皇帝と帝王と、折れた杖   作:スライム小説家

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3話 答えのある場所

あの後、私は目を覚ましたら保健室に居た。あまりよく覚えていないのだが、昨日カフェテリアで倒れてしまったらしい。流石に一睡もしなかったのは不味かったのだろう。

にしても、シンボリルドルフにはお礼を言わなくては。倒れた私を自室まで運んでくれたというのだから、本当に頭が上がらない。

 

そう考えながらシンボリルドルフを探していると、少し離れたところで彼女が誰かと話しているのを見つけた。話している相手の方はかなり若い女性のようだが、いったい誰なのだろう。気になった私は、二人の方へ近づいてみることにした。

 

すると、こちらに気付いたシンボリルドルフが話しかけてきた。

 

「おや、トレーナー君。体調は大丈夫かい?昨日はいきなり倒れたものだから、吃驚したよ」

 

「いやあ、昨日は迷惑かけてごめんね?最近ちょっと寝不足気味で………でも、もう平気だから」

 

「トレーナー君、油断は良くないぞ。まだ君の顔色は余り良くないように見える」

 

「いやいや、流石にもう大丈夫だよ…」

 

少しの間、そんな風に彼女とやり取りをしていると、さっきまでシンボリルドルフと話していた女性がこちらを凝視してくる。何か私の顔にでもついているのだろうか?

 

「あ!すみません、先日ルドルフさんとカフェテリアでお話ししてらしたトレーナーさんですよね!?」

 

「は、はあ。まあそうですけども、何故貴方がそれを…」

 

そう問いかけると、女性は慌てて鞄から名刺を取り出してこちらに渡してきた。

 

「あ、すいません。私こういうものでして…」

 

ふむ、月刊トゥインクル専属記者の乙名史悦子さんね。

 

「成る程、報道関係の方でしたか」

 

「はい!シンボリルドルフさんほど有名な子が選抜レース直後というタイミングでご一緒されていたということで、我々もお二人の関係について注目していまして…」

 

「はは…私たちは予想以上に衆目を集めていたらしいね」

 

言われてみれば、当然だ。この時期にデビュー前のウマ娘と一緒に食事など傍から見れば、契約秒読みに見えるに違いない。まあ、実際はそんなことは無いだろうけど。

 

「そんな、ルドルフさんと距離の近しいトレーナーさんにお願いがありまして…」

 

ふむ。

 

「今日1日、ルドルフさんに密着して写真を撮っていただけませんか!?」

 

えっ。

 

「急に巻き込んですまないね、トレーナー君。実は、私の素顔に迫りたいという内容の取材を受けているのだよ。ただ、私も取材陣に囲まれているとそれ相応の振る舞いをしてしまうからね」

 

「それで、ならばルドルフさんと親しい人物に代役を頼めば…という話になりまして」

 

う、うーん。シンボリルドルフから問われた『本来の答え』が全く分からないままにタイムリミットが迫っているわけ現状、そんなことをしている余裕は無いし…

 

「トレーナーさんの前でなら、ルドルフさんもリラックス出来ると思うんです!カメラで写真を何枚か取るだけで良いですかので!お願いします!」

 

「私からも頼むよ、トレーナー君。君ならば、きっと適任だと思うんだ」

 

結局、断り切れなかった私はを引き受けてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

そういう訳で、今日は1日付きっきりでシンボリルドルフを取材(それとも写真撮影?)することになってしまった。何でも、今日は少し様子が気になっている新入生の為に『対策』とやらをするらしい。

 

一体、どんなことをするのだろうか。そう考えながら彼女に付いていくと、着いたのはトレーニングルーム。そこに居たのは、トレセン学園でも別格と言えるレジェンドウマ娘だった。

 

「おっと………やはりここに居たか、マルゼンスキー」

 

「あら、ルドルフ!と………こんにちは、トレーナーさん♪なんだかあたしを探していたみたいだけど、なにかご用かしら?」

 

不思議そうな顔でそう問いかけるマルゼンスキーに、早速シンボリルドルフは本題を話し出す。

 

「ああ、グラスワンダーという新入生のことで、君に頼みがあってね」

 

「グラスワンダーちゃん!知ってるわ、お淑やかで可愛いわよね♪あの子がどうかしたの?」

 

「学園のコースに慣れていないからか、スタートの課題を抱えているようなんだ。君から、何か助言をしてやってくれないか?」

 

「グラスワンダーちゃん、そんな状況だったの?やっぱり環境が変わると適応するのも大変なのかしら………まあ、そういうことなら全然オッケーよ♪」

 

 

 

 

 

 

数分後、シンボリルドルフの案内で私たちはグラスワンダーの元へとやってきていた。成る程、確かに遠目で見ても調子が凄く悪そうだ…

 

「あら…本当にしょんぼりしちゃってるわね。よーし、お姉さん張り切っちゃうわよ~!」

 

「ああ、後のことは頼んだよ。マルゼンスキー」

 

見かねたマルゼンスキーがあっという間にグラスワンダーの方へ走って行くと、この場には私とシンボリルドルフだけとなった。

 

「ずいぶん、面倒見が良いんだね。ウマ娘1人1人に丁寧に対応するのは大変じゃない?」

 

何となく、シンボリルドルフにそう聞いてみる。正直、ここまでする必要があるのだろうか…

 

「大変などではないさ。この学園に入ってくるウマ娘たちは皆、素晴らしい可能性を持っている。夢と希望にあふれた彼女たちにとって、少しでも役に立てたのなら十分かけた労力に見合っているだろう。それに………」

 

それに?

 

「どの子らにも、笑顔でなって欲しいんだ。全てのウマ娘が幸福な世界にしたいんだ」

 

「難しいことは重々承知だが、これは私がここまで頑張れた理由の一つでもあるんだ。絶対に実現してみせるよ」

 

そう言い切った瞬間のシンボリルドルフの瞳は、情熱の炎が紅く燃え滾っていた。

 

「………君も、君でさえも世間を知らない小娘の、愚かで甘い夢と思うかい?」

 

シンボリルドルフが不安そうな表情で、そう問いかけてくる。それに対して私は何も言えないまま………

 

 

 

バッチグーよ!凄いじゃないグラスワンダーちゃん!

 

私たちの会話は、聞こえてきたマルゼンスキーの言葉で唐突に終了した。

 

「マルゼンスキーさん、本日はありがとうございました!」

 

「どういたしまして♪力になれたのなら良かったわ」

 

どうやら、あちらの方は既に解決したらしい。グラスワンダーの方を見てみれば、見違えるほどに様子が良くなっていた。

 

「実現までの道は果てしなく遠い。だが………あれがいつまでも続くように願う…その事に何の躊躇いがあるだろう」

 

そう呟きながら、笑顔で二人を眺めるシンボリルドルフ。今の彼女は、選抜レースで見た時よりもさらに輝いていた。

 

 

 

 

 

 

………そうか、何も悩む必要なんて無かった。答えは、ここにあったんだ。

そう思った時、既に私はカメラのシャッターを切っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………私に走る意味を与えてくれた君は、もう居ないんだね

 

そんな小さな嘆きは、誰にも気づかれることはないまま風に流されていった。

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