことを言っている場合ではないぞ、セリム。なぜお前はレイゼン・M・ダッドリーを守らなかった? お前の影ならば防げただろう。なぜそれをしなかった」
「っ、知ったような口を利くな、末弟の分際で!」
「いつまで経っても子供な長兄の父親をやらされているのだ。文句も出てくる」
音が遠のいていく。
構わない。必要な情報だけ拾えたらいい。要らない情報は自分から捨て去るべきだ。
相手は格上であるということを忘れるな。
最強の眼だけではない。
掴み取るは打ち勝つ剣ではない。
守り通す剣だ。
だから、いつか使った剣の弾丸など以ての外。
「セリム様」
「レイゼン、一旦退くべきです! 君ではラースには敵わない!」
「わかっています。そして同じことを提案するつもりでした。──貴方には次があるのですから、早く逃げてください。大総統は私が足止めします。ともに逃げた所で必ず追いつかれます。フラスコの中の小人に戻ってしまえば全てがリセットされる。貴方が記憶を失くしては、何の意味も無いのでしょう?」
「僕に、君を見捨てて逃げろと!?」
珍しい。
こんなにも声を荒げるセリムは、いつかの日以来だ。
風。
「行かせません」
「ほう。その満身創痍で、まだ私の剣を受けるか」
「受けていませんから」
満身創痍、らしい。
まぁ、そうか。
半身血塗れなんだ。そう見えても仕方がない。
だが、私の五体はまだ動くぞ。
私はまだ生きているぞ。
「逃げてください、セリム様」
「……」
「護衛対象が逃げる時間を稼ぐのも護衛の仕事です。ご安心を。貴方が誰にも見つからない場所に隠れ、影によって完璧な防御を敷き、フラスコの中の小人が"次"に行かざるを得ない1915年の春まで──私はここで、大総統を食い止めます。他の
「大言壮語もほどほどにしたまえよ」
「実現できることしか口にしませんよ、私は」
押されない。
一歩もさがらない。退かない。
姿勢を低く保ち、彼の軍刀にかかる力を流し続ける。
「行ってください、セリム様。──邪魔なので」
「ふっふっふ、護衛が護衛対象を煙たがるのもどうかと思うぞ?」
「私は事実しか口にしませんよ」
「だからこそだ、と言っているのだがな」
「そして、そろそろ頭に来ました。強制排除させていただきます、セリム様」
石柱を作る錬金術。
それをセリムの足元に作用させる。
エドワード達が良くやっている奴だ。錬成の速度を利用し、対象を射出するアレ。
有無を言わさぬ射出に、彼が文句を言う暇もなく──言っていたのかもしれないけれど──彼自身を遥か彼方へぶち飛ばす。
踏み込みを咎める。
「行かせません、と言いました」
「また防ぐか」
「……ああ、先ほど言った"防いだか"とは、そういう意味ですか。そうですね、私自身への傷は防げていませんでしたが、確かに」
セリムへ向かう攻撃は、一太刀も許さなかった。
確かに防いでいる。防ぎ切った。
「だが、良かったのかね? 刺客が私だけとは限らんぞ」
「先ほども言いましたが、セリム様に勝ち得る可能性のある
「父はどうかね? 父が自ら赴けば、私の比ではあるまい」
「来ないとは思いますが、フラスコの中の小人でも無理ですよ。これは過大評価ではありません。キング・ブラッドレイ。貴方だけが
「では、それを受け続けて死なないお前はなんと称されるべきか」
「私はセリム・ブラッドレイの許婚ですから。それ以上の根拠が必要ですか?」
少し。
大総統の口角が上がるのが見えた。どうやらお気に召したらしい。
ならばもう問答は必要ない。
通さず、殺されず、行かせず、生きる。
「改めて名乗りを。私はレイゼン・M・ダッドリー。ダッドリー家が長女にして末娘。ダッドリーの剣を授からぬ身ではありますが──非才の剣以外の才を持つ傑物であるらしいので」
こっちも、笑う。
精一杯笑う。
「怪物である貴方の相手を務められます。──全力でどうぞ。加減をすれば、私が貴方の首を刎ねますので、そのつもりで」
「良かろう。その意気や良し、だ」
交錯は、一瞬。
ああ。