自分の好きなウマ娘とカーレースを合わせた小説を書きましたので、よろしければ最後までお読みください
私は昔から走ることだけを考えていた。ただ静かで誰もいない景色を見るためにただ走り続けてきた
今日もまた、ターフの上を走り、誰もいない景色を見るためにゲートに向かう
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自分はあまり恵まれた少年時代じゃなかった
母は俺が生まれた時に亡くなり、父は俺が5歳の時レースのクラッシュで逝った
里親に引き取られたが、その里親も高齢で自分が高校を卒業すると同時に亡くなった
そんな自分を満たしてくれたのは
サーキットレースだった
自らの孤独を癒やすために。今日もサーキットでみんなの歓声を浴びながら走る
スズカ/青年「(あの日から運命の歯車がかみ合ったのかもしれない)」
【11月1日東京レース場 天皇賞秋】
実況「さあ、1枠1番1番人気サイレンススズカ、今ゲートに入りました。彼女はレース前「夢の天皇賞に出られることを光栄に思います。ここまで連れてきてくれたトレーナーには感謝です」と語っていました。その逃げはみんなの夢を乗せて1着を取るのでしょうか!?注目です」
【同日 鈴鹿サーキット】
実況「さあ、一番グリッドにつきました。ドリームグランプリ。マクラーレンP1を操り、何度も優勝してきましたマクラーレン!今日勝てば年間チャンピオンに輝き、栄光をつかむことが出来ます。レース前「今日はポールツーウィンで勝ち、今シーズンを締めくくりたいと思います」と語っていました。さあ、まもなくフォーメンションラップです」
今日は絶好調、必ず勝てると思っていた
けど、現実は残酷だった
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実況「さあ、サイレンススズカ先頭のまま第3コーナー回った!」
スズカ「このまま、前へ!....!?あ、足が動かない⁉︎....」
足が動かなかった。動かそうとすると痛みが走った。そして悔しさで涙があふれてきた
故障したのだ......
実況「あーっと!サイレンススズカ失速!サイレンススズカ失速!サイレンススズカに故障発生だ!」
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実況「さあ、マクラーレンは栄光まであと一周走るだけだ!」
「あと少し、持ってくれ.....⁉︎...」
急に視界が右のほうに傾き、マシンがスキール音を上げる
「タイヤか!?レフトか?ライトか?リアか?フロントか?」
ハンドルには左リアバーストの表示が
「くそ!駆動輪が!」
次に気づいた時はコンクリートウォールが横にあった
実況「あーと!タイヤが、タイヤがバーストしたー!そのまま壁に向かって危ない!」
そこからは記憶がない、後方のゾンダR乗りの植原の話によると、バーストし、マシンが左の方を向きコンクリートウォールに激突、そのまま空を舞い横転し、ピットのフェンスに激突後向きを変え、ホームストレートの土を抉りながら連続横転、コーナー入り口に差し掛かるところで止まる大クラッシュだったみたいだ
気づいたときには視界が逆さまで、ウィンドシールドにはヒビが入っていて、後ろは原型をとどめておらず火が出ていた
チーフ「黒井!大丈夫か!?火が出てるぞ!早くマシンから降りろ!」
「................」
チーフ「おい!聞こえてるのか!?」
「あ、ああ........大丈夫だ.....今降りるよ」
悔しかった、泣きたかった。しかし、視界が曇るだけだった
マシンから出て無惨にも大破したマシンを見て
「くそっ」
俺はヘルメットを地面に叩きつけた
そこからは無期限の休養を発表し、チームもグランプリから撤退した
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スズカ「トレーナーさんは?」
医者「怒り狂って帰っちまったよ「あんな大一番でけがするだなんて、ふざけるな!」って。全く、なんて身勝手なトレーナーなんだ」
なんてひどいトレーナーさんだろうと思った
休み無しで厳しいトレーニング、失敗したら叱責され、レースで負けたから捨てるだなんて
私はベッドの上で泣くしかなかった
スズカ「なんで、ただ走ってただけなのに...なんで.....なんで.....」ウルウル
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俺は焼けこげ、大破したマシンの前で俯いていた
「ごめんな....みんな....P1…..」
あれから数週間が経った
レースをしなくなった今、部屋で死体のように腐っているとライバルを失ったと言ってレースをやめ、ウマ娘のトレーナーになった植原か連絡が来た
植原「黒井、確かお前中央のトレーナー資格持ってたよな?」
「突然どうした?確かに、レーサーになる前までトレーナーが夢で卒業間近に取った資格があるが...」
植原「黒井、トレーナーをやってみないか?」
「なんでそんなことを?」
植原「実はな、お前と同じように挫折した娘がいるんだ。聞いたことあるだろう。異次元の逃亡者、サイレンススズカ」
「ああ、この前の秋の天皇賞で足首を折ってそのままリタイアした話か。会場から帰るときに見たスポーツニュースでもトップだったな。だけど、トレーナーがいるだろう?どうしたんだ?」
植原「スズカを捨てて去って行ったらしい。欲に飢えた奴さ、あいつのようにな」
「あのケーニグセグ乗りか。思い出したくないな」
植原「要するに、お前と同じように競技人生にクラッシュの文字が入っちゃったんだ。どうだ?」
「そんなかわいそうなまま競技生活を終えてほしくないな。分かった。受け入れよう」
植原「お前ならそう言うと思ったよ」
「分かった」
電話を切り、ふうとため息をつく
サイレンススズカ、一体どんな娘なんだろうか
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あのレースから2ヶ月
私はベッドで寝ていた。毎日誰かがお見舞いに来てくれるけど、当然トレーナーの姿はない
骨折は深刻で緊急手術を受け、足は治るものの走れるようにはなるには3ヶ月はかかるみたい
昨日テイオーのトレーナーさんから新しいトレーナーが君の担当になるよと言われ、少し身震いがした。また名誉に飢えたトレーナーじゃないかと、怖かった
「あ、あの。本当に大丈夫なのですか?」
私は不安げな表情を隠せなかった
植原(以後テイトレ)「あ?ああ、大丈夫。俺の親友で信用できる。レースでクラッシュして完全に心が折れたからどうだと進めてみたんだ。幸いにも高校生の時すでに中央のトレーナー資格を持ってたわけだから」
「そ、そうなんですか。あ、あの、名前は?」
植原「名前は黒井隼斗。黒井でいいと思うよ。レース好きのトレーナーなら名前は知ってると思う。ライスのトレーナーがいい例かな?じゃ、俺はこれで、お大事に」
「はい。ありがとうございました」
植原トレーナー。新しくテイオーのトレーナーになった人でお父さんから業務を引き継いだらしくあの人も元レーサー。人一倍の愛情でトレーニングしていてテイオーが自慢話で話してくる時が度々ある
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トレセンの駐車場に愛車の34GTRを止め、降りると一人の女性が立っていた
たづな「お待ちしておりました。話は植原さんから聞いています。黒井隼斗さんですね?」
「はい、初めまして。黒井と言います」
たづな「それでは理事室で各種手続きを行いますので」
理事室で規約の確認や業務内容などを確認し、いろんな書類にサインした後
たづなさんに連れられ、やってきたのは学園内にある保健室
「ここに彼女がいるんですね」
たづな「はい」
ドアをノックするたづなさん
たづな「スズカさん。新しいトレーナーさんがお見えになりましたよ」
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ノックの音に私は少しビクッとしてしまった
「あ、はい。どうぞ」
黒井(以後スズトレ)「失礼します」
たづな「では、私はこれで」
スズトレ「はい、ありがとうございました」
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病室に入り、目の前で寝ている少女と対面する
髪の長い栗毛で耳があり、尾がある
超人的な脚は今はギプスにくるまれ本調子が出ないようだ。少女は目を伏せながらこっちを見てる
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病室に入ってきた一人の青年に出会った。背が高く、締まった体で前のトレーナーに比べてすいぶん若い。元レーサーって聞いたけど、競技者が持つ覇気を感じられなかった
スズトレ「君がサイレンススズカだね」
「はい。あなたが、私の新しいトレーナーさん?」
私はトレーナーさんの顔を見た
スズトレ「ああ。名前は植原から聞いていると思うけど、黒井隼斗だ。よろしくね」
すると戸がガラガラという音を立てて開く
スペ「スズカさーん!足は大丈夫ですか?気分はどうですか?」
スペちゃんが勢いよく入ってきた
スペトレ「お、おい!スペ!あ、どうも」
その後ろから困ったような顔をしてスペちゃんのトレーナーさんが入ってきた
スズトレ「こんにちは。スペシャルウィークのトレーナーですか?初めまして。今日からサイレンススズカのトレーナーになりました黒井と言います」
スペトレ「はい、太田といいます。お話は聞いています。よろしくお願いします」
トレーナーさんより少し背が低くて、童顔のスペちゃんのトレーナーさんは手を差し出した
スズトレ「いえいえ、こちらこそ。トレーナー同士、仲良くやっていきましょう」
トレーナーさんも手を差し出し互いに握手を交わした
テイオー「あ!新しいトレーナーだ!ここにいたんだ!トレーナー!いたよ!」
テイオーがこっちを見てあ!っという表情をした後、トレーナーを呼ぶ
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テイトレ「お、いたいた。よお、久しぶりだな」
植原が入ってきた
