ゴブリンスレイヤー×プレデター ~The invisible Hunter~   作:まるっぷ

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第10話『立て直し』

 

燃え盛る炎を背にする狩人(ハンター)

 

その黄色く光る眼は、真っすぐに目の前にいる獲物―――ゴブリンスレイヤーを睨みつけている。

 

(しくじったか……!)

 

狩人の注意を引く意味も込めて立ち上がり、蜥蜴僧侶に向かって声を上げた事が仇となった。

 

窮地に追いやられたゴブリンスレイヤーは、鉄兜の奥で思考を巡らせる。

 

「大丈夫か、鱗の!」

 

一方の鉱人道士と女神官は、何らかの攻撃を受けた蜥蜴僧侶の元へと辿り着いた。

 

彼は網のようなものに捕らわれていた。その剛力でも引き千切る事が出来ない網は、しかも徐々に蜥蜴僧侶を締め上げているではないか。

 

「待ってろ、今切っちゃる……」

 

「なりませぬ!」

 

腰に差した斧を手に、網に触れようとした鉱人道士を蜥蜴僧侶が制する。

 

そこでようやく、女神官は気が付いた。鱗に覆われたその肌に、ゆっくりと網が食い込んでいる事に。

 

「あの亡骸を思い出しませいっ!」

 

「あっ……!?」

 

鎧と木片、そして肉片とが一緒くたとなった赤黒い山。つまりは、道中で発見した異様な冒険者の遺体。

 

いかなる手段であのような惨状を生み出したのか。その答えが今、女神官の目の前にあった。

 

「ぬ、ぐぅ……!!」

 

「ど、どうすれば……!?」

 

「落ち着け!締め上げとるっちゅう事は、どっかに起点があるはずじゃ!」

 

慌てふためく女神官をなだめつつ鉱人道士は冷静に網の解除、あるいは破壊に取り掛かる。

 

擬竜(パーシャルドラゴン)》によって強化された肉体とはいえ、金属さえも切断する網は、そうしている間にも確実に蜥蜴僧侶の身体に食い込んでゆく。

 

もはや彼の命は風前の灯火も同然。

 

その火を吹き消す必要もないとばかりに狩人は、ゴブリンスレイヤーへと襲い掛かった。

 

「GORARR!」

 

泥に塗れた鉤爪が唸る。

 

斜め上からの振り下ろしをどうにか回避するも、それだけで終わるはずもない。仕留め切れなければ、狩人は何度でも振るうまでである。

 

まともに食らえば即死の猛攻に、ゴブリンスレイヤーは反撃の隙すら見出せない。彼我の距離を見極め、かろうじて攻撃を避けるので精一杯だ。

 

(手がない訳ではない、が……)

 

脳内で戦術を組み立てるも、余りに状況が悪すぎる。上手くいく保障もない。

 

何より()()を実行するには狩人が取る行動と、決定的な隙が必要だった。

 

「くっ……!」

 

状況を覆さなければならない。

 

その為に取るべき最善の行動はなにか。

 

考えるべき事は多く、時間にも迫られ……その焦りが、ゴブリンスレイヤーの動きを僅かに鈍らせた。

 

「がっ―――!?」

 

腹部に叩き込まれた狩人のつま先。鎧で固められているとはいえ、その衝撃は凄まじいものであった。

 

勢いを殺しきれず、彼の身体は背後にあった木にぶつかりようやく静止した。喉から、否、その更に奥から血の味がこみ上げてくる。

 

「ゴブリンスレイヤーさん!?」

 

木に背中を預ける形で動けずにいるゴブリンスレイヤー。彼の鼓膜が、女神官の悲痛な声を拾い上げる。

 

鉄球のように重い頭をあげれば、目の前には狩人が立っていた。泥に塗れた鉤爪は無常にも、すでに振り上げられていた。

 

「ぐっ、ぉ……!」

 

動かねばならない。その為に必要な呼吸をしようにも、せり上がった血の塊が吐き出されるだけ。

 

命の灯火が、今にもかき消えてしまいそうに揺れている。憐れな冒険者の亡骸がまた一つ、この四方世界に生まれようとしている。

 

しかし、そうはならなかった。

 

ひゅん、と、風を切る音。

 

同時に、狩人の背中に一本の矢が突き刺さった。

 

 

 

§

 

 

 

「無視するんじゃないわよ!」

 

狩人の背に、妖精弓手の声が叩きつけられる。

 

高所から落下した彼女であったが、流石は森人と言うべきか。切り裂かれた足首以外に大した傷も負わず、こうして再び援護してのけたのだ。

 

「CURRR……!」

 

(ことごと)く入る邪魔に、狩人は怒気を隠しもしない唸り声を漏らした。

 

それは彼女らに対してのものではない。複数の獲物を同時に相手取っているのだ。なれば、それら全てに気を払わねばならぬのは当然の事。

 

