アヤベさんがカピ〇ラさんでもふもふするお話です。
本当はRTTTの直後とかに投稿しようと思ってたんですけど全然間に合いませんでした。

※キャラ崩壊、解釈違いなどを含んでいる可能性がありますので閲覧の際はご了承ください

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アヤベさんとカピ〇ラさん

「ねえトレーナー」

 

「ん? なんだ?」

 

放課後、トレーニングが終わった夕方のトレセン学園。ウマ娘たちのトレーニングを終えて校舎に戻ろうとした俺に、アヤベさんことアドマイヤベガが声をかけてきた。

彼女は俺の担当ウマ娘なので、話しかけてくること自体はなんらおかしなことではない。だが、普段の彼女はめったに自分から会話を振ったりしない、孤高とも言える性格だ。

珍しいな、と思いながらアヤベさんをよく見ると、どうも少し変な様子だった。

きょろきょろと視線を動かし、辺りを確認するような素振りを見せている。まるで会話を聞かれることを嫌がっているかのようだ。

一体なんだと若干身構えていると、アヤベさんは話を切り出した。

 

「この前してた話のことなんだけど……」

 

「この前の話? えっと、俺が布団乾燥機買ったってやつ?」

 

「そう、それ。本当なの?」

 

「いや、本当だって、何度も言ったじゃんか」

 

ウマ娘とそのトレーナーのする話にしてはだいぶマニアックな話題。人によってはやや引かれるかもしれないが、これはアヤベさんの趣味の話だ。

アヤベさんの言う通り、俺はつい先日布団乾燥機を購入した。それも結構いいやつを。

もともと個人的に気になっていたのだが、様々な理由からなかなか手を出すには至らなかった布団乾燥機。なにもなければ俺は迷ったまま購入はしなかったかもしれない。

しかしアヤベさんの担当トレーナーとなって交流を深めていくうちに、度重なる布団乾燥機は良いぞアピールに激推しされることとなった。意外と言うべきか、彼女は布団乾燥機のヘビーユーザーだったのだ。

俺が布団乾燥機に興味があると知ってからは、アピールはさらに加速。根負け、という訳でもないが、ついに俺は思い切ってやや高めの最新式を買ったのだ。

そして勧めてくれたアヤベさん本人にも購入した旨を話したのだが、その時は『ふーん、そうなの』ぐらいの軽い反応だった。てっきりそこまで気にしていないのかと思っていたが、今日こうして話しかけてきたところを見ると、そうではなかったらしい。

 

「あなた冗談言ったりするから」

 

「確かに冗談は言うけど、そんな変な冗談は言わないって。ちゃんと布団に使ってるよ」

 

「そう、ならいいのだけど」

 

と、話題を振ってきた割にはかなりあっさりとした反応。

アヤベさんのことをよく知らない者なら、ここで会話は終わったかもしれない。だが、俺はこれでも担当トレーナー。普通では気付けない異変に気付いた。

やっぱりなんだかアヤベさんの様子がおかしいのだ。

先程から変わらずどこかそわそわと落ち着かない感じだし、視線が妙にブレているし、普段とは違い何かを躊躇っているかのような雰囲気がある。一見すると普段通りクールを装っているが、俺にはわかる。

 

(あ~、たぶん気になってんだろうな、乾燥機が)

 

思い返してみればここ最近のアヤベさんはトレーニングに集中しきれてないように見えた。

そこまで深刻でもないし、レースも先だからとあまり気にしていなかったが、明確に原因があるなら話は別だ。期待には応えてあげるべきだろう。

 

「そんなに気になる? 俺の布団乾燥機」

 

「べ、別にそんな! 私だって持ってるんだから」

 

「でもわざわざ練習後に聞いてくるってことはそういうことなんじゃないの?」

 

「それは…………」

 

それなりに長い時間を共にしてきているので、俺もアヤベさんのことはなんとなくわかっているつもりだ。

アヤベさんはその性格上、他人と積極的に関わるタイプではない。誰かに詮索されることも、逆に誰かを詮索することも好きではない。

だが自分の興味関心のド直球の事柄となれば、いくらアヤベさんと言えど気になるものは気になるのだろう。

というかわざわざオススメしてきていたぐらいだから興味がないわけないのだ。どんな性能なのか、使い勝手の良し悪しはどうなのか、使った後の布団はどんな感じなのか、きっと気になっているに違いない。

