姫ギルに転生しましたが、どうやらFate世界では無いようです。 作:Shohei Hayase
転生、とは何だろうか。
仏教あるいはヒンドゥー教に存在するこの概念だが、大体は自分が自分であるという意識を持たぬままに転生する。
自分は転生を信じるかどうか……という点については、実証主義的観点から否定的だった。
だってそうだろう? 誰だって前世の記憶を覚えている者はいない。よしんば前世の記憶というものがあって、その予言なり何なりが当たったとしても、それが偶然であるか本物の前世の記憶であるかを検証する術はない。
無論ないことを完全に証明するのは極めて難しいが……少なくとも極一般の人間にそのようなことが起きるとは思えないのも、また事実だ。
……ここまで語っておいてあれだが、俺はどうやら輪廻転生というのを体験してしまったらしい。体験してしまった以上は、この世に輪廻転生というものが存在することを認めざるを得ない。
……が、しかし。
しかしだ。
(転生先が女で姫ギルってどうすりゃいいんだゴルァーーーッッ!!!)
転生したというのに会った記憶の欠片もない神様とやらに、俺は心からの罵倒を捧げた。
◇◆◇◆◇◆
えーと、俺は25歳のフリーター、名前は……駄目だ、出てこない。
どうやら前世最後の記憶……今どき流行りもしない
んで翻ってマイボディ。年の頃は5〜6歳だが将来有望な美幼女。金髪赤目というどっからどうみても忌み子染みた色合いの割に、施設では苛められる事もなく悠々自適な日々を過ごしている。
……そう、施設。施設なのだ。
どうやらこんな面構えの俺を生んだせいで、父母は相当に争ったらしい。母は父に不貞を疑われて離婚、その原因の俺を愛せるわけもなく、かと言ってお腹を痛めて生んだ子に親としての矜持を捨てられるわけでもなく……妥協案として、俺は施設に預けられた。
(ごめんなさいね、中身こんなんだって知られたら今度こそ殺されそうだから言えないけど)
まぁ路頭に迷うよりはマシだから、感謝はしている。
それが1つ。もう1つは、俺が下げているネックレス。
王律鍵バヴ=イル。Fateという作品の「ギルガメッシュ」というキャラクターが持っている……なんか凄いやつ、で、それに触れた瞬間出るわ出るわ知識の渦がゴチャゴチャと。それがコイツの能力だから、仕方ないのだが。
この鍵が開くのは、ギルガメッシュの宝具たる
これ持ってて女性の金髪赤目、それはもう姫ギルしかないだろう……と言う訳です。
施設の個室で試してみたが、本当に何でも出てくる。剣、槍、銃、金、聖杯などなど……ざっと思いついただけでもジャラジャラ山のように出てくる。乖離剣ナンチャラ君も取り出せたし、これはほぼ確定と言っていいのでは?
「というか、こんなことになるってのが訳わからんな……ここは現代日本なんだぞ?」
口を開けば、やや低めだが確かに少女とわかる甲高い声。ギルガメッシュの口調じゃなくてよかった。あんなのが現実に居たら爆笑必至だ。
Fate世界よろしく魔術なんてものはこの世界に存在しない。
ただ俺だけ、ただ俺という異物が、この世界に存在している。
「何故だ? 何故こんなことになっている?」
記憶はない。しかし知識はある。この体と、英霊ギルガメッシュが所持する能力、宝具についての知識と、前世で25年生きて培ってきた知識が。
……とは言え。
「何をすれば良いのやら……いや、金か。世の中結局金だもんな」
王の財宝から貴金属や宝石類を取り出す。
子供の拳ほどの大きさがあるダイヤモンドが10個程出てきたので慌てて元の場所に戻した。
(売れるかあんなのーっ!!)
世界最大のダイヤモンド原石であるカリナンが重さ620g、先程のダイヤはカット済みで630g。もうアホかと。
こんな王室に寄贈するレベルのものを個人で売買するほど怖いことはない……というか確実に突っ込まれる。
(小さな宝石は……無いか。というかカット後300g以上の宝石しか出てこねぇ。世界でデカい宝石が見つからない理由が分かった気がするぞ)
この宝物庫の持ち主であるギルガメッシュという男……いやキャラか? は、とにかく面倒な性格をしている。
面倒……うん面倒だな。ギルガメッシュ視点での慈悲だろうと人を殺すのは倫理的に駄目だ。それは俺の思想として一貫している。
それが出来てしまうのがギルガメッシュだ。この上なく人の我欲を煮詰めたような男で、だからこそ質が悪い。
(俺は普通だ。ギルガメッシュとは違う。俺は法に則り倫理を良しとする。それが最優先事項だ)
それがこの世界に生きる者としての、そして今を生きる現代人としての矜持。
バヴ=イルの取っ手を捻り、今外に出ているものの全てを仕舞う。
知識として残ってはいるが、やはり実際に施設を見て回るのも必要だろう。そう考えて、個室の扉を開ける。
あらかたの設備を見て回って、玄関に向かう。
見ると、施設の職員に連れられて、一人の少女がこちらに向かってくる。
なんの気無しに廊下からそれを眺めていると、眼の前の少女が数度ブレるかのような違和感に襲われる。
「……千里眼、か?」
そう言って、すぐさま否定する。千里眼は未来を見るもので、観察対象がブレるようなものではない。これはどちらかと言うと……
(
幾重に重ねられた欺瞞さえも一瞬で見通し、真実を開帳するギルガメッシュの宝具。
宝具が反応するほどの何かがこの少女にある、と理解した俺は、上がり框のギリギリまで歩みを進め、彼女が玄関の扉をくぐるのを待った。
「あら、こんにちは。今日からこの施設で生活することになった星野アイさんよ。ほらアイさん、挨拶して」
施設の職員が、彼女の名を呼ぶ。
「星野アイです、よろしくお願いします!」
可愛らしく微笑み、お辞儀をする少女、だが宝具が勝手に起動し、彼女の隠された真実を暴き出す。
《 見なければそれは
……何もない。あれ程までに見目よく挨拶してみせた彼女だが、その心の裏には、果てしない「無」が広がっていた。