「なに言ってんだ、つい2ヶ月前共に走ってたじゃないか」
テイオー「ふぇ!?トレーナーもレーサーだったの?」
俺の言葉に驚くテイオー
テイトレ「そういえばテイオーには言ってなかったか、俺もレーサーさ。あいつがここに来る原因となったクラッシュを目の前で見た人物さ」
少し暗めの口調で話すテイトレ
スズカ「そうだったんですか」
スペ「ちなみに、どんなクラッシュだったのですか?」
テイトレ「それは、まだあいつの傷が癒えてからじゃないと言えないな」
テイオー「え~!なんで!」
「別に、話してもいいよ」
テイトレ「え?いいのかよ?」
「ああ。それより、君達はトレーニングがあるんじゃなかったか?」
テイオー「ああ!そうだ!行こう!トレーナー!」
トレーナーの腕をつかみせがむテイオー
テイトレ「オッケー。今日はがっつり走るぞ!」
テイオー「おー!」
拳を突き上げ気合いを入れるテイオー
スペトレ「それじゃあ、僕たちも行こうか」
スペ「はい。スズカさん。あと少しでまた走れるようになりますよ。ではお大事に」
自分のトレーナーの顔を見た後、こっちを向き
スペ「あ、よろしくお願いします。スズカさんの新しいトレーナーさん」
スペがこっちを見て微笑んだ
「ああ、気を付けて」
スペが部屋を後にした後少しスズカと話すことにした
「スズカはレースに戻りたい?」
スズカ「もし足がすぐに治るんだったら走りたいですけど...」
「走ることが好きなんだね」
スズカ「はい、先頭を走る時に受ける風や見える景色がとっても気持ちよくて...でも、最近は好きじゃありません」
「やっぱり前のトレーナーのことが...」
スズカ「失礼かもしれませんが、トレーナーさんはそのような人じゃないですよね」
と、心配そうに見るスズカに苦笑し
「大丈夫。君にとってこのトレーナーでよかったって思えるようにするから」
スズカ「お願いします」
「ああ」
そして、一ヶ月が経った頃
主治医「そろそろギプスをとっても大丈夫でしょう。」
「そうですか」
俺は胸を撫で下ろした
主治医「はい、リハビリを頑張っていきましょう。トレーナーさんもサポートのほどよろしくお願いします。」
こちらに向かって笑顔で主治医はそう答えた
「はい。ありがとうございました」
ひとまず安堵の表情を浮かべる
「これで。ひとまず外に出られるな」
俺はスズカの方を見た
スズカ「はい、トレーニングが楽しみです」
スズカは少し微笑み、外を見た
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【トレーナー室】
リハビリを終え、トレーニングを始めるにあたり、俺は戦術に迷っていた
「スズカの脚質は逃げだが復帰したばかりの足にずっと先頭をいくその走りじゃ負担がかかる...けど、彼女が1番望む走りを尊重したいけど...」
レポートを机に放り投げ天井を見上げる
「夢とは言ったが...思ったより難しいな...他人を指導するのは...植原はよくやってるよ...」
ウマ娘は動物の馬とは違う...耳や尾てい骨の構造の違いがあれど他はヒトと一緒だ
テイトレ「悩んでるみたいだな」
「お?」
「テイオーのトレーニングはどうした?」
テイトレ「まだ午前中だぞ」
「あ、そうか午前は座学か」
テイトレ「そ、だから午前中はプラン考えたり事務作業やらをやるんだがいかんせんそれが終わると暇になる。だから来たってわけ。見たところ走りの戦術に困ってる感じか」
顔を前に戻すと植原が俺のレポートを手に前のソファーに座っていた
「いつのまに...て、俺のを勝手に取るなよ...まあ、そんなところだな」
テイトレ「別にいいだろ、親友なんだし(黒井. よくないよ)、で、お前はどう走らせたいんだ?」
「そうだな...復帰直後にいきなり先頭を走らす逃げは少し不安だ...だからパワーを温存させてここぞっていう時に全開を出させる先行あるいは差しの戦術で行きたいんだが....どう思う?」
テイトレ「そうだな...スズカは抑えた走りをしたがらないのは分かってるよな?」
「分かってる。けど、ケガが怖いんだ。完治直後は万全じゃないし、ウマ娘は超人的な脚力を持っているとはいえ体のつくりは人間と一緒だ……耳や尾てい骨の構造は違うけど。俺達が操ってきたレーシングマシンとは違い壊れないという保証が.....マシンもないか」
テイトレ「ただ、彼女らの回復力は人以上だ。彼女を信じろ」
あいつは優しい顔でそう言った
「そうだよな...わかった」
逃げの策…信じろ…
テイトレが部屋から去ったあとひとり呟いた
「担当ウマ娘を信じなくてどこがトレーナーだ」
そして、トレーニングを開始してから数ヶ月
実況「さあ。新春の中山競馬場でレースが開催されます。さらに、サイレンススズカの復帰戦でもあり、注目が集まります!」
解説「久しぶりのレースだと思いますが、走りに期待しましょう。」
スズカ「(久しぶりのレースで緊張する。でも行かなきゃ)」
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「頼むぞ」
俺は目を閉じ、無事と勝利を祈った
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実況「さあ、全員ゲートに入り出走準備が整いました」
ゲートが開く、けど私は足がもつれ出遅れてしまう
実況「あーっと!足がもつれたかサイレンススズカ!スタートミスです!」
実況「それでも速い速い、もう馬群に追いついた!」
解説「ハナを取れていない彼女にとってこのレースは苦しいですよ」
スズカ「(なんとか追いつけた!あとはこのまま!)」
実況「さあ、馬群は第三コーナーへ!」
スズカ「(う、抜け出せない。苦しい、助けて!)」
私は悲痛な思いを抱えながら走る
実況「サイレンススズカ、苦しそうです。うまく前に抜け出せません!」
実況「先頭集団はそのまま最後の直線へ!」
スズカ「(見えない。誰もいない景色が見たいのに!)」
私の景色はだんだんにじみ、見えなくなっていった
「(やっぱり...無理なの?......)」
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「(作戦失敗か..ごめんな)」
俺は観客席の手すりに突っ伏し、結果を見届けることが出来なかった
【控室】
ガチャ
スズカ「........」ウルウル
控え室に戻ってきたスズカは目に涙を浮かばせていた
スズカ「ごめんなさい。トレーナーさんの期待に応えられませんでした」
「いや、スズカは悪くないよ。俺の問題だ。むしろこっちこそごめん。ゆっくり休んで」
スズカ「はい」
「じゃ、少し外に出てるよ」
控え室から出て、スズカと別れた後、外の観客席に座りうつむく
「(やっぱり病み上がりにレースはきついな...それにしても、難しいな...トレーナーという職業は...)」
空を見上げると晴れていたはずの空はどんよりと灰色になり始めていた
「雨が降りそうだな...帰ろう」
帰るために控え室に戻ったが、スズカの姿がない
「あれ?どこにいったんだ?」
ゴロゴロと雷鳴がとどろいてくる
「スズカ....歩いて帰る気じゃないよね?」
嫌な予感が頭をよぎり、控室を飛び出し、駆け出した
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レースに敗れた私は、トレーナーさんに迷惑をかけないようにとトボトボとした足取りでも歩いて学園に戻ろうと歩き始めると
「あ、雨が降ってきた」
灰色になった空からポツリ、ポツリと雨が降り始め、次第に強くなり、私は大雨の中を歩いていた
「まるで、私の心を表すような雨ね」
すると、目の前に人影が現れた
「あ、あれは...」
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雨に打たれながら歩いてくるスズカを見て
「(ここで彼女を支えなきゃトレーナー失格だ!)」
と思った俺はすぐさま着ていた上着を脱ぎスズカの元へ駆け寄った
スズカ「トレーナーさん…」
俺は自分の上着をスズカの濡れた服の上に掛けた
「全く、控え室に行ったらいないから心配したよ」
スズカ「ごめんなさい。トレーナーさんに迷惑をかけないようにって思ったのに...」
「いなくなられる方がよっぽど迷惑だよ...さあ、帰ろう」
スズカの華奢な肩に手を回す.......その肩は雨に濡れてとても冷たかった
車に戻り、タオルで髪を拭くように言った
「自慢の栗毛がびしょびしょだな」
スズカ「そうですね...」
「寒くないか?必要ならヒーター付けるけど」
スズカ「はい、お願いします」
「分かった」
ヒーターのスイッチを入れ、暖かい風が吹く
車を走らせるとスズカはすぐに眠りに落ちた
「疲れたよな...ゆっくり走らせて帰ろうか」
すやすやと安らかな顔を見せるスズカ
その顔を見るととても申し訳なく思ってくる
「うまく走れなかったのは俺の指導不足だ...本当に申し訳ない」
そう思いながらスズカを起こさないようにゆっくり走りながら帰った
先週のレースで輝かしくないけれども復帰を果たしたスズカ。今日はテイオーとそのトレーナーとともにあるレースを見ていた
スズカ「トレーナーさん」
「ん?どうした?」
スズカ「レースでは勝つことだけが全てだと思いますが...トレーナーさんはどう思いますか?」
「うーんそうだな。そう考える人もいるけど、自分はそうは思わないかな。いつも自分がレースに出る時に頭に入れてるのは
「観客が自分を応援してくれる人とは限らない」まあ、常にアウェイだと思ってことだね。
特に今日のようなレースはマックイーンの3連覇を見たかった人もいるだろうし、ライスに勝って欲しいと思う人もいただろうからな」
自分のレースに対する心得を思い出す
テイオー「でも、ファンがどう見て、どう思うかは気にした方がいいかもね」
テイオーがスズカに向かって言う
「テイオーの言い分も、あながち間違いじゃない。まあ、自分次第さ」
テイトレ「そうだ。今回のライスを見て思い出した。スズトレの初勝利の時だ」
思い出したようにテイトレが言う
「俺の初勝利の時か?よく覚えてるな...もう3年前のことだぞ?」
テイトレ「ああ」
テイオー「え~?なになに?」
興味津々なテイオー
スズカ「私も気になります。トレーナーさんの初勝利」
スズカも気になって聞いてくる