しかし普段の態度を考えるとそんなことを聞くのは……といったところだろう。

ならばこちらから適度にアシストしてあげるのが吉だ。

 

「そんな気になるなら見に来る?」

 

「なっ!」

 

「そんなに驚くことでもないでしょ。まあ抵抗あるなら無理にとは言わないけど、気になりすぎで練習に身が入らないよりはいいんじゃないかって思ってね」

 

「…………」

 

アヤベさんはしばらく何か葛藤するようにあれこれと思考を巡らせていたが、やがて意を決したのか口を開いた。

 

「それじゃあ……お言葉に甘えて…………」

 

と、いうことでアヤベさんが俺の家に訪れることになった。

 

 

 

 

 

しばらく後、俺の自宅。

 

 

 

 

 

「な、なにこれ…………」

 

「あー……それはね……その……」

 

俺の布団乾燥機がどんなものか気になっていたアヤベさんを待ち受けていたのは、実に衝撃的な光景だった。

 

「だ、だってあなた、学園じゃそんな素振りは一切……」

 

「いやまあねぇ……こういうのあんまり他人には見せられないというか……」

 

実は俺、アヤベさんを誘った時点で、自室に問題があることを完全に忘れていた。

別に部屋が汚いとかそんなことではない。むしろ一人暮らしの男性としてはなかなか善戦している方ではあると思う。

ただ、あまり見せたくない秘密のものが大量に置いてあったのを忘れていたのだ。

俺がそれを思い出したのはアヤベさんを家へと上げた後。玄関で靴を脱いで自室へのドアノブへと手を掛けた瞬間だったので、誤魔化そうにも手遅れだった。

 

「なんてことなの……まさかあなたがそんな人だったなんて……」

 

「うっ…………まあ、そりゃあそうだよな…………」

 

俺の部屋の秘密。それは今まで他人に見せることを意図的に控えてきたとあるコレクションの存在だ。

これは今までの担当ウマ娘はおろか、同僚にもほとんど教えることのなかった俺のトップシークレット。大っぴらに見せれるようなものではない。

最近は隠すのが当たり前、もとい無意識にやることとして日常化してしまっていたので、直前まで完全に忘れてしまっていた。

それが今アヤベさんの目の前に晒されてしまっている。

 

「やっぱり気持ち悪いよな、男がこういうの…………」

 

「そ、そんなことはないと思うわ! 別に好きなものは人それぞれというか、なんというか…………」

 

とは言っているものの、アヤベさんもかなり困惑しているようだ。

本当はこんなものを見せるべきではなかったのかもしれない。これは俺とアヤベさんの今後の関係に大きな爪痕を残すだろう。

なにせ

 

「カピ〇ラさんがこんなにあるなんて…………!」

 

「マジマジ見られるとやっぱ恥ずかしいな……」

 

アヤベさんが目撃したのは俺の自室を埋め尽くさんばかりの大量のカピ〇ラさんのぬいぐるみだったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、アヤベさんは俺のカピ〇ラさんコレクションの中に埋もれていた。

 

「っ~~~~!」

 

もはや俺の目も気にならないのか、声にならない声を上げながら全身でカピ〇ラさんのもふもふとふわふわを堪能している。

俺自身もなんだか複雑な感情だ。

 

「あー、匂いとか大丈夫か? 臭くない?」

 

「お日様の匂いがするぅ~」

 

「そ、それはよかった……」

 

「うみゅぅ…………」

 

「えぇ…………」

 

あまりのもふもふに心を持って行かれているのか、普段絶対に見せることのない緩み切った表情をするアヤベさん。トレーナーとしては担当ウマ娘が喜んでくれているのだから嬉しいが、どう反応していいかわからない。

匂い方面が心配ではあったが、とりあえず大丈夫なようだ。日頃からしっかりと干したりスプレー消臭剤なんかを使用しているおかげだろうか。

自分の体臭というのは案外気付かないものなので、ある意味では一安心なのだが、この状況自体は全く安心できない。

 

「ああ……ここが極楽なのね……幸せ…………」

 

(アヤベさんもこんなんなるんだな…………)

 

