薄いです。
歩き始めてどのくらいたっただろうか…
バッテリーの残り少ないスマホで時間を確認し、自分が1時間ほど歩いたことを確認し再び歩き出す。
ホテルを出る前に家までに掛かる時間は2時間40分と確認をしていた僕こと、太田は
『まだ掛かるな。』
心の中でそう言うと、ふと先程の出来事を思い返した。
「あの、ダメ男さんで合ってます?」
ホテルのロビーで既に待っていた僕は声をかけてきた若い女性に
「はい、そうです。」
とあまり愛想がいいとは言えない態度で答える。
部屋に入り、互いの準備が終わり向き合って数分が経過していた。
「あの、」
女性が言いづらそうに言う。
「そっちがそうだと何も出来ないから帰ってもいいかな?」
いつまで経ってもヤル気を出さない息子を見て
僕は少しヘラヘラしながら
「ハハ、少し緊張しちゃって…
抗うつ薬のせいもあるかもしれません。」
女性は先程の投げやりな言い方ではなく少し興味を持ったように
「え、何? あんた鬱なの? いま働いてないんだよね? じゃあさっきのお金は? まさか、親からじゃないよね?」
「自分のお金ですよ。 鬱になってからは働いてないですが。」
すると彼女は少し怒ったような表情になり
「鬱って自分に言い訳付けて働かないのに女の子買う余裕はあるんだ?」
とこちらを煽ってきた。
そう、彼女の言う通りなのである。
しかし、自分で理解出来てることを言われた事に理不尽に少しだけ腹を立てた僕は
「やる事もやりたい事もない。何より自分のお金ですよ?どう使っても良くないですか?」
と言うと彼女は直ぐに語気を強め
「それが言い訳だって言ってんのよ。 何も無いわけないじゃん。こうして外出て初対面の人とホテル入ってる時点でもう行動を起こせる程度には回復してるんでしょ?」
またも事実を突きつけられ、僕は何も言えなかった。
彼女の言葉の1つ1つが心に刺さるようだった。
そして少し間が空いた後に、僕は蚊の鳴くような声で
「…スミマセン。」
とだけ言うとまた黙り込む。
すると彼女は軽くため息を着きながら
「私に謝って何になんの? 自分のことでしょ?」
といい、それに対して僕はまた
「スミマセン。」
とだけ返す。
すると、彼女は今度は大きくため息を着いて僕の目を覗き込んで続ける
「そりゃ、いまのあんたみたいに謝ってばっかいたら鬱にもなるわ。わたしだって、鬱で数ヶ月入院してたんだよ?でも、今はこうして元気に身体まで使って夢を叶えるために頑張ってんの。あんたまだ若いみたいだし、やりたい事なんてこれから見つけんじゃないの?自分で探す努力して、今の自分変えないと、誰の人生なの?あんたのでしょ?」
まさか、こんなところで人生観の話をするとは思っていなかった。
彼女の言葉は何故こんなにも刺さるのだろう。
そう考えてるうちに彼女はまた口を開く
「あんた家族は?」
急な話題展開についていけず『?』となっていると
「だから家族は?相談とか出来ないの?友達は?」
ようやく質問の意味を理解した僕は
「家族はみんな気を使ってくれています。友達には…鬱って事も言ってないです。」
すると彼女は呆れたような顔で
「はぁ?友達なんでしょ?なんで相談しないの?それで偏見持ったり、何か言ってくるやつは友達じゃないよ。それともそういう奴しか居ないの?」
この部屋で、彼女と話をして、この短い時間のやり取りだけで僕の中の何かが変わった気がした。
鬱になってから今までこんな気持ちになったことは無い。
その気持ちに浸っていると、突然、彼女はこういった
「じゃあ、私帰るね。
やる事やらないなら、わたしは別でやりたいことあるし。」
そう言うとさっさと帰る準備を済ますと最後に
「あんたはさ、まだ充分やり直せるじゃん。誰かに相談もせずにウダウダ言ってんのなんかもったいない。それじゃ」
バタンと扉が閉まる。
『何やってんだよ、僕は… 』
とっくに終電の時刻は過ぎており、歩いて帰るしかない。
幸い、駅沿いのホテルで帰り道も分かる。
支払いを済ませ、足早に部屋を出る。
そして夜の心地よい夜風にあたる。
今日のことは人生で忘れることのない日になっただろう。
陰鬱とした気分を変えてくれた彼女には感謝しかない。
読んでいただきありがとうございます。