「俺の初勝利は3年前だ。まだP1じゃなくてそれよりも一回り小さい570Sってマシンに乗っていた時さ。強引にインコースにねじ込んで追い抜くという、結構無茶な走りをしてたな」
テイトレ「ずっと一緒に走ってたけど最初のスズトレの走りを見たときはいつか一波乱起こすと思ったよ」
「そして、そのレース当日。俺は12番手からのスタートで。トップの選手の車はパワーがも上だ、晴れだったら勝ち目はなかった」
テイオー「晴れだったら?」
首をかしげるテイオー
スズカ「ということは雨だったのですか?」
「そう。雨。しかも雷雨だった。パワーがあるのに路面が滑りやすかったらどうだ?」
二人に聞くと
テイオー「うわ~。滑りやすくて嫌だな。不良バは嫌いだよ」
スズカ「そうね、走りにくいわ。でも、雨天用のタイヤがあるのでは?」
「あるよ。けどハイパワーで滑りやすい路面はタイヤの消耗を加速させるし、ピットストップは大きなタイムロスになるんだ」
「これは、当時の俺らみたいなローパワーのマシンに乗る奴にとってラッキーだった」
テイオー「それで!どうなったの?」
食い気味のテイオー
「レース序盤から波乱さ。ハイパワーの奴らはコーナリングで苦労してスピンしたり、コースアウトしたりな。」
スズカ「そんな状況じゃ、トレーナーさん達も危ないのでは?」
「ローパワーは全力叩き込んでもタイヤのグリップが負けることはないさ」
テイトレ「そして、ハイパワーの連中が苦戦する中、ローパワーの中でもドライビングテクがうまかった黒井が勝ったんだ」
笑顔で話すテイトレけど、すぐに顔が暗くなる
「けど、ブーイングが起きたんだ」
テイオー「ええ?」
スズカ「どうして?」
驚く二人
テイトレ「みんな、ハイパワーの連中の圧倒的な走りを期待していたのさ。ローパワー同士の小競り合いじゃつまらなかったんだろうな」
「表彰台に立っても歓迎してくれた人はレースのことをよく分かっている方達だったよ。他は帰った。「これが勝利か?」てうんざりしていたよ。でも、そこが分岐点でもあったのさマクラーレンからオファーが来てな、オファーの内容は新しく参戦するマシンのドライバーになって欲しいと言うことだった」
テイトレ「前々から目をかけていたんだろうな、なんて言ったって元マクラーレンのドライバーでこいつの父、黒井悟の息子だからな」
テイオー「お!今まで乗ってたマシンについに乗るわけだね?」
「いや、P1じゃなくて720Sと言うマシンでここから上位の連中と戦えるようになってそこから勝利を重ねていったんだけど、あまり気持ちのいいことじゃなかった」
二人「どうして?」
聞いてくるテイオーとスズカ
「なんだろう。周りのファンがチームの勝利を祝って、ドライバーの勝利はどうでもいいみたいな感じだった。そのせいでモチベが下がって成績が低迷してな」
テイトレ「このときのスズトレは本当に苦しんでた。勝つことはいいんだけど、誰も認めてくれない。これはとても苦しいことなんだ」
「けど、最終戦にテイトレのフェラーリと一騎打ちになって、お互いマシンの性能はほぼ一緒だったから最終的時は己の腕の勝負だったんだ。そして一騎打ちのレースを制した時の観客の大歓声、その時気づいたんだ。勝利とは性能差で得るものじゃない。自分の努力と、みんなの応援があってこその勝利だと気づいた」
テイオー「おお!」
スズカ「これがトレーナーさんに取っての勝利」
「まあ、長ったらしく話しといて「なんだそれだけか」と思うかもしれないけど。そう。自分が努力して、周りに応援されるようになったら立派な勝利だ。性能、コネ、に頼って勝つ奴は勝利したとは言えない」
スズカ「それが、トレーナーさんにとっての勝利なのですね。じゃあ、今日のライスの勝利は?」
「立派な勝利だと思うよ」
テイトレとテイオーはうんうんとうなずいていた。スズカも分かったようにうなずく
天井を見上げ、あることを思う
「(ああ、また走りたいな)」
月日は変わり5月となった。復活、ライスの天皇賞勝利を見て、今後のことをスズカと話す
「次は金鯱賞を目指そう、去年と同じレースローテーションで天皇賞を目指そうと思う」
スズカ「はい」
「それで、戦術だが、前と同じ逃げの策で行こう。スズカの得意な戦術だけど、スタートに気をつけよう。君が出せる一番の逃げを見せて」
スズカ「はい。では、感覚を取り戻すためにすぐトレーニングに行きましょう」
「ああ」
そして迎えた金鯱賞
実況「中京競馬場で行われる金鯱賞。芝2000メートル。天候に恵まれ良バ場となっています」
実況「さあ、注目の一番人気、サイレンススズカ、前回のレースでは8着に終わりましたが、どうでしょうか?」
解説「前回はスタートが失敗でしたね。今回は改善されているといいのですが」
「ほかのウマ娘を見ていきましょう......」
ターフに立って辺りを見渡すと「おかえり!サイレンススズカ!!」の文字が
「(ふふ、久しぶりね、この感覚)」
【レース前控室】
「スズカ、今日の天候は晴れで芝は良バ場。スタート直後にすぐに先頭に立ち、後は逃げる。自分の走りをみんなに見せるんだ」
スズカ「はい、誰もいない景色。私だけの景色を見てきます!」
やる気に満ちたスズカの表情は勝利を確信した表情だった
実況「さあ、ゲートに入り、出走準備整いました
ゲートが開き、スズカは先頭へ飛び出し、後続を一気に引き離す。スズカ本来の走りが戻ってきたことに観客は大歓声だ
スズカを観客席の最前列でレースを見守っていて最終コーナーのさしかかったころ
「(スタートもうまく行ったし、逃げの走りも文句なし、彼女にとって一番ベストな走りだ」
すると、テイトレとテイオーが横に来た
テイトレ「スズカ、本来のレースを取り戻したんだな」
テイオー「いっけええ!スズカ!」
「ああ。元に戻った」
「(あとどれくらい一緒に勝てるかな)」
そんな気持ちがよぎる
実況「サイレンススズカ!今ゴールイン!レコードタイムを更新する一着!異次元の逃亡者が戻ってきました!」
スズカ「…………」
無言だが笑顔で観客に手を振るスズカ
観客「お帰り!」
観客「次もがんばれよ!」
観客「夢をさらに見せてくれ!」
スズカ「はい!頑張ります!」
【控室】
「おかえり、どうだった?」
スズカ「私だけの景色を見ることができました」
渾身の笑顔で言う
「よかった。さあ、表彰式だ」
【表彰式】
金鯱賞のトロフィーを受け取り、こっちに笑顔を向けてくる
「(よかったな)」
笑顔で返してやった
表彰式を終え、スズカと取材に応じた
記者A「次はどのレースを狙っていきますか?」
「次は昨年と同じように宝塚記念を狙っていこうと思います」
記者B「スズカさん。今日の走りはどうでしたか?」
スズカ「はい、とても走りやすく、いいレースでした」
記者B「そうですか。ところで黒井さん。そろそろドライバーとして復帰しようとは思いませんか?」
「はい?」
記者B「ドリームグランプリは今年からクラス分けが変わり、前年黒井さんが乗っていたマクラーレンはハイパークラスに分けられるのですが、植原さんのパガーニもいないなか物足りなさがあります」
「そうですか、スズカの夢を全部叶えられたら、考えてみようと思います」
記者C「今シーズンからフェラーリとポルシェ、プジョーが新型車両を投入していますがどのような心境で?」
「特にこれとは。頑張ってとしか言いようがありませんね...」
記者D「ライバルドライバーはやはり植原さんですか?」
「そうですね。彼は友であり、ライバルですから」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「(どうしてトレーナーさんばかり質問されるの?)」
私はトレーナーさんの方を見た
膨れ顔になっている私を見てトレーナーさんはからかい交じりにこう言った
スズトレ「どうやら、私ばっかり質問に受け答えしているのでスズカが不満そうです」
その瞬間ハッとし、顔が赤くなる
報道陣から笑いが起こる
「それでは。今日はありがとうございました」
報道陣から去り、レース場を後にした
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【帰りの車の中】
さっきのが気に障ったのかスズカは車に乗るなり拗ねてしまった
「なあ、いつまで拗ねるつもりだ?」
スズカ「………」
無言の膨れ顔で返された
スズカ「………勝ったのは私なのに………なんでトレーナーさんばっかり質問されるの?」
「どこから漏れたのかはわからないけど、現役レーサーがレースから離れてウマ娘のトレーナーをしているって聞いたら報道陣はその真相を知りたいからね。質問攻めにあうよ。そこはわかってくれ。からかったのは悪かったよ」
スズカ「次はからかわないでくださいね」
「善処します」
どうやら許された
「それよりも。次はいよいよ宝塚記念久しぶりのG1だね」
スズカ「ええ、また自分だけの景色を見られるよう頑張ります」
「ああ。頑張ろう」
今後のことを話し合いながら学園へ戻った
金鯱賞での勝利から数ヶ月が経った
【トレーナー室】
「スズカ、次はGⅠレースの宝塚記念だ。」
スズカ「ファン投票で選ばれたんですね。今年も阪神競馬場ですか?」
宝塚記念はファン投票で上位18名が出場できる
「うん。阪神競馬場のゴール手前に坂があるのは、去年は知っていてわかるはず。そのためにはグリップ力。つまり足で地面をとらえる力だ」
スズカ「足がどれだけ地面をしっかりとらえられる、ということですか?」
「うん。不良バの時。滑りやすくなっている芝で上り坂とくると...」
スズカ「滑って失速ですね」
「そう。だからそれだけは気を付けて」
スズカ「はい」
【宝塚記念当日】
実況「さあ雨降りしきる阪神競馬場で行われる宝塚記念。連日降る雨のせいでバ場状態は悪く不良バの発表。アルティメットリーグの出場権をかけウマ娘たちがぶつかります」
【控室】
控室に入ると白を基調とした緑の勝負服を身にまとったスズカが座っていた
「不思議な事だ。去年まではテレビなど画面越しだったけど、今、目の前にいるんだから」
スズカ「私も、レーサーだった貴方の活躍をスポーツ雑誌で見るだけだったのに今、目の前にいて私のトレーナーさんになっているのも不思議です」
お互い、去年までは別々の場所でレースしていた身。顔を見合せ、互いに笑う
「そうだね。さて、今日のレースのことだけど、バ場はあいにくの不良。出だしや最後の坂で滑らないように注意。パワーが出ている状態で滑ると確実にケガする」