そんな当然の事さえも失念し、こうして不意打ちを食らわされた己の落ち度。それに対する怒りであった。

 

「GURR……GOAAR!!」

 

修行が足りない。鍛錬が足りない。手負いの相手でなければ、先の一射で後頭部を貫かれて終わっていたかも知れない。

 

慢心が無ければ負わなかったはずの傷。その恥を跡形もなく消し飛ばすべく、狩人は閃光を放たんとぐるりと振り返った。

 

大きく目を見開く妖精弓手。

 

瞬時に狙いを定める三つの赤い点。

 

それが彼女の額に浮かび上がった、直後。

 

狩人の身体に、どん、と衝撃が走った。

 

 

 

§

 

 

 

ゴブリンスレイヤーが動いたのは、狩人が振り返った直後であった。

 

雑嚢をまさぐり、目的のものを引っ掴み、狩人に飛びかかる。狙いは肩口の、閃光を発射する武装だ。

 

「GURARR!」

 

「ぐっ……!」

 

不意を突いたものの、力の差は歴然。奇襲を許すはずもない狩人は即座にゴブリンスレイヤーを引っ掴み、簡単に引き剥がした。

 

地面に叩きつけられる身体。肺から空気が吐き出される。

 

すぐには動けないと踏んだ狩人は、まずは目障りな妖精弓手から排除すべく再び標準を定め、閃光を放った。

 

直後である。

 

「GA―――!?」

 

肩口の武装が爆発を起こした。

 

顔の真横で発生した衝撃は狩人をして大きく体勢を崩されるほどの威力であった。

 

何が起こった。何をされた!?

 

異常の原因を探ろうと思考するも、爆発の影響で一時的な聴覚障害、及び三半規管の混乱による平衡感覚の喪失が狩人を襲う。

 

故に、狩人は気が付かなかった。ゴブリンスレイヤーが己の武装の一つを奪った事に。

 

「走れ!」

 

目的を果たしたゴブリンスレイヤーは倒れた狩人を無視し、一目散に走り出す。無論、蜥蜴僧侶の元へだ。意図を理解した妖精弓手は、痛む足を動かし彼の背を追う。

 

「かみきり丸!」

 

状況が覆った事を理解した鉱人道士が手を差し出す。一刻も早く蜥蜴僧侶を救出すべく、狩人から奪った武器を投げて寄越せという合図である。

 

しかし、ゴブリンスレイヤーはそうはしなかった。

 

奪った武装……あの鋭利に過ぎる投擲棍棒(ブーメラン)を決して落とさぬようしっかりと握り、走る勢いのまま鋭利な網を切り裂いた。

 

「ぐっ、う……!」

 

途端、ばらりと網の呪縛から解放される蜥蜴僧侶。

 

網目状の裂傷が全身に刻まれ、血に塗れた装束は襤褸切れ同然。

 

重傷ではあるが、瀕死とまではいかない。治療が必要な傷ではあるが、それはここではない。

 

「離れるぞ、手を貸せ」

 

「言われんでも!」

 

蜥蜴僧侶の巨体を、ゴブリンスレイヤーと鉱人道士が左右から支える。

 

この場で狩人に止めを刺すよりも、仲間の命を優先しての行動であった。追いついた妖精弓手も女神官の手を借り、急いでこの場から離れていった。

 

残されたのは狩人ただ一人。

 

未だ取り戻せぬ平衡感覚に苦しみつつも、狩人は地面に手を突き、立ち上がろうと藻掻(もが)く。

 

やがて雨が降ってきた。

 

勢いよく降り注ぐ雨粒に、炎に包まれていた森が徐々に鎮火してゆく。狩人の身体に付着した泥もまた、剥がされてゆく。

 

同時に、その身体に紫電が走った。いかなる理由か、雨によって不可視が解かれた狩人は、しかし慌てる事なく再度展開させようとする。

 

そこで気が付いた。

 

己の武装が一つ、奪われている事に。

 

「……GA」

 

慢心。失態。それを(そそ)がんが為に起こした行動が招いた、それ以上の失態。

 

獲物に武器を奪われるという、狩人にとってあるまじき屈辱。

 

「GAR……GURRA……!」

 

(マスク)で隠された表情が歪む。そこに浮かぶ感情の色は、ただ一色。

 

「……GOOAARAAARRRR!!」

 

消えたはずの炎がそのまま乗り移ったかの如き赫怒(かくど)と共に、凄まじい咆哮が轟いた。

 

 

 

§

 

 

 

ゴブリンスレイヤーたちは、すでに燃え盛る森から脱出していた。

 

現在、一党が進んでいるのは女神官が斜面を転がり落ちた方向である。彼女が振り返ると、そこには徐々に大火と呼べる規模にまで成長しつつある炎の塊があった。

 

「ゴブリンスレイヤーさん、森が……!」

 

「分かっている」

 

このままでは大規模な山火事に発展してしまう。女神官の危惧している事を理解しているゴブリンスレイヤーは、短く指示を飛ばす。

 