アヤベさんの反応には驚いたものの、ここまで夢中になってくれているというのは結構嬉しい。

自慢ではないが、俺のカピ〇ラさんコレクションはかなりの数だ。手のひらに乗る小さいものから、等身大よりでかいビッグサイズのぬいぐるみまで、ありとあらゆるサイズのカピ〇ラさんのグッズが揃っている。

更には前述の通りもふもふのケアにはそれなりに気を使っているし、最近では購入した布団乾燥機も応用しているのでますますふわふわだ。

そんなふわっふわのぬいぐるみの山が目の前にあったら、例えぬいぐるみ好きでなくとも思わずダイブしてしまうことだろう。ましてや無類のふわふわ好きのアヤベさんであればふにゃふにゃしてしまうのは仕方ないことなのかもしれない。

だがなんと言うべきか、普段クールでどちらかというと近寄りがたいぐらいの雰囲気を放っているアヤベさんがここまでほぐれているのはかなりの違和感がある。

 

(なんだったらこのまま寝そうだしな……)

 

トレーニング後の疲労もあるだろう。アヤベさんは既にリラックスして瞼が落ちそうになっている。

だが流石にここで寝られるわけにはいかない。寮の門限もあるし、俺の寝る場所が無くなってしまうのは困る。そして何よりも社会的にまずい。

 

「お、おーい。寝たりはするなよ? またいつでも来ていいから、今日のところはとりあえず……」

 

「なんで」

 

「へ?」

 

「なんで今まで教えてくれなかったの?」

 

「え…………これのこと? このカピ〇ラさんたち?」

 

「そうよ。なんで教えてくれなかったの」

 

「いや、なんでと言われても…………」

 

非常に答えづらい。強いて答えるのなら『聞かれなかったから』としか言えない。

 

「私がふわふわしたものが好きなのは知っているでしょう?」

 

「まあ、知ってはいたけど…………基本的には隠してたみたいだし……あんまり触れるべきじゃないのかなぁと」

 

「でも知っていたのよね?」

 

「うん、まあ…………」

 

「だったらもっと早く教えてくれれば、私はもっと早くのこのふわふわを享受できたのに!」

 

「えぇ……そこまで言う……?」

 

なんだか変なスイッチが入っているようだ。普段のアヤベさんなら絶対にこんな理不尽なことは言わないはずだ。

きっとふわふわに囲まれすぎてテンションが上がっているとかそんな感じなのだろう。

とりあえずは正直に、そして無難に返しておこう。

 

「実は、そもそも秘密にしてるんだよ、このぬいぐるみとか」

 

「秘密? なんで?」

 

「同性にウケが良くないんだよ。女性ならまだまあ面白がってくれたりするんだけど、男はみんな気持ち悪がるからな」

 

「そんな……こんなにふわふわなのに…………」

 

「それは俺も思う」

 

俺がこういったぬいぐるみ等に目覚めたのはまだ小学校に入る前。友達の家に行った際に、その友達の姉の持っていたとあるぬいぐるみを触らせてもらったことがあったのだ。

そのふわふわの触り心地ときたら、俺の人格に大きな影響を与えるほどの衝撃だった。いや、実際にはもちろん柔らかかったので物理的な衝撃なんて微塵も感じていないのだが、とにかくその時俺の中でぬいぐるみなどもふもふやふわふわへの愛が目覚めたのだ。

そして気が付けばいつの間にかカピ〇ラさんにドはまりし、カピ〇ラさんを集めたりするのが趣味のようになっていった。

しかし、残念ながら子供でもカピ〇ラさんを好く男子は少数派。からかわれたりするのは当たり前だった。

 

「男に明かしていいことなんてほぼないからね。だから今でも隠してるというか、変に言わないようにしてるんだ」

 

「そう……だったの」

 

「ま、アヤベさんにこんな気に入ってもらえるんだったら、確かにもっと早く教えても良かったかもな」

 

なんだか正直に話したせいで意図せず雰囲気が暗くなってしまった。

これはいけないと、慌てて言葉を重ねてリカバリーを図る。

 

「アヤベさんはぬいぐるみとか買わないの?」

 

「実家にいた頃は何個かあったわ。けど今は寮だから」

 

「それもそっか」

 

「同室がカレンさんだから……その、あまり置いたりも躊躇われるというか……」

 

「ああなるほどね、確かにいろいろ話のタネにされそうだね」

 