スズカ「はい」
「距離は2200Ⅿで右回り。出走者は今年や去年のGⅠ制覇者が軒を連ねてるよ。まず、エアグルーヴ、マヤノトップガン、ライスシャワー、ツインターボにスペシャルウィーク」
スズカ「スぺちゃん!」
「そうか。同室対決だな。さらに、ナリタブライアンなど........緊張してきた?」
スズカ「いいえ、誰が来ても先頭の景色は譲りません」
「スズカ、ライスの覚醒とスペの追撃には気を付けて。まだ実力が全部出ていない可能性がある」
スズカ「スペちゃんの追撃...凄いですよね」
「ああ。スペは先行の走りが得意だからな。最後の直線決して気を抜くな」
スズカ「はい」
「あ、ツインターボのペースには絶対についていかないように。後半絶対に失速する」
スズカ「……………」
「分かってるような目で見ないで...さあ、行ってこい」
スズカ「行ってきます」
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控え室から地下バ道をくぐり、ターフに出ると大勢の歓声に包まれる
ふふ、いつぶりかしら。この感覚
スペ「スズカさーん!」
「スペちゃん...」
実況「さあ、一番人気はサイレンススズカ。前回の金鯱賞で久しぶりの勝利を飾りました」
解説「去年と同じように今年も圧倒的な走りを見せるのでしょうか。注目です」
実況「二番人気はライスシャワー。ヒールからヒーローになった春の天皇賞。そこからどうさらに進化したのか注目です」
解説「昨年は転倒で残念な結果に終わりましたからね。どうなるでしょうか」
実況「三番人気はスペシャルウィーク。学園での先輩、サイレンススズカに勝つことができるのか。今、ゲートでサイレンススズカを見ています」
解説「今年は例年以上に強豪ぞろいですよ。だれが勝つのか注目です」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「(いよいよ後半戦か…頑張れ、スズカ」
観客席からゲートを見ていると
スズトレ「いよいよ復活劇も折り返しか」
「ん?ああ。それよりテイオーは?」
テイトレ「マックイーンとレースを見ているよ」
「そういえば、出場してないよな」
テイトレ「怪我が見つかったんだとか」
「......辛いな」
スペトレ「お久しぶりです。黒井トレーナー」
二人「おっ?」
後ろを振り返るとスペのトレーナー、太田が立っていた
「太田さん、お久しぶりです。どうですか?彼女の調子は?」
スペトレ「絶好調ですよ。今日はスズカさんに勝ちます!と言って向かっていきましたから」
「いいですね。その方がスズカも全力で駆けられるでしょう」
植原「ま、雨と不良バがどう影響するか」
「そうだな」
雨が降る空を見上げる
ゲートが開きみんな一斉に飛び出す
実況「さあ、ゲートが開きました!雨や芝の滑りやすさなどものともせず彼女たちは速度を上げていきます。先頭はツインターボ。その後ろにサイレンススズカ、マヤノトップガン、ナリタブライアン。その後ろに先行勢、ライスシャワー、スペシャルウィークと続いていきます。最後尾にはゴールドシップ」
解説[みんな上手くスタートしましたね、そしてサイレンススズカ冷静に見ています」
実況「さあ、まもなく第一コーナーです。コーナーかけて先頭からの差は8バ身とかなり差がありますがどう見ますか?」
解説「ツインターボのペースがこれ以上続くとは思いませんね。あ、言ったそばから失速していきます」
実況「さあ、ツインターボ早くも燃料切れか。サイレンススズカ、迫ってくる。今、追い抜きました。やはり先頭の景色は彼女のものなのでしょうか!さあまもなく向こう正面.....」
走っていると後ろからみんなの思いが聞こえてくる
スペ「(スズカさん。今まであなたの背中ばかり見ていましたが、今日は勝ちます。勝利は、譲りません!(迫真))」
ライス「(お兄様。今日、ライスはお兄様が目標にしてきたスズカさんから勝利を勝ち取ることを達成するから。見てて!)」
実況「さあ、まもなく第3、第4コーナーへと続きます」
テイトレ「いいのか?太田。このまま終わっちまうぞ?」
スペトレ「まあ見ててくださいよ」
テイトレの問いに自信ありげに答えるスペトレ
実況「さあ、第4コーナーを回った!先頭は以前サイレンススズカ!そろそろ先行勢が仕掛けてくるぞ!おっと?荒れたインコースを誰かが突っ切ってくるぞ?」
ゴルシ「どけどけ!黄金の不沈艦。ゴールドシップ様のお通りだ!道を開けろ!」
実況「なんと!ゴールドシップが後方から一気に突っ切ってきたー!」
テイトレ「おいおい、ただでさえ不良バなのに!?」
「無茶だ!」
スペ「さあ、スズカさん。見ていてくださいよ!」
スペの雰囲気が変わる
太田「よし、出たな。総大将ゾーンが」
「なんだ?あれ?」
ライス「さあ、見てて!お兄様!」
ライスの雰囲気も変わる
テイトレ「おぉ?分からなくなって来たぞ?」
実況「上がってきたサイスシャワー!スペシャルウィークとゴールドシップも上がってきた!さあ最後の直線。仁川の舞台はこれから坂がある」
「(いいか。グリップだ。最後の坂はより一層力を込めろ)」
スズカ「(最後の坂、足にもっと力を!)」
実況「さあサイレンススズカ、ここでスパートをかけた!マヤノトップガンもスパートをかけるが速度が上がらない。ライスシャワー、追い抜き上がってくる!ゴールドシップ、スペシャルウィークも続く!」
「よし!坂でスパートが掛かった!」
スペトレ「スペ!けっぱれ!」
実況「先頭はサイレンススズカ!強い、強すぎる!他者を先頭に並ばせないままゴールイン!
まさに一人舞台。宝塚の女王となりました!二着にはライスシャワー!昨年度の転倒から蘇りました!三着はスペシャルウィーク!見事な追い込みでしたがあと少し足りなかった。ゴールドシップ四着でした。歴戦のウマ娘達も歯が立ちません!」
解説「これはアルティメットリーグでの活躍が期待出来そうです」
表彰式でスズカは笑顔を浮かべていた
ウィニングライブでも
テイトレ「いい笑顔だな」
「ああ。最初にあったときとは大違いだ」
テイオー「スズカはね。前のトレーナーの前ではあまり笑顔を見せなかったんだよ」
「そうなの?」
(携帯にメールが届く)
理事会からだった
「夏期休暇及び夏期合宿が終わり次第理事会会合に出席するように」
URA理事長
テイトレ「こいつ、サイレンススズカの前のトレーナーだ。スズカを捨てたあと理事長に......チッ」
「…………今年の秋は忙しそうだ」
夏期休暇と夏期合宿を終え、俺は理事会のある東京都心にいた
「久しぶりの丸の内だ。実家は都内だったから意外と近かったけどあまり来る機会が無かったな」
丸の内に立つURAのビル。俺はここで行われる会合に呼び出された
ビルに入り、受付に招待状を渡す
受付「はい、受け取りました。会合は8階第二会議室で行われますので」
「どうも」
受付に愛想挨拶でかえした後エレベーターに乗り8階まで上がる
「(東京駅が見える。小さい頃は電車好きだったっけ)」
8階に着き第二会議室に入る
「失礼します」
挨拶し、扉を開ける。内心イラついていたからバーン!!と開けても良かったけどここは抑えて
漂ってくるたばこのにおい、勘弁してくれ
理事会の連中は大体が中年のベテラントレーナーからなる。昔は締まっていたであろう体は金と権力により太る一方だ
「(力に溺れた先がこれか....」
一番奥の席に座っている太った中年の男。あれが理事長だ
斉藤「黒井君わざわざ府中からよく来たね。最近忙しい?まあ、そうだろうね。あのウマ娘は少しわがままだからね」
「どうも」
おそらくスズカのことを言っているのだろう。よくもまあ一人でそんなべらべらしゃべることが出来るもんだ。全文の内最初のよく来たねすら本心じゃないだろう。
理事長「まあ、座りたまえ。何か飲むとかね?」
「いえ、そういう接待は無用です。早く要件を」
理事長「君は世渡りが下手なようだね?」
「(あいにく大学進学できなかったからな)」
「(めんどくさい。早く用件を言ってくれ。さっさと帰りたい)」
けど抑えて。本心を目に出すとなにされるか分からないからね
理事長「さて、これより会議を始める。今日の議題はそこに座っているトレーナー。黒井君のウマ娘サイレンススズカのことだ」
「やっぱり...ですか」
役員「今、我々はURAのさらなる観客を動員したい。そこで君とのサイレンススズカの契約を取り消し、我々の元でアルティメットリーグに通用するウマ娘に育て上げようというわけです」
「な、アルティメットリーグはすでに満員の会場が続出するほどのものですが、まだ足りないと?さらに、育て上げようとしてももう十分実力はついています」
役員B「あなたのトレーニングプログラムを拝見させてもらいましたが、到底勝てるとは思えません。我々の方で再度養成させます」
「(契約解除?勝てないプログラム?なにを言っているんだろうな。トレーニングメニューならともかく、契約解除って冗談でも笑えない)」
斉藤「君も苦労しているであろうあのわがままウマ娘を我々の手で育て直し、アルティメットリーグで活躍させさらなる観客動員を増やし、さらにイメージアップにもつなげるのだ」
「(なんでスズカがわがままだと思うんだろうな...)」
理事長「特別移籍で承諾してくれた場合、報酬金を支払うがどう思うかね?」
アルティメットリーグは優勝賞金の30%がトレーナーの元に入る。わざわざこんな若造にそんな大金持って行かれずにURA職員のトレーナーなら無駄な出費を抑えられる。それならまだ分かるが、おそらく私財を増やしたいのだろう。そうでなければわざわざこんな事を突きつけてこない
「断ると言ったら強制契約解除ですか?」
理事長「そんなことはしない。ただ、決定期日までに君が了承してくれなかったら理事長である私から君に対し最後通牒を送りつけようと思う」
「期日は?」
理事長「天皇賞が終わったところかな?ああそうだ。君はあくまで臨時トレーナーに過ぎない、本物のトレーナーは私だと言うことを肝に銘じておくように」
威張った態度で言う理事長
「分かりました。銘じておきます」
上っ面の答えだけ述べておく
理事長「よろしい、では帰って検討するように」
「はい、では失礼します」
と言い、会議室から出る
あくまで臨時トレーナーか……笑わせる。スズカの夢を叶えることが出来ず、更には.....
