皇帝と帝王と、折れた杖   作:スライム小説家

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4話 よろしく頼むよ

遂に、シンボリルドルフの選抜レースから3日経った。そう、今日がシンボリルドルフから課せられたタイムリミットだった。

今日、私はシンボリルドルフに何故彼女をスカウトしたのかを答えなければならない。それも、彼女の納得のいく答えを。

 

不思議と、焦りはなかった。

 

「さてと、行きますか」

 

 

 

 

 

「では、トレーナーくん。最後は…君の番だよ。さあ………君の答えを聞かせてくれたまえ」

 

シンボリルドルフが、重苦しい雰囲気で私にそう問いかける。その目は、私を見ていなかった。どうやら今の私は相手にもされていないらしい。………まあ、前の2人が良かったし、仕方ないだろう。

 

 

 

1人目の中年男性は、『必ず強くし勝利を掴ませるため』そう答えて、3年分のトレーニング表を用意した。

2人目の女性は、『確実な勝利へ導くため』そう答えて、レースに勝つための作戦を詰め込んだノートを用意した。

 

2人の答えは、とても納得のいくものだった。用意した資料の出来も、力が入っていて、優れていた。

………一昨日までの私も、この2人と同じような答えを出していたのだろう。でも、今の私は違う。

 

 

 

シンボリルドルフの問いに答えるために、先日撮った写真を彼女に見せた。

 

「む?これは、私の写真かい?グラスワンダーにマルゼンスキーを引き合わせた時の………?」

 

「これが…君の答えなのかい?」

 

その瞬間、彼女は私を見ていた。

 

「端的に言っちゃうと、そうだね。私の答えは………私が貴方と見たい景色は………」

 

 

 

 

 

 

「貴方が、皆と笑顔で走っている景色かな」

 

 

 

 

 

 

選抜レースの日、私が見たあの輝きは、シンボリルドルフの()()()()()()()()のだろう。それはきっと、彼女が全てのウマ娘の幸福を目指して()()()()()()()()()そのものだったのだ。

 

………こりゃダメかな。シンボリルドルフも、呆れたのか固まって何も言わない。そりゃそうだ。トレーナーがウマ娘を強くする事、勝たせる事以外に一番の価値を見出すなんてどうかしてる。

 

 

 

まあ、でも。言いたいことが言えたし良いや。

 

 

 

「………これからの3年間、よろしく頼むよ、トレーナー君」

 

 

 

 

 

 

 

 

………へ?

 

 

感傷にひたっていたら、なんか選ばれていたんだが。

 

 

「そうか………残念だ、とても」

 

「後のことは任せましたよ。………彼女に、必ず素晴らしい走りをさせてくださいね」

 

2人のトレーナーは、名残惜しそうにその場を立ち去って行った。後に残されたのは、私とシンボリルドルフだけだ。

 

「…いやいや、何で!?何で私!?他の2人、凄く優秀だったのに!」

 

「そうだね。きっと、彼らと組むことが出来たウマ娘であれば幸福な時間を過ごすことが出来るだろうな」

 

そうだ。その通りだ。あの2人のトレーナーには、実績も、経験も、実力も…何よりも『シンボリルドルフを活躍させる』という熱意があった。対して私は、熱意以外の全てが足りていない。出した答えも一回目と今で全く異なっていて一貫性がない。

 

「どうして、私を………?」

 

思わず口に出てしまった、そんな疑問に彼女はまっすぐ私を見て答えた。

 

「どうして君を選んだか、だって?答えは明白だよ」

 

「君は、再び私と同じ視座に立ってくれた。私に教えてくれた時と、同じように。そして………」

 

再び?教えてくれた時?一体何の話なんだ、それは?それに何故、私が選ばれているんだ?選ばれてしまったんだ?ああ―――ダメだ。上手く頭が回らない。今、何が起きているのか全く分からない。

 

「君と同じ志を抱いて突き進めることが、予想以上に嬉しかった。だからだよ」

 

シンボリルドルフは、どこか恥ずかしそうに頬を紅くしながらそう言い切った。

―――今からでも遅くはない、彼女のトレーナーを辞退した方が良いかもしれない。

 

「トレーナー君?」

 

まだ、私は彼女に相応しいトレーナーになれていないのだから。最強のウマ娘を育てる能力がないのだから、やはり止めた方が賢明に思えてきた。

 

「…トレーナー君」

 

いや、彼女を最強のウマ娘に出来ないなら止めるべきだ。私の直感が、経験が、過去がそう言っている。

 

「ねえ、シンボリルドルフ。やっぱり私やめ「よろしく頼むよ、トレーナー君」………え?」

 

急激に、空気が重くなる。口が動かせなくなる。息が苦しい。何だこれは。拒否はさせない、もうお前に選択肢は無いんだとでも言わんばかりのプレッシャーが私に襲い掛かってくる。そして、それを発しているのは、目の前の彼女だ。

 

「もう一度言おう。よろしく頼むよ、トレーナー君

 

思わず、その瞳を見る。ぽっかりと何かが空いていたそこには、私しか映されていなかった。

ああ、これは―――底なし沼だ。

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