アヤベさんの同室は、大人気ウマスタグラマーCurrenことカレンチャン。きっと彼女なら、アヤベさんがぬいぐるみを買った瞬間にとんでもない勢いで食いつくだろう。ツーショットからのウマスタ投稿は想像に難くない。

 

「それにしてもこの大きな子はいいわね……凄いふわふわだわ…………」

 

「その子? 一番でっかいやつだからね」

 

「この重量感……本当に凄いわ……」

 

「気に入ってもらえたようで何よりだよ」

 

「こっちの子は……凄い派手ね、なんで紫色なの?」

 

「リーゼントくんだね。不良に憧れて自分の毛をラベンダーで染めてるんだよ」

 

「そうなの……カピ〇ラさんの世界観にもそういう子がいるのね。こっちの子は?」

 

「ひだまりさんだね。凄い爽やかな性格だよ」

 

「こっちは?」

 

「ベージュさんだね。都会帰りで紳士なカピバラだよ」

 

「この白い子は?」

 

「ホワイトさんだね。美容に気を使って苦い草を食べたりしてる子だよ。ダイエットするけど結局ごはん食べちゃうっていうのがお決まりの流れだね」

 

「なんて言うか意外だわ、そんなに詳しいなんて」

 

「まあ、好きだからね」

 

他にも登場人物、もとい様々な登場カピバラがいたりする。皆個性があって可愛いし面白い。

ちなみに世界観的にカピ〇ラさん以外の動物も登場するのだが、俺が好きなのはあくまでカピ〇ラさんなので、他の動物のぬいぐるみはあまり持っていない。

というか流れで解説みたいなことをしているが、アヤベさんの本来の目的はカピ〇ラさんではなく布団乾燥機だ。寮の門限もあることだし、ずっともふもふしてもらうわけにもいかない

 

「えっと……布団乾燥機は良いの? 本来の目的はそっちだったと思うんだけど……」

 

「っ! そ、そうだったわね……」

 

本来の目的を思い出したのか、名残惜しそうにカピ〇ラさんから離れるアヤベさん。

 

「そ、それで? 布団乾燥機は?」

 

「ああ、これだよ」

 

「なるほど……」

 

俺が布団乾燥機を差し出すと、アヤベさんは興味深そうに眺め始める。

流石に詳しいだけのことはありそうで、スイッチだったり表示計だったりを確認してはふむふむと頷いている。

 

「結構いいの買ったのね。ちょっと意外だわ」

 

「どうせ買うなら長く使いたかったし、それなりにはね」

 

「このタイプでこのメーカーだと……大体2万くらいかしら」

 

「な、なんでわかったんだ!?」

 

「それなりにいろいろと見てるから」

 

「流石だな…………」

 

まさか値段まで正確に当ててくるとは思わなかった。流石布団乾燥機ガチ勢といったところだろう。

 

「それで? これを使ったお布団はどこ?」

 

「え、いや……布団?」

 

「そうよ、まさかこの私が布団乾燥機を見るためだけに来たと思ってるの? 布団がどれぐらいふわふわになるのか、当然に気になるに決まってるでしょう?」

 

「……そ、そうか…………」

 

なんだかやはりアヤベさんのテンションが高い気がする。

ふわふわでリラックスしていたはずなのに、妙に迫力があって逆らい難い。

何でこんなことになっているのだろうと思いながらも、俺はカピ〇ラさんの群れの中から布団を引っ張りだす。

 

「すごいところに埋まってたのね」

 

「あーうん、大体朝布団から抜け出すとカピ〇ラさんたちが乗っかったままだからな」

 

「寝るときは重くないの?」

 

「重いとは思うけど、もう随分と長いこと乗せて寝てるから慣れたね。結構安眠できるよ」

 

「ふーん、そうなのね」

 

「で、どうすればいい? 今から乾燥機使ってみろってこと?」

 

「ええ。時間的にも間に合うと思うから、一回布団に使ってみて欲しいの」

 

「でも、結構ギリギリじゃないか?」

 

「大丈夫よ。さあ早く」

 

「お、おう…………」

 

有無を言わせぬ迫力があったので、思わずうなずいてしまった。

さっそく布団と乾燥機をセットし、スイッチを入れる。

 

「これでよしと。じゃあ終わるまでの時間暇だし、なんかお菓子でも……」

 