何かがこみ上げてくるのがすぐに分かった
だが、感情的になってもよくない
心を静めながら学園へ戻った
ひとまず天皇賞までは集中出来る……
はずだった
何度も鳴る電話、無数の手紙
俺のストレスはピークに達していた
もううんざりだ、いつまで続くんだ?
けど、スズカには伝えられない
彼女には夢に向かってほしい。こんな邪知とは関わってはいけない
【トレーナー室】
テイトレ「入るぜ」
「あぁ...」
テイトレ「おいおい、死にかけじゃないかどうした?」
「よく分からない特別移籍のことでストレス」
テイトレ「あぁ、俺にもそんな話が来てたな…正味、うんざりなんだが」
「お前も一緒か...」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【毎日王冠前日】
最近トレーナーさんの様子がおかしくて前よりやつれてきている気がします
「トレーナーさん、大丈夫ですか?顔色が優れないようですが」
スズトレ「いや、大丈夫だ。気にしないでくれ」
そう言ってトレーニングメニューを手に取るトレーナーさん
テイオー「スズカのトレーナーもなんか変みたいだね」
スズカ「え?テイオーのトレーナーも」
テイオー「うん。ボクのURA理事会への特別移籍の件で苦労しているみたい。トレーナー曰く、トゥインクルステージ出場ウマ娘トレーナーでもボクとスズカのトレーナーだけみたい。どうなるんだろう?ボクはトレーナーと離れるのは嫌だよ」
離れる?私とトレーナーさんが?
心にドキンと衝撃が走った
“離れたくない”
“離れて欲しくない”
“そばにいたい"
“そばにいて欲しい”
テイオー「スズカ?」
「…」
私はほとんど衝動で駆けだした
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
スズカがこちらへ走ってきた。どうしたのだろう?
そのまま減速する気配無く俺にぶつかってきた
「(うっ、疲れているのを察しないとは珍しい)」
と思ったがそのはずだった
スズカ「話してください!今、トレーナーさんの身になにが起こっているのかを!」
「(感づかれたか、テイトレ経由で聞いたか)」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「私はトレーナーさんとは離ればなれになってしまうのですか!」
私はトレーナーさんに大きな声でほとんど叫ぶように言った
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
スズカの耳がピンと立っているえらい興奮状態だ
「落ち着け!すぐに離ればなれになるわけではない」
スズカを制しようとするが声に力が入らない
スズカ「でも、いずれ離ればなれになるのですか!?」
「そんなことはごめんだ。だが、理事会のことだ強制契約解除で俺達を無理矢理引き離すかもしれない」
周りのウマ娘やトレーナーが心配そうにこっちを見ている
「スズカ、トレーナー室で話そう。今後のことを」
スズカ「......はい」
楽しげな目じゃない、怒りと戸惑いの目を浮かべている
スズカの肩を抱えながら自室に戻ろうとするが
グラッっと視界が傾く
どうやら体力が限界みたいだ
そのまま倒れてしまった
レーサーは過酷な環境に耐えなければならないのに....情けない
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
スズカ「トレーナーさん!」
トレーナーさんが倒れてしまった
スズカ「トレーナーさん!目を開けてください!誰か!」
私は力の限り叫び助けを呼んだ
テイトレ「どうした!?黒井!」
テイオー「!?ど、どうするの!」
テイトレ「みんな落ち着くんだ!とりあえず、たづなさんを呼んできてくれないかな」
スズカ「た、担架を持ってきましょうか?」
テイトレ「大丈夫。俺が運ぶ」
たづな「どうなされました!?」
テイトレ「スズトレが倒れました。保健室に運びます。レーサーが倒れるんだから…よっぽどのことだぞ」
たづな「は、はい!」
ルドルフ「まずいな。このことが理事会に知られたら」
テイトレ「ルドルフ....」
テイオー「スズカ?大丈夫?」
スズカ「私のせいで倒れてしまった....大丈夫なわけ無いわ……」ウルウル
私は泣き出してしまった
テイトレ「スズカのせいじゃないさ。理事会のやつら...どこまで追い詰めたんだ」
私のせいでトレーナーさんが倒れてしまったのだから
【毎日王冠当日】
私は控え室でうつむいていた
「トレーナーさん。私のことで倒れるまで追い詰められていただなんて」
ガチャ
「トレーナーさ……」
扉が開いて入ってきたのはトレーナーさんではなく植原さんだった
「……」
植原「分かるよ。期待するよな。もしかしたら回復してるって。安心して。あのあと病院へ運ばれて寝てるけど大したことじゃないって」
「そうですか...」
植原「スズカはトレーナーを心配しているんだな。ところで、今日は毎日王冠。芝1800m左だ。スズカ?」
「すみません。落ち着かなくて」
私はレースとトレーナーさんの両方のことが気になって動かずにはいられなかった
植原「分かった。今日のレースはあいつのためにと思って走るんだ。そうすればあいつに元気が戻る」
「私の走りですか?」
植原「ああ。あいつが君に伝えたかどうかは分からないけど、もしレースで負けた場合、あいつは責任を負わされ契約解除される」
「!?」
その一言にハッとした
植原「もし、君を失うことがあったらあいつはもう立ち直れないほどの深い傷を負うことになる。大金持ちの廃人にはなって欲しくない。あいつは俺にとって、友であり、レースでのライバルだからな。レース前にこんな事話してごめんな。大丈夫か?」
「大丈夫です。トレーナーさんを失わないために最高の走りを」
私の目からよどんでいた景色が取り払われた
「トレーナーさんと見たい景色をつかんできます」
植原「ああ。行ってこい!」
地下バ道を通り、ターフに出る
実況「さあ、1番人気のサイレンススズカが出てきました。トレーナーの体調不良が報道されていますが、その目に不安の不の字も感じられません」
解説「なにかあったのか、かなり気合いが入っています」
実況「2番人気はエルコンドルパサー、凱旋門賞に向けての前哨戦です」
解説「気合い十分、好レースが期待出来そうです」
スズカ(トレーナーさん、見ていてください)
エル「(さっきまで元気がなさそうにしてたのに。今はすごい迫力デス!)」
実況「さあ、各ウマ娘ゲートに入り出走準備整いました」
【ゲートが開く】
実況「さあ、勢いよく飛び出していったのはサイレンススズカ!逃げの走りを見せるか!」
【都内病院】
運び込まれてから数時間で目が覚めた俺はラジオから流れてくる実況に耳を傾けていた
「くそ、この体さえまともならそばにいてやれるのに...」
テイオー「まあまあ、命に別状がないだけ良かったよ」
「そうか」
ルドルフ「ところで君の過去を調べさせてもらったんだが....君はまだ若いのに辛い経歴の持ち主だな。5才で両親と死別、里子となるもまたその里親とも死別、レーサーでのクラッシュのショック、スズカとの契約危機.....」
「まあ、しょうがないさ…俺の人生は無理難題から始まっているんだよ。母は俺が生まれた時に死に、父さんはレース中の事故で死んだ」
ルドルフ「とにかく君はひどく疲れているからな。ゆっくり休め。彼女のことは心配するな。私達が全力でサポートする」
「ありがとう、ルドルフ、テイオー」
実況「サイレンススズカ圧勝!独走!2着のエルコンドルパサーに影すら踏ませませんでした!王冠はサイレンススズカの元へ!」
ルドルフ「おめでとうスズカ。トレーナー君、彼女の夢が叶うまで後一勝となったな」
「そうだね...さっさとこのオンボロを治さないと」
ルドルフ「ふふ。そうだね。君達の次の勝利を祈っているよ」
そう言い、皇帝は病室を出た
ピッ ピッ ピッ
誰もいなくなった病室に電子音が響く
「ふぅ、ありがとう植原。スズカのやる気を落とさずに送り出してくれたんだな....感謝する...」
ある日の夢は最悪だった
理事長「本日付でサイレンススズカとの契約を解除する」
「!契約解除のための書類がないじゃないか?」
理事長「君の担当の意向だよ。ではゆっくり休みたまえ」
バカな!スズカ、ダメだ、行かないでくれ、俺をまた孤独にしないで......
