姫ギルに転生しましたが、どうやらFate世界では無いようです。 作:Shohei Hayase
衝撃的な少女……星野アイとの邂逅は、出会った日は挨拶を交わしただけだった。しかし俺は彼女に気に入られたのかどうなのか……頻繁にアイに絡まれるようになった。
「ねぇねぇ玲奈ちゃん、プリント見せて?」
「アイ、昨日渡された筈の物をどこにやったの……?」
おっと、自己紹介がまだだった。
アイにプリントをせがまれ、手元にあったプリントをアイに渡す。彼女はニコリと笑ってから両手を合わせ、先生の方に向き直る。
俺の方はプリントが無くても問題ない。この体のスペックが尋常じゃなく高いせいで、半ば完全記憶染みた力を以て頭の中にプリントを再現できるのだ。
そして身体能力も当然ながら化け物。今の状態でも、あらゆる競技において世界記録を塗り替える程度の身体能力が見込めるだろう。
……だが、正直に言おう、
Fate世界におけるサーヴァントというのは、大なり小なり差はあれど、高い身体能力を持っている。ギルガメッシュもサーヴァントである以上、たかが世界記録程度超えて当然なのだ。
導き出した結論は、俺を絶句させるに足るものだった。
この体は英霊ギルガメッシュを再現したものだ。だが、完全ではない。そもそも原典での設定では魔力体で本人の魂の一部を切り取った使い魔の状態なのだ。特殊な方法を用いて受肉するか、現世に留める楔であるマスターが居なければ、魔力に分解されて消滅してしまう。
ならば、実際に肉体を保ってこの世界に存在する俺は、一体何なのか?
答えは簡単、英霊ギルガメッシュの
まぁ、つまり『成長する余地が残っている、だから今は弱い』ということだ。
……それはさておいて。
肉体は弱くても、頭の方は変わらない。むしろこの体を得たことで、知的能力、認知能力は更に向上している。
とある哲学者の言葉を借りれば、「知は力なり」と言った所か。
前世ではフリーターまで身を落としたが、大学は出たのだ。記憶は吹っ飛んだが、エピソード記憶が消えただけで、その他の記憶は支障なく残っている。
なので小学校の授業など、退屈過ぎて欠伸が出るくらいだ。施設の本棚にある大学受験用の参考書を記憶領域に展開することで暇潰しをしているが、遠からずそれも読み尽くすことになるだろう。そうすれば……
(本格的に暇が到来する……!!)
だがまぁ、取らぬ狸のなんとやらという言葉もあることだし、一旦その未来予測を棚上げにする。
テストが返却される。俺は当然ながら100点、アイは……40点。
(……低すぎないか?)
小学校のテストは6、7割を超えて当たり前、という認識が俺の中にはある。高得点をつけてやる気を出させないと、勉強を嫌いになってしまうからだ。精神的に発達していない小学生の勉強のモチベーションは、他人に褒められることにある。そして、高得点であればあるほど他人から褒められやすい。
(どうにかしてアイに勉強を覚えさせないと……この後が困るだろう)
知り合ってから数ヶ月経って、友達と言える程度には会話を重ねてきたのだ。
アイは決して頭の回転が悪いわけではないのだが……彼女の頭の良さは勉強とは別のベクトルに向いているようだ。
先程も述べたが、「知は力」なのだ。もっと雑に言えば、「芸は身を助く」。身に付けたものが人生をひっくり返す起点になることもある。
無論それを実感できる環境にあるかどうかとは別の話だが、学べるのだったら学んでおいたほうが良い、というのはある種の一般論だろう。
「アイ、ちょっと見せて?」
テスト用紙を覗き込み、どこが間違っているのかを確認する。
(意見を記述する問題は全滅、漢字問題も正答率が低いな……けど)
登場人物の心情を述べる問題……これは全問正解していた。
(人間観察……そしてそれを自己に反映する能力、彼女の強みはそれか)
明確な得意不得意があるだけ良い。全てが平等に壊滅的であるよりはマシだ。
「えっと、あはは……」
「良かったら私、教えようか?」
「え、いいの?」
頬を掻くアイに提案する。
「もちろん。友達なんだし、遠慮なく頼ってよ」
勉強大事、超大事。
その念が伝わったのかは定かではないが、アイは数瞬迷ったような表情を見せながらも、軽く頷いた。
「わかった、それならお願いしようかな?」
姿がブレる。
《面倒だけど、友達だしなぁ……》
(……うん、まぁ分かってるよ。お節介もいいところだろうな)
まぁ、嫌われないだけマシか。傷ついてはない、いないぞ……
「それなら、早速勉強しようか。一緒の部屋に行っていいかい?」
「うん、いいよ!」
これは本心。それに内心安堵しつつ、記憶を引っ張り起こす。
英雄王スペックの頭脳は他人の教師役にはとても向いていないが、それは俺の経験から補正する。
3年で小学校の基礎力を固め、応用は義務教育のみならず高校大学の範囲まで網羅したパーフェクトなブートキャンプをご覧に入れよう。
アイに実施した勉強会の効果は覿面で、みるみる内にアイは成績を伸ばし、俺の得点と肩を並べるまでに成長した。
(応用まで行けなかったのが個人的には残念だが……仕方ないか。本来なら必要ない部分だからな)
元々のアイの地頭あってのこととはいえ、学年が上がるとやることが段違いに難しくなる。応用は早計だったと自省し、その計画は頭の中に仕舞っておく。
そんなことを続けているうちに、俺たちは小学校を卒業し、中学校に進学していた。