と、俺が言いかけて振り返った時には既にアヤベさんはカピ〇ラさんへとダイブしていた。

あまりにも見事な飛び込みっぷりに、数秒固まる俺。しかもアヤベさんはぬいぐるみに対して愛情のある体重のかけ方をしていた。

普通の人がぬいぐるみの柔らかさを目の当たりにすると、何も考えずに体重を預けてしまうことが多い。しかしそれでは中の綿に過剰な圧力がかかりつぶれてしまう。

しかしアヤベさんはそこのところを完全に把握し、カピ〇ラさんがつぶれないように体重の分散を行いながら全力でもふもふしてふわふわを享受している。

ぬいぐるみの扱いに関しては完全にプロレベルだ。

 

「はぁ……ふわふわだわ…………」

 

「さっきまで布団に執着してると思ったら、凄い変わり身の早さだな」

 

「何よ、悪い?」

 

「いや、悪かないけどさ……」

 

「ならもう少しもふもふさせて頂戴」

 

「うん、まあ、全然構わないけど…………」

 

なんだろう、果たして俺の目の前にいるアヤベさんは、本当にアヤベさんなのだろうか。

 

(ま、それだけ好きってことなんだろうな)

 

普段は群れず、一人孤高の存在としてトレーニングやレースに打ち込んでいるアヤベさん。そんな彼女が一番心安らげる瞬間が、ふわふわに触れている時なのだろう。

であれば俺は変に邪魔せず、好きに堪能させてあげるべきだ。

 

(しかしどうしたもんかな、間が持たん……)

 

アヤベさんは一人で楽しんでいるし、俺は俺で特に会話したがりというわけでもないので、無理に話す必要はない。

が、なんだか落ち着かないのだ。

今いるこの部屋は俺の自室であり寝室。普段誰も入れることがないので、とにかく違和感が凄い。

勿論マイナス的な感情というわけではなく、本当にただ変な感じがするというだけだが、できればこのもやもやした感じは解消しておきたい。

 

(こういうところで上手い事会話を広げられたほうがいいよな……?)

 

担当ウマ娘とのコミュニケーションなのだから、出来るに越したことはないはずだ。

が、俺はただのトレーナー。レースに関係することだったらまだしも、今現在ふわふわもふもふ堪能中のアヤベさんにちょうどいい話題など持ち合わせていない。せっかくアヤベさんがここまでリラックスしてるというのに、レース関連の真面目な話をするというのもお門違いだ。

加えてアヤベさんはストイックでプライベートを明かすような性格でもない。共通の話題とか、流行りのあれこれとか、丁度いい感じの話題は思いつかない。

つまり、会話の種がない。非常に残念ではあるが、ここは諦めざるを得ないかもしれない。

 

(あ、待てよ?)

 

と、そこに一筋の希望が。

そうだ、話題なら今まさに丁度アヤベさんが堪能しているではないか。カピ〇ラさんについてであれば、アヤベさんも興味を持ってくれるに違いない。

先程も興味深そうにキャラクターの説明を聞いていたし、この際ストーリーとか他のキャラとかについて説明してあげようではないか。

 

「あ、そうだアヤベさん。アヤベさんはカピ〇ラさんの話とかって……」

 

早速思い立った俺は、そのままアヤベさんにカピ〇ラさんについて語らんとした。

しかし、予想外の光景が俺の目に飛び込んできた。

 

「zzz…………」

 

「あー…………、アヤベさん?」

 

「zzz…………」

 

気が付くと、アヤベさんは静かに寝息をたてていた。どうやら俺が会話に迷っている間に寝てしまったらしい。

少し覗き込むようにして顔を確認すると、静かに寝息を立て、穏やかな表情で完全に眠っている。

 

「マジかよ……どうすっか…………」

 

ここで寝られてしまうのは結構困る。

普通に起こそうかとも思ったが、先程までののめりこみ方を見ていると起こすのはなんだかしのびない。

好きなものに包まれて癒しのひと時。俺だったら邪魔されたくはないし、アヤベさんもきっとそうだろう。

 

「んー、でもかといってこのままにしとくわけにもいかないからなぁ……」

 

どうあっても俺の部屋でこのまま寝てもらうということはできない。外泊申請などしてないだろうし、トレーナーの部屋にウマ娘が泊まるなんてことはやっぱり問題だ。

 

「あ、そうだ」

 

そこであることを思いついた俺は、スマホを取り出してとあるウマ娘に連絡を取った。どうやらすぐに来てくれるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ~! 凄いじゃないですか~!」