「ハッ!」ガバッ
目が覚めると体中汗びっしょりになっていた
「酷い悪夢だったな」
誰もいない静かな病室でそうつぶやいた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【トレセン学園】
毎日王冠から一週間経ってもトレーナーさんから連絡は無かった
競馬ニュースは私のトレーナーさんの体調を心配することと、URAの陰謀に気づいたジャーナリストが私達のことを調べようとしていることをやっている
「うぅ、トレーナーさん。いつになったら戻ってくるのでしょうか」
植原「目は覚めたんだ。すぐ戻ってくるさ。さあ、今日もトレーニングだ」
「はい」
天皇賞まであと一週間だけど全く身に入らない
疲労はいつも以上に感じ、体力も上がった実感がない
このままじゃ天皇賞で負けてしまう
でも、植原さんが言うには十分実力はついているみたいだから気のせいなのかも
「(ダメ、耐えられない。トレーナーさん、早く帰ってきて)」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【病院】
理事長「どうだね調子は」
斉藤は怒りに近い表情で見舞いに来てた
「どうしてそんなに怒っているんですか?」
理事長「とぼけるな。貴様がここに運ばれたことでマスコミに嗅ぎつけられた。貴様が病人でなければ今すぐに飛びかかっていたな」
「じゃあなんでここに来たんですか?ここにいるとマスコミに変な噂を書き立てられますよ」
そう言うと理事長は少しうろたえる素振りを見せた
「どうせスズカのことで来たのでしょう。言っておきます。あなたはもうスズカのトレーナーじゃない...これからは俺がサイレンススズカのトレーナーです」
理事長「ふん、抜かせ、あのウマ娘をアルティメットリーグへ仕立て上げようとしたのがそもそもの間違いだった。あいつがレースで勝っていても捨てることにしていたのだ、まさに渡りに船だった。ひとつ言おう、貴様のような若造にアルティメットリーグの賞金は勿体ない、私みたいに実力で勝ち上がってきたトレーナーだけが手にすることが出来るのだ!」
「レーサーの世界にペイドライバーっていうのがあるんですよ」
理事長「ほう」
「親が金持ちだの、ある企業の社長の息子などが金でシートを買うんですよ...いくら下手くそでも」
理事長「それで?」
「それで、金をチラつかせて俺らを脅すやつがたまにいるんですよ。失礼ながら理事長がそんなペイドライバーにしか見えないなって」
理事長「なんだと...?」
「さらに、あなたのトレーニングメニューは休息なしのオーバーワークと聞きましたが?」
理事長「ウマ娘の体力ならこれぐらいできなくてどうする?素人から一流に育てるにはこうするしかないのだよ。これだから素人は。大人しくレーサーとしてサーキットをぐるぐるまわっていればいい。君なら簡単に勝てるだろう」
「そんな甘い世界じゃない!!」
「あんたみたいにコネやつてで楽して上がってきた人間とは違う!常に競い合い、蹴落とし、実力を持ったものだけが上り詰められる世界だ」
「レースの世界でなぜ俺はリタイアしたのにライセンスが剥奪されていないと思う?それはチームや仲間が戻ってくると信じてるからだ!」
「この世界であんたは理事会の連中からは慕われているが、担当バから信頼されたことはあるか?」
理事長「担当バがトレーナーに従うのは当然だ。なにを言っている」
「従うじゃない、信頼だ」
「俺はお前のようにケガをしたから契約を解除なんてひどいことはしない。苦しみ、悲しみを共に乗り越えてこそ真のトレーナーだと俺は信じる!」
理事長「なら言おう。ここに来たウマ娘はURAの競技者として活躍するがそれは全て我々のおかげなのだと言うことを忘れてはならない。ここの生活も食費も被服費も全てURAが支払っているのだ。だからこそトレーナーはウマ娘達の上に立てる」
理事長「いいかい。やろうと思えば服従のようなことも出来るんだぞ」
「服従させるなんてクズのすることだ」
なんて、奴だ。ウマ娘をただの金を取る対象物としか見ていないのか?
あまりにもショックで言い返す言葉がなかった
理事長「ふふふ、初耳だったようだね。では、契約解除のための書類を帰って作るとしよう。それではさようなら哀れなレーサー君」
???「そうだな。謝罪会見の台本を書かなきゃな」
理事長「な!」
???「ご愁傷さま。あんたの発言全部ここに録音させてもらったぜ?」
病室の入口に1人の男が録音機を持って立っていた
「誰だ?」
渡辺「月刊誌記者の渡辺です。少し取材をしたかったのですが、その必要はありませんでしたね」
理事長「くっ.....」
渡辺「それでは」
理事長の発言は各報道機関に大々的に取り上げられて、理事会はメンバーを総辞職させ新たなメンバーで新生したらしいが、詳しくは知らない
【6日後】
無事退院した俺はトレセンのトレーナー室に戻った
トレーナー室の鍵を開け中に入ると、机にメモが置かれていた
「黒井へ、スズカの予定していた練習プログラムは全て終了させた。あとは彼女のやる気次第。今は最低と言っていいかな。お前がいない事によるさみしさで常に耳がペタんと垂れちゃってる。天皇賞前日せめてレース開始までには会ってくれ。植原」
メモを置き、前を見るとよれた勝負服がハンガーに掛けてあり、シューズも薄汚れていた
「アイロンでもかけてあげようか」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私はトレーナー室に勝負服とシューズを忘れた事に気づいてトレーナー室に取りに行った
「はぁ、レースは目前なのに...やる気が起きないわ...いつになったら....あれ?」
トレーナー室に明かりがついているのに気づいた
「(誰かいるのかしら?)」
植原さん?いや、車がなかったから帰ったはず
で、新聞ではトレーナーさんの体調は回復したって言ってたけど退院したかどうかはわからない
「(でも、もしかしたら?)」
私はかすかな希望を胸に駆け足でトレーナー室へ向かう
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
廊下から駆け足の音が聞こえてきた
「(こんな時間に一体誰だろうか?)」
アイロンをかけてピンとした勝負服をハンガーにかける
「(考えられるとしたら忘れ物か…いや待てよ...)」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私はトレーナー室の前に立ち、中に見慣れた青年の姿を見るとその姿に向かって走り出した
「(トレーナーさん…本当に心配したんですから)」
たった1週間しか会ってないのに何故かとても長い間合ってなかったように感じる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
スズカが部屋の中を見た途端こっちに向かってきた
突っ込まれたので受け止めようとしたが病み上がりで力が入らずそのまま押し倒されてしまう
「いたた」
スズカ「トレーナーさん。心配したんですよ...連絡もなくて...ずっと...」グスッ
「連絡出来ずにごめんな」
スズカ「トレーナーさんがいないとすごく寂しかったんですから...」ウルウル
「本当にごめんね...自分も競技者のくせに体調管理ができていなかったとは…」
スズカ「そばにいてください…、たとえ契約がなくなって、離ればなれにならなくちゃいけなくなったとしても。そうなったら私、もう走れないかもしれません」
スズカは涙を流しながら伝えてきた
ここで俺はある事実を言う
「大丈夫。もう離れることないよ」
スズカ「え?な、なんで?理事会からすごい圧力をかけられていたって聞きましたが...」
「まあ、色々あってね」
スズカ「そうですか...」
「汚い大人の世界の話だ...気にしなくていい」
スズカ「...」
「そろそろどいてくれないかな?背中が冷たくて痛いんだ」
スズカ「わわ!ごめんなさい。私ったらつい」
「いやいいさ」
立ち上がり、ソファーに寝転ぶとスズカが上に乗ってくる
「なんか、積極的だな?どうした?」
スズカ「なんでもないですよ?」
そう言う彼女の尻尾は嬉しそうに振れている
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「(トレーナーさんにはまだ言えないけど、私の心はもうこの感情を抑えきれません)」
「(トレーナーさん………大好きです)」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「(入院中、ずっと頭の片隅にあった想いが膨らんでいた)」
「(“離れないで欲しい””そばにいてほしい”支えてほしい”)」
「(そうか、これが”人を好きになる”ということか)」
「(スズカ……君のことが好きだよ...)」
俺は少し微笑み、スズカの頭に手を置き撫でる
「......」ナデナデ
スズカ「........」ニコニコ,スリスリ
スズカは嬉しそうに目を細め、耳をペタンと垂らし、頬ずりをしてきた
「(かわいいな....レーサーとして復帰して多忙になっても一緒にいる時間を作れるかな?いや、作ろう...)」
スズカ「(来年からはアルティメットリーグに参戦する。今まで以上に大変なことが増えるけどこういう時間を作りたい)」
そう思い、スズカの方に目をやった
そう思い、トレーナーさんの顔を見た
互いに目が合い、二人で笑い合う
スズカ「ふふ」
スズトレ「はは」
二人の想いは今ひとつに
スズトレ(明日はいよいよ天皇賞だ)
スズカ(明日は天皇賞。夢の続きを見たいな)
【翌朝】
いよいよ迎えた天皇賞(秋)
その日の朝トレーナー室で2人は寝ていた
冷たく、固いタイルの上で寝ていた一人の男が目を覚ます
黒井隼斗、去年の同じ日、鈴鹿サーキットでクラッシュし、ボロボロになった身寄りのいない青年
だが今はある1人のウマ娘のトレーナーとして素の自分を取り戻している
彼は起き上がると横のソファーに寝ているウマ娘を見る
サイレンススズカ、昨年の同レースで故障、命に関わる大怪我を負い、トレーナーの捨てられ、走れない絶望と、不信感を抱えた悲しき少女
けど彼女はある1人の青年によって走る楽しさを取り戻した
レースの日だけどすやすやとかわいい寝顔で眠っている
布団代わりにしていた上着を片付ける
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
物音で目が覚め、視界がぼやけているけど誰かいるのかが分かる
「トレー...ナー.....さ....ん?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
紅茶を入れようと、お湯を沸かしたところで寝ぼけた声が聞こえてきた
「お、起きたかな?おはよう。スズカ」
スズカ「あ、おはようございます………もしかして私寝ちゃってましたか」
「うん。ソファーの上でぐっすりと。運ぼうと思ったけど寮はトレーナーは入れないからね」
スズカ「…///」
「かわいかったよ」
スズカ「やめてください//」
紅茶をコップに注ぎスズカに渡した
スズカは顔を赤くしながら紅茶を飲んでいた
支度を整えたあと
「スズカ、準備できた?」
スズカ「はい」
「よし、行こう。府中、東京レース場へ」
【東京レース場】
実況「東京レース場で行われる天皇賞(秋)芝2000m、秋晴れの空、芝は良バ場の発表です」
【控え室】
「スズカ、いよいよだね。状態を確認する。距離は2000m、バ場良好。左回り」
スズカ「はい、逃げて駆け抜けます」フンス
様子を見るにコンディションはばっちりだ
「おう、さて、今日の出走メンバーだが、主なライバルは同じ逃げの策を取ってくるであろうセイウンスカイ、マヤノトップガン、差しのスペシャルウィーク、グラスワンダーなどなど、強豪ぞろいだが、大丈夫だよな?」
スズカ「はい、誰にも影は踏ませません」
「よし、じゃあ、行ってこい!」
スズカ「行ってきます」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【地下バ道】
地下バ道からターフに向かっていると
スペ「スズカさん。いよいよですね」
スペちゃんき声をかけられた
スズカ「ええ。ここまで戻ってこられたわ」
スペ「それじゃあ、行きましょう。スズカさ
ん」
スズカ「ええ」
実況さあ、出てきましたのは一番人気、一番、サイレンススズカ!」
歓声「わああああああああああああああ!」
実況「去年の骨折から一年、今日、再び天皇賞の舞台に戻ってきました!二番人気は、五番、スペシャルウィーク!ジャパンカップへ向けての礎となるか!」
実況「どんなレースを見せてくれるのでしょうか、さあ、各ウマ娘ゲートに入り出走準備が完了しました」
実況[さあ!ゲートが開き一斉に飛び出していきました!先頭はサイレンススズカ!速い!セイウンスカイとマヤノトップガンを置いてもうすでに独走です!]