「雨を降らせろ」

 

「おうとも」

 

応じた鉱人道士は鞄から小さな馬の人形を取り出し、それを握りしめ詠唱する。

 

「《駆けろや雨馬(ケルピー)どんと行け、土から森川、海から空へ》」

 

雨乞(コールレイン)》を行使した途端、現れた雨雲からぽつぽつと雨が降り始める。

 

それはやがて大粒へと変わり、あっという間に俄雨(にわかあめ)へと転じた。

 

「明かりが無くなっちまったが、まあ、しゃあねぇわな」

 

「あの場で仕留め損なった時点で、もう意味はない」

 

何より、近くには村もある。

 

村人たちの中には狩猟で生計を立てている者たちもいる。彼らの生活も考慮せずに好き放題にやらかしては、それはもう冒険者とは呼べぬ(やから)である。

 

失敗した作戦には早々に見切りをつけ、次なる手を打つべきだ。その事に気が付かないものなど、この中にはいなかった。

 

「ところでかみきり丸や。お前さん、どうやってあの爆発を起こしたんじゃ?」

 

蜥蜴僧侶の巨体をどうにか支えつつ歩く鉱人道士が、不意にゴブリンスレイヤーへと質問をぶつける。

 

それに対し、彼は自分がした事を端的に説明する。

 

「火の秘薬と投適用のナイフだ」

 

泥によって姿を現した、閃光を放つ武装。その射出口と思しき箇所に火の秘薬が入った革袋と、投適用のナイフを叩き込む。

 

火に秘薬単体では瞬間的な発火は起こせても爆発はしない。しかし射出口をどうにか塞いでしまえば、或いは……というのは、小麦粉を使った以前の戦術からの発想であった。

 

「思い付きで出た博打だったが、運が良かった」

 

事も無げにそう言って見せるゴブリンスレイヤー。

 

柔軟な発想と言えば聞こえは良いが、あの局面でそれを思い付き、実行に移すとは。

 

「ほんと、怖ぇこと思い付きよる」

 

「はは……それでこそ、小鬼殺し殿でありますな……」

 

感心すべきか、呆れるべきか。

 

どちらともつかぬ表情を浮かべる鉱人道士に、話を聞いていた蜥蜴僧侶が深手を負いながらもいつもの調子で笑って見せる。

 

見れば、すでに出血も治まりつつある。流石は沼地の戦士と言うべきか。

 

「……待って!」

 

と、そんな時だった。

 

女神官の肩を借りていた妖精弓手が、一党の歩みに待ったをかける。

 

「どうされましたか?」

 

「……水の音が聞こえる。この先の……そこからずっと下の方から」

 

「それって……」

 

その報告に、女神官は僅かに目を見開いた。

 

辺りの景色は変わらない……否、僅かではあるが、木々の姿が少なくなっているようにも思える。

 

「……進むぞ」

 

胸中に広がる嫌な予感に毒されつつも、ゴブリンスレイヤーの号令のもと、一党は進み続ける。

 

やがて更に木々が少なくなり、背後から聞こえていた雨音も止み、月明りが彼らの姿を照らし出した頃……歩みは止まった。

 

終着点は、崖だった。

 

道を失った下からは、ごうごうと荒い水音が響いている。

 

「そんな……!」

 

女神官の予感は的中していた。

 

もしかすると、外れてほしいと願っていたのは彼女だけで、ゴブリンスレイヤーたちはこの景色に出くわす事を理解していたのかも知れない。

 

それでも進むしかなかった。背後には今も、こちらを執拗に狙う狩人がいるのだから。

 

「こりゃあ相当深いの。落ちたらひとたまりもないわい」

 

「川も流れが早いし、深いわ。どこに通じてるか分からないけど、辿り着く前に溺れちゃいそう」

 

まさに自然が作り出した光景。

 

崖から落ちた者をそうそう生かしては帰さぬという自然の酷な一面を前に、一党はとうとう追い詰められてしまう。

 

……GOOAARAAARRRR……!

 

狩人の咆哮が空気を揺らす。

 

同時に、退路は完全に閉ざされた事を知る。

 

「いよいよ不味(まじ)ぃぞ、こりゃ……!」

 

鉱人道士の頬に汗が流れる。

 

彼だけではない。蜥蜴僧侶も妖精弓手も、女神官も。間もなくやってくるであろう狩人に、その表情を固くした。

 

そんな中であって、ゴブリンスレイヤーは静かに言い放った。

 

「ここで迎え撃つぞ」

 

手はある。いつだって。

 

これまでもそうしてきた様に―――ここでも、そうするだけなのだ。

 




随分と遅くなってしまいました。すみません。

新作「プレデター:バッドランズ」の公開も近いので、何だかやる気が出てきました。エイリアンシリーズとも絡めているみたいなので、今からワクワクが止まりません!

そしてデク可愛いよ、デク……。
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