 

「す、凄いですぅ……ぬいぐるみがこんなにたくさん…………」

 

数分後俺の家までやってきたのはカレンチャンとメイショウドトウ。

カレンチャンはアヤベさんの同室であり、メイショウドトウもアヤベさんとは交流があり、比較的仲も良い。

この二人を選んだのはアヤベさんのイメージに配慮してのことだ。二人ともアヤベさんのふわふわ趣味も、俺のカピ〇ラさんコレクションのことを秘密にしてくれるだろう。

 

「トレーナーさんにこんな趣味があったなんて……カレン全然知りませんでした!」

 

「うんまあ、一応秘密にしてるからね。っておい? なんで写真撮ってるの? ちょっと?」

 

「素晴らしいコレクションなので、ぜひ写真に収めたいなと」

 

「頼むからウマスタとかには投稿しないでくれよ……?」

 

「わかってますって!」

 

そう言って笑顔で微笑むカレンチャンの本心は読めない。相変わらず恐ろしい子だ。

続いてカレンチャンはアヤベさんの寝顔も撮影。同室だからいつでも撮れるものかと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。

 

「アヤベさんガード固いんですよ~。しかもこんな穏やかな表情してること滅多にないんです! なのでこの機会は貴重ですよ!」

 

と、非常に張り切っている。

カレンチャンに撮ってもらえるとなれば写真のクオリティは間違いないだろうが、寝顔を撮影というのはいかがなものだろうか。

止めるべきか迷いはしたが、同室の仲を信じることに。カレンチャンも良識はある方だし、間違ってもラインを超えるようなことはしないはずだ。

しばらくして撮影が完了すると、二人はアヤベさんを運び出す準備を始める。

 

「それじゃあ二人とも、よろしく頼むよ」

 

「それはいいんですけど、本当にこのぬいぐるみごと連れて行っちゃっていいんですか?」

 

アヤベさんは現在特大サイズのカピ〇ラさんに身体を預ける形で眠っている。そして俺はそのカピ〇ラさんごとアヤベさんを寮に運ぶよう頼んだのだ。

カレンチャンたちからすれば、本人だけ連れて帰るのではない、というところは疑問だろう。

 

「うーん、まあ正直一番おっきい子だからちょっと名残惜しいというか、抵抗がないわけじゃないよ。けど、アヤベさんめちゃくちゃ喜んでたからさ。それに、ここまでリラックスしてる姿を見ることもなかなかないしね」

 

「なるほど、確かにそうですね!」

 

カレンチャンは納得してくれたようだ。メイショウドトウはというと、細かい事情を理解しきれていないのか少し困惑しているようだが、雰囲気を読んでくれたのか特に何も言わなかった。

 

「それじゃ、よろしく頼むよ」

 

「はーい!」

 

「はいぃ~。が、頑張りますぅ~」

 

そうして、アヤベさんは二人に運ばれていった。

途中揺れで起きないかとか、そもそも特大ぬいぐるみごと運んでいたら周囲から注目されるだろうとか、もろもろの不安はあったのだが、その辺はカレンチャンの力でなんとかなった。

曰く、運び方に気を付ければほとんど揺れないし、今の門限ギリギリの時間帯なら暗いからルートを考えれば一目につかないとのこと。

後はドトウのドジっ子が発動しないかぐらいだったが、変に焦る必要もないし大丈夫そうだ。

 

「さーて、なんて言われるかなぁ……」

 

明日は間違いなく怒られるだろう。

そんなことを考えつつも面白がっている俺は、二人が見えなくなるまで見送り、自室へと戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

そして次の日。

 

 

 

 

 

「なんてことをしてくれたの!」

 

「お、おう、すまんな」

 

案の定、ものっ凄い形相でアヤベさんに詰め寄られ怒られた。

後からカレンチャンに話を聞いたが、やはり目覚めたアヤベさんはかなり混乱していたらしい。年一レベルで取り乱していたそうだ。

アヤベさんからすれば俺の部屋でうっかり眠ってしまったと思ったら、いつの間にかカピ〇ラさんのぬいぐるみごと寮に移動していたのだから、驚くのは当然だ。そしてすぐに運ばれてきたのであろうことを察し、その原因が俺であることも理解したのだ。