【観客席】
観客席で俺はテイトレやルドルフ、テイオーとともにレースを見る
「(よし、いいスタートだ。このまま逃げろ!)」
テイトレ「今日までのトレーニングでコーナリングもバッチリ習得したスズカはもう無敵だ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
実況「さあ、1000mを54秒で通過して行きました!2番手との差はなんと10バ身!セイウンスカイ、必死に追っていますが、差は縮まりません!」
実況「さあ、第三コーナー、依然先頭はサイレンススズカ」
解説[もう誰が勝つのかは一目瞭然ですが、このことを残念がる人はいないでしょう!]
「(去年は曲がることなく終わってしまった大ケヤキの第三コーナー…去年はここで大けがをし、絶望の淵に立たされた。けど、あなたに会ってから、私は走る楽しさを去年以上に感じてる。あなたの照らしてくれた光が、私を新しい景色へ導いてくれている!)」
少し目を閉じた瞬間、今日までの思い出が蘇る
“骨折”
“挫折”
“別れ”
“出会い”
“復活”
スペシャルウィーク「スズカさん」
エアグルーヴ「スズカ」
マヤノトップガン「スズカさん」
シンボリルドルフ「スズカ」
トウカイテイオー「スズカ」
みんなが私を呼ぶ
「(みんな……?)」
スズトレ「スズカ」
トレーナーさん
「(見に行かなくちゃ。みんなが待っている、光のその先へ)」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
実況「サイレンススズカ!大ケヤキを越え、最後の直線に入りました!」
テイトレ「行け、走れ!スズカ!」
「スズカ...君というウマ娘は....」
テイオー「あともう少し、頑張れ!」
実況「スタンドは割れんばかりの大歓声!去年見ることの出来なかった光景が、今目の前に広がっています!先頭はサイレンススズカ!その後ろ8バ身差でスペシャルウィーク!上がってきた!セイウンスカイも粘るがどうか!?さあ、栄光まで後200!」
実況「もう追いつけない!誰も追いつけなかったサイレンススズカ!差を9バ身に広げ、多くの人の期待、夢を乗せて今!ゴールイン!」
実況「二着に入ったのはスペシャルウィークだ!差しきってゴールイン!セイウンスカイ惜しくも三着でした!」
実況「東京レース場、言葉では表せない雰囲気に包まれております。奇跡が、奇跡が起きました!昨年の大怪我を超えて一着はサイレンススズカ!」
歓声「わあああああああああ!」
【観客席】
勝った...スズカが...勝った
「……………」ギュッ
テイトレ「やったな。スズカが勝ったぜ。黒井?」
「ああ、やったぞ……」ダッ
テイトレ「あ、おい!」
ルドルフ「引き止める必要は無いよ...」
俺は観客席から地下バ道へ
そして迎えるべきものを迎えるために名前を呼んだ
「スズカ!」
声の先に居た栗毛のウマ娘の耳がピクッと反応し、こっちへと駆けてくる
スズカ「トレーナーさん!」
飛び込んできたその子の目には涙が浮かんでいた
「スズカ…おめでとう。夢が叶ったな」ナデナデ
スズカ「はい!」ギュッ
そう言うと思いっきり抱きついてきた
「本当に、おめでとう」ナデナデ
微笑みながら頭を撫でた
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トレーナーさんに呼ばれ、衝動で抱きついた
困った顔をしているけど鼓動が早くなっているのが分かる
撫でる手も前よりも優しい
「(大好きです」
スズトレ「え?何か言った?」
スズカ「いいえ、なんでもないです」
危ない、危うく言うところだった
今日は私だけじゃなく、みんなにとっても最高のレース
【表彰式】
[一着、サイレンススズカ!]
(文字では表せない大歓声)
スズカ「みんな、ただいま!」
(再び文字では表せない大歓声)
スズカにトロフィーが手渡される
最高のレースをありがとう。そう思った
【ウィニングライブ】
会場はほとんど緑と白のペンライトで包まれている今まで見た中で最高の笑顔で踊るスズカを見て微笑んでいた
すると
テイトレ「次はお前が勝利を見せる番だな」ドンッ
後ろから肩を叩かれた
「いててて、ああ、今日の取材で復帰を表明するつもりだ」
植原(テイトレ)「俺も取材陣に向けて表明するかな。復帰を」
【報道陣からの取材】
記者「今日のレース、おめでとうございます!今のお気持ちは?」
スズカ「とても嬉しいです、トレーナーさんと歩んできた一年間が報われました」
記者「そうですか!黒井さんは?」
「いろいろあった1年の集大成だと思います」
記者「一年でお二人に関してはいろんな事がありましたねえ。さて、今後はどのようなことを?」
スズカ「上位リーグ、アルティメットリーグへ挑戦したいと思います」
記者「そうですか!今後の活躍が楽しみです。黒井さんは....」
「そうですね...スズカのトレーナーを続けようと思いますが....彼女の夢が全て叶った訳ですし…次のドリームグランプリ、確か、鈴鹿サーキットでしたよね…」
この瞬間記者達がざわつく
「そろそろみなさん物足りないでしょう...チームは次戦日本GPからシーズン復帰します」
記者A「黒井さん!今シーズンは強豪揃いのレースシーズンとなっていますがどう思いますか?」
「彼らに言いましょうか、いい気になるのもそこまでだと」
記者B「それは宣戦布告ですね!」
「ええ、今まで勝ってきた彼らが1年のブランクを抱えたドライバーに負けたら恥ですよ...」
記者「一番のライバルは!」
「恐らく復帰を表明するパガーニの植原くんですね」
と質問攻めにあった
【一週間後 鈴鹿サーキット】
久しぶりにサーキットだ...1年ぶりだな....
ピット内で忙しなく動くピットクルー、整備されていくマシン
俺はピット内で眠っているマシンに手を触れる
「今シーズンからよろしくな...相棒...」
本当は今シーズンの初めから参戦する予定だった最新鋭、マクラーレン・セナ
伝説のF1ドライバー、アイルトン・セナの名を冠するハイパーカー、エンジンは4.0LのV8ツインターボハイブリッドエンジンで馬力は純正で800、GTRで825馬力だが、レギュレーションにより200馬力アップの1000馬力となっていて最高速度は推定で360から370キロは出る
無駄なものは全て削ぎ落とされ、全てのパーツが空力を考え作られている
''FORM FOLLOWS FUNCTION''
訳すと「機能に沿ったフォルム」
これはその究極形
まさに最速の機能美だ
「美しい...」
思わずそうこぼす
これなら並み居る強豪にも勝てる
天使の悲鳴と圧倒的なコーナリングを持つウアイラRを投入したパガーニ
昨年まで主力だったFXX-Kに別れを告げ、その発展型であるFXX-K EVOを投入してきたフェラーリ
ふぅ、胸が高鳴る
面白いレースになりそうだ
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始めて入るピットに戸惑いながらもトレーナーさんを見つける
レース用の服?を来て自分が乗る車に手を置いている
「トレーナーさん」
スズトレ「スズカ、どう?初めてのサーキットは」
「色々すごいです。そして、その服、かっこいいですね」
黒を基調とし、肩にはオレンジ色が入った服、胸にはスポンサーのロゴが入ってる
スズトレ「ありがとう、これはレーシングスーツで、これが俺の「勝負服」さ。後は、そこのヘルメットを取ってくれるか?」
「これですか?」
黒色のヘルメットを取りトレーナーさんに手渡そうとすると何か布のようなものを被るトレーナーさん
スズトレ「そうそう....あ、今被ってるのは耐火性の布で車両火災の時、顔を火傷から守るんだ。さらに、ヘルメットにはハーネスが付いていてクラッシュの衝撃から首を守るんだ。これが無いと最悪首を折って死ぬ。まだこの歳で死にたくないし、君を残すことになってしまうのもごめんだから」
最後の言葉に少し顔を赤らめる私
スズトレ「それじゃあ、行ってくるよ」ナデナデ
「...はい。頑張ってください..//」
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実況「さあ、後半戦となりましたドリームグランプリ、鈴鹿サーキットで行われるジャパングランプリ、今年はあのふたりが帰ってきました!」
実況「ポールポジションはマクラーレン。先週復帰を表明し、マシンはマクラーレンセナに変わり、再びレースの地に立ちました、その後ろにはこちらも先週復帰を表明したパガーニが、マシンをウアイラに変えて戻ってきました」
フォーメーションラップが終わり、グリッドにつく
さあ、行くぞ
シグナル点灯、オールレッド
エンジンを最大まで回し、備える
シグナルグリーン!
クラッチリリース!
レーススタート!
実況「さあスタート!マクラーレン飛び出した!パガーニ並ぶ!ランボルギーニ迫る!ケーニグセグスタート失敗か?各車見合ったまま1コーナーへ...」
出だしは順調、だがパガーニが思った以上に速い...
レースは序盤かマクラーレンがリードしていたが、タイヤの消耗が激しく、ペースは落ちていた
実況「さあ、マクラーレンとパガーニ、更にはフェラーリもピットに入ってきました」
タイヤ交換を済ませると、フェラーリがピットから急に飛び出したため止まってしまう
そのせいでパガーニとフェラーリに先を許してしまった
実況「さあ、フェラーリがマクラーレンの前に出ます」
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ピット内では落胆の声が聞こえてくる
けど
クルー「フェラーリのやつら焦ったな?タイヤを交換してないぞ?あれはバーストするかもしれんな...」
「あの...バーストってなんですか?」
クルー「タイヤが消耗に耐えられなくなってパーンって弾けちゃうことを言うんだ」
「そうなんですか」
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「(あのフェラーリ燃料補給だけ済ませたが、タイヤが持たないのでは?」
その予想は的中した
前を走るフェラーリのタイヤが怪しい
次の瞬間....
パーン!!とタイヤが弾け、スピンした
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クルー「危ない!」
「トレーナーさん!」
スピンしたマシンをトレーナーさんは避け、走っていったのを見て安堵する...けど
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後続からドンッ!!と音が聞こえてきた
ステアリングのフラッグランプが黄色になる
バックミラーを見ると何か破片のようなものが散らばっているのが見えた
マーシャルがイエローフラッグとセーフティーカー導入を表すSCの板が
「何があった?」
チーフ「スピンしたフェラーリにランボルギーニが突っ込んでクラッシュだ」
「なんてこった...ドライバーは無事か?」
チーフ「多分...マシンはバラバラになったけどコクピットは大丈夫そうだ...」
実況「さあ、セーフティーカーが入り、続々とピットに入ってきました。パガーニ、トップに立ちます」
【セーフティーカーがピットに入り、再スタート】
実況「今グリーンフラッグ、再スタート!マクラーレンが並びかけてくる!しかし、速い!パガーニ速い!すごい加速!天使の悲鳴を響かせる」
「(く、立ち上がりは互角だが序盤の加速が違う。同じ1000馬力とは思えないな)」
追い抜けないままレースは終盤へ
実況「さあ、ファイナルラップに入りました!
!ホームストレートで並んだ二台、どうなる!パガーニ譲らず守る!」
実況「この2台だけはもう異次元の走り!この勝負に言葉はいらない!」
実況「さあ、スプーンで並んだ。立ち上がりは互角、パガーニ先頭!だがマクラーレンも追いかける!....」
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排気音が近づいてきた
「トレーナーさん....」
負ける、そう思った....けど、
テレビの先には夕靄の中、ライトが2つ、丸いライトと細長いライトが
「...!!」
実況「130R、マクラーレン飛び出した!!S字でアウトから被せて追い抜いた!追い抜いた!マクラーレン先頭!完璧なブロック!最終コーナー抜けてさあ最後の直線!....」
トレーナーさんがオーバーテイクした瞬間、私はピットから飛び出し、フェンスから身を乗り出す
クルー「危ないですよ!!」
クルーさんの注意は耳に入らなかった
トレーナーさんのマシンがヘッドライトを点滅させながら通り過ぎる
中は一瞬しか見えなかったけど、ガッツポーズをしてるように見えた
実況「最後の最後で追い抜いた!まさに勝利への執念!マクラーレン、黒井隼斗、奇跡の復活!!去年の雪辱を果たしました!P1でのクラッシュ、そこからレースを去り、ウマ娘のトレーナーとなってもう戻ってこないと噂されていましたが、1年経って復帰を表明、戻ってきました...」
チーフ「おめでとう。やってくれたな...」
「ああ。言葉が出ないよ。本チームもマシン当にありがとう」
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スズカ「トレーナーさん。おめでとうございます」
私はフェンスからトレーナーさんのマシンを目で追いながらそう言った
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ピットに戻りマシンから降り、ヘルメットを脱ぐ
その瞬間
観客「わあああああああああああ!」
ファンからの歓声が響いた
ファンの中に「おかえり」幕を掲げてる人を見つけると
「ただいま!」
と叫び、ヘルメットを突き上げた
すると一人の少女がこっちに向かってきた
誰かは、言うまでも無い
スズカ「トレーナーさん!」
声の方向に向き腕を広げる
胸に飛び込んでくるスズカを迎えるために
スズカ「トレーナーさん!おめでとうございます!奇跡の復活ですね」ギュ
「スズカのおかげだ。ありがとうな」ナデナデ
そう言ってスズカの頭を撫でる
スズカ「ふふ、みんなが見てますよ?」ホッペスリスリ
「別にいいさ、喜びを担当と分かちあって、悪いか?」
スズカ「いいえ」ウルッ
そういうスズカの顔は泣いている
植原「コホン、お二人さん、喜び会うのはいいんだけど、インタビュアー待ってるぞ?」
「え?ああ、すぐ行く、ということで少し待ってて」
スズカから離れてインタビュアーに向かう
「お待たせしました」
記者「お似合いですね」
「いや〜どうも」
記者「とにかく、まずは優勝おめでとうございます」
「ありがとうございます」
記者「今日のレースをふりかえっていかがでしたか?」
「そうですね、久しぶりのレースで、ライバルマシンも新しくなってて、先頭を走っていても安心はなかったですね、常に背後から何かを感じてましたね。」
記者「あのフェラーリのトラブルの時どんな心境でしたか?」
「まず避けきれなかったら恐らくクラッシュか、完走しても下位だったと思いますし、避けられてホッとしましたね」
記者「そうでしたか。最後にファンの方々になにか...」
「まずは、皆さんご迷惑をお掛けしましたことごめんなさい。クラッシュなんてレースではつきものなのに、レースから離れ、ウマ娘のトレーナーになって、で倒れて、本当にお騒がせしました。でも、そのおかげで、また走ることの楽しさ、喜びを見つけることが出来ました、そこに立っているウマ娘、知ってる人も多いと思いますが、サイレンススズカです。彼女はいつもレースの時楽しそうに走ってました。彼女の担当になって1年過ごし、彼女のおかげで、また走ろうと思えたわけです。さらに、皆さんが寄せてくださった手紙も読ませていただき、レースから去ったのに応援してくれたファンの皆さんには本当に頭が上がりません。スズカ、そしてファンの皆さん...ありがとう!!以上、ありがとうございました」
拍手が響き渡る
記者「ありがとうございました」
表彰式が始まり、ポディウムの頂点に立つ
ああ、久しぶりの頂点
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トレーナーさんが出てきて真ん中に立つ。その姿は夕日に照らされて輝いて見えて、とてもかっこよく見える
トレーナーさんがトロフィーを受け取り、天へと突き上げる!奇跡を起こした神に感謝するように
国家が流れ、シャンパンファイトに
2位と3位の人から集中砲火の祝福を受けるトレーナーさんは笑っていた
【レース後 ピット内】
スズカ「おかえりなさい」
ピットに戻るとそうスズカは言った
「...ただいま」
今まで誰にも言われること無かった言葉だ
スズカ「?大丈夫ですか?」
「....大丈夫だよ」
と微笑む
そして整備を受けているセナの元に行く
「初めてのレースがこんなのになるとは...今後が楽しみだ」
【学園に戻る新幹線の車内】
スズカ「優勝おめでとうございます」
「ありがとう」
スズカ「これからはトレーナーさんも忙しくなりますね」
「そうだね。それにしても疲れたな」
スズカ「そうですね」
スズカがこちらに身を寄せてくる
「お?」
スズカ「私も、レースを見てたら疲れちゃいました。このままでいいですか?」
「いいよ」ナデナデ
お互い身を寄せ、東京に戻った
【学園に帰り翌日】
スズカ「トレーナーさん。学園の前で写真を撮りませんか?」
「いいけど、どうして?」
スズカ「だって、お互い勝ったんですから、写真を記念に...」
「わかった」
スズカ「盾を取ってきますから、トレーナーさんはトロフィーを持ってきてください」
「分かった」
と言って、お互いに勝利の証を取りに行った
トレーナー室で輝くトロフィーを手に取る
その重みは勝利の重みだ
トロフィーを取りトレーナー室を出たところで声をかけられた
渡辺「どうしたんですか?トロフィーを持ち出して?」
「え?ああどうも渡辺さん。写真ですよ。スズカと学園の前で」
渡辺「よろしければ私に撮らせてくれないでしょうか?」
「いいですよ」
渡辺「ありがとうございます。お二人には月刊スポーツ誌の誌面を飾ってもらおうと思ってね」
「そうなんですか。では、ついてきてください」
【校門前】
お互いの勝負服に身を包み、勝利の証を持って並ぶ
渡辺「もう少しトロフィーを前に...」
「こ、こうですか?」
渡辺「はい。そのままお願いします」
スズカと写真を撮るために並ぶ
渡辺「それでは撮りますよ」
シャッターが切られた
渡辺「とてもいい写真が撮れました、2人ともありがとうございます」
「いえいえこちらこそありがとうございました」
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スズカのトゥィンクルステージは終わったけど、ここからはアルティメットリーグ
強豪がそろう、究極のリーグ
トレーナーさんのレーサー復帰は果たした
これからはドリームグランプリで世界各国のサーキットをまわる世界トップクラスの年間レースを走ることになる
スズトレ「目指すは目標としていた父さんに背中を追い越す」
スズカ「目標はまだ見ぬ景色を目指して走り続けること」
二人のレースはまだまだ続く
発行された月刊トゥインクル特別号の表紙は2人が並んでいる写真で、タイトルはこう書かれていた
「ひとつの絆とふたつの奇跡。サイレンススズカと黒井トレーナー」
ウマ娘 サイレントレーサー 完
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