そりゃあ、ぬいぐるみに乗ったまま運ばれたら怒るだろう。俺だってわかってはいた。

けど、好奇心には勝てなかった。

 

「なんで! なんであんなことしたの!」

 

「そりゃあ寝ちゃったアヤベさんを起こすのがしのびなくてだな」

 

「だからって! もっと色々やりようがあったじゃない!」

 

「まあ、半分ぐらい面白がったのは認めるよ」

 

「もう!!! ふざけないで!!!」

 

「ははは」

 

「はははじゃないわよ!!!」

 

これは凄いことだ。アヤベさんがここまで感情を露わにしているのは見たことが無い。接戦の末G1レースに勝った時だってもう少し大人しかったはずだ。

担当ウマ娘の新たな一面が見れて、俺としては大満足。

だが、いかに面白いからと言ってこのまま俺が謝りもせずにヘラヘラするだけでは良くない。

なので、俺なりの謝罪の気持ちを込めてある提案をしてみた。

 

「ごめんごめん、悪かったって」

 

「簡単に許すと思わないで!」

 

「ほんの出来心だったんだよ、ごめんて。お詫びにあのカピ〇ラさん好きにしていいからさ、ね?」

 

「!!」

 

瞬間、フリーズするアヤベさん。

驚きで目を見開いたまま、まさに時が止まったかのように微動だにしない。

きっと頭の中で昨日のカピ〇ラさんのふわふわが想起されているに違いない。その気持ちはめちゃくちゃわかる。

俺に恥ずかしいことをされたから許せないという怒りの感情と、自分の好きなふわふわに思いっきりのめり込みたいという願望。その二つがせめぎ合っているのだろう。

 

(堕ちたかなぁ…………)

 

いや、流石に堕ちたというのは早計だったかもしれないが、見ている限りでは八割がた心が動いたのを感じた。

やがてしばらくすると意識を取り戻したのか、アヤベさんが口を開いた。

 

「そ、そんなことで……許すと…………」

 

「これでも反省してるんだよ。俺がどれくらいカピ〇ラさんが好きかは見ただろ?」

 

「そ、それが……なによ」

 

「その中でも一番大きくて、俺の気に入ってる子を好きにしていいっていう提案が、どのぐらいの意味を持つかはわかるだろ? それぐらい反省してるってことなんだよ」

 

「………………」

 

ちなみにこれは嘘ではなく本心だ。

今まで俺はいくら仲が良くてもカピ〇ラさんのコレクションを他人に貸したり渡したりしたことはない。

アヤベさんだから、同じくふわふわを愛する同士であるからこそ、最大限の誠意としてここまで提示しているのだ。

 

「それに、俺のコレクションは秘密って言ってただろ? でも昨日はその秘密をカレンチャンたちに明かしてまでアヤベさんを運んでもらったんだ。ただの嫌がらせじゃないことはわかってくれるだろ?」

 

「そ、そう…………」

 

複雑な感情が渦巻いているのか、なにやらもじもじしながら視線を逸らすアヤベさん。

あれこれ考えているのか視線があちこち行ったり来たりしていたが、やがて決心したのか口を開いた。

 

「わ、わかったわ……」

 

「お? てことは?」

 

「でも、今回だけだから! 次変な事したらそれなりの対応をするから!」

 

若干顔を赤らめながら恥ずかしそうにはしているが、やはりカピ〇ラさんの誘惑には勝てなかったようだ。

 

「安心してくれって、もうこんなことしないよ。ちなみに、興味本位で聞くんだけど、それなりの対応って具体的にはどんなこと?」

 

「そうね、理事長に報告したり、私の記事をよく書いてくれている知り合いのライターさんに告発としてネタを提供するとか、かしら」

 

「絶対に二度としません!!!」

 

報復が恐ろしすぎである。そんなことされたら例え俺が悪くなかったとしても社会的に抹殺されてしまうだろう。

元よりするつもりなど微塵も無かったが、これは改めて心に刻みつけなければなるまい。

 

 

 

 

こうして、布団乾燥機から始まった俺とアヤベさんのちょっとした騒動は幕を閉じた。

この後レースのお祝いにアヤベさんに直接カピ〇ラさんのぬいぐるみをプレゼントしたり、そのぬいぐるみで寝ているアヤベさんの写真がカレンチャンから送られてきたりもしたのだが。

それはまた別のお